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脊髄北欧怪SS『本の海と終末探偵と助手。』 2022/07/16 (土) 23:30:59

『海』とは、よく表したものである。
天井から床まで、色とりどりの知識と静寂とが詰め込まれた、古き魔術師の書斎には、確かにその言葉が似合っていた。
……問題はこの『海』の中から、さる奇書を探し出さねばならない、という事だが。
背表紙を見てみると、詩集の隣には童話、その隣には漫画雑誌、その隣には百科事典……と、この『海』は現実のそれよろしく、ひどく無秩序であったからだ。
……もういっそ、此処で燃やした方が早期の解決になるのではなかろうか。
そもそも依頼人曰く、その奇書は稀なる叡智と、酷い呪いとに満ちた一冊であるから、なんとか探し出して対応したい、との事であった。
周囲の本からも、イヤな呪いの気配がする。やはり今此処で、なんなら書斎ごと灰にしても良いのでは。
よし、と炎の魔剣を引き抜くと、後ろから籠った足音が駆けてきて、音の主は瞬く間に自分に組みついた。

(うおおおおい!先行ったと思ったら、何やってんだこのインテリ脳筋ッ、燃やすなって言われたでしょうがッッ!!)

切羽詰まった顔で、そして小声で喚きながら、助手が『海』を抜けてきたのだった。

「そこまでわかっているのか、クク、流石は俺の『助手』だ。しかし惜しい、油を持って来たらば花丸だったがな」
「そして我々の上司はオフェリアさんで、その彼女が『燃やすな』っつってんですよ。燃やしたら我々は花丸どころか落第です。という訳だスルトさん、燃・や・す・な……!」

助手はそう、できる限り鬼の形相で凄んでくる。
それは別に何という事はないし、どうせ後で破壊しなくてはならなくなる確信しかないが、それでも、オフェリアに釘を刺されているのはどうにもならない。それは仕方がない。

「…………ン、了解した。お前とオフェリアの言う、平和的探索に努めよう」
「クッ、もう『後から燃やすんでしょ』みたいな顔してニヤけてやがる!ダメだこの巨人……早めに、早めに、なんとかしないと……!」

魔剣をしまい、改めて奇書を求め、自分と助手は『海』を行く。ささやかな波風(ノイズ)が、静寂を裂いていく。
……しかしニヤけている理由が『こう喧しい方が良い』と思ったからなのが見抜けないあたり、この助手、まだ、未熟である。

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