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脊髄北欧怪SS【終末探偵と深淵】 2022/05/28 (土) 23:44:04

むにゃむにゃ……と、幸せそうな言葉を溢しながら、近所の探偵事務所の職員は、夢の世界で眠りについている。彼方を渡る神子、とはいえ未だ幼い身を気にかけて、危険な教団の本部にまで自分の行方を探しに来てくれた人である。
こんな誠実な人を、どうしても血と背徳の香りがつきまとう、悪い子の旅路に付き合わせる訳にはいかない……いかない、の、だが。

「ふふっ……助手さん。あなたは私をよく、良い子だね、と褒めてくれるけれど。ごめんなさい。
私、もっとずっと我儘で、悪い子みたい」

きっと、きっとこの人がいてくれたら、あの世界での旅も楽しいだろう。
そんな、ただただ幼い嗜虐心と好奇心から、ただただ無邪気に眠る人に手を添え、深淵からの言葉を紡ごうとする。

「──否。させんぞ、アビーチャン。そっちのうつらうつらとしているソレは、俺の助手だ。今、此処で、即刻返してもらう」

鋭い声が聴こえると共に、夢の一部が切り裂かれる。その裂け目の向こうから、あの世界では『探偵』を名乗っている、眼鏡の向こうの瞳に炎を湛えた巨人が、燃え盛る剣を手にやって来た。

「あら、探偵の巨人さん。ごきげんよう。こんな所でお会いするなんて、思わなかったわ」
「呑気な世間話などしないし、二度も言わない。ソイツを返せ」
「もう、せっかちな方。でも、貴方にとって、それだけ大事な御友人なのね。お顔も怖くなってきているし……このままなら、私も、私のしたい事が出来なさそうだわ……残念」

今此処で、この巨人を相手取ると、それはそれできっと大変な事になってしまうだろう。心底惜しいが、ささやかな悪事(たのしみ)を諦め、巨人へと友人を返す。

「お前が聡明で何よりだ、アビーチャン。血と禁忌、深淵の旅路を行く神子よ」
「ステキな称号をありがとう。それはあなたなりの祝福と、受け取って良いのかしら?」
「悪いが、今世の俺は『探偵』だ。お前がギリギリ『良い子』でいる今の内は退くし、世間話もするだろう。
だが。お前がその鍵や茨で誰かを引き摺りこんだその時は、俺はお前の全てを燃やし尽くす」
「……まぁ。無遠慮な人。無慈悲な人。でもきっと、それで回したい何かがあるから、世界は貴方を呼んだのでしょうね」

きっと私の復讐(したいこと)にもあたりをつけてきたのだろうな、と、そっちは口にはせず、鍵で現への扉を開ける。
二人を出口へ招かんと振り向くと、巨人は友人を連れて、自分の作った裂け目から去った後だった。

「本当に無遠慮な人だわ、別にいいけれど。別にいいけれど。……嗚呼。やっぱりひとりは、ちょっとだけ、つまらないわ」

深淵にて、神子はひとり、拗ねるようにつぶやいた。

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