掌編小説あるいはショートショート部の基地

どこかの共和国。

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お前は今何処にいる?と聞かれたならば、世界の何処か、としか言いようがない。
もっとも、日本語でそう尋ねられる事はないだろうが。
英語はわからない。
黒人と白人が入り交じるこの街で黄色い人種は、見渡した限り俺だけらしい。

3日前まで日本に居た。
地方から遊びで東京に行って、東京住みの友達とガールズバーで飲み明かした。
朝5時、友人と始発で別れて、最寄りのネカフェに立ち寄り仮眠を始めた。

外が騒がしいと思った。
うっすら遠くで、袋が破裂するような音も聞こえていた気がする。
疎ましく思いながら目を覚ます。
時刻は7時。
まだ遠くで騒ぎ声が続いている。
外か?
なんだよ。
寝癖をいじっていると、ドアが強く開く音がした。
そのまま、ザッザッザッザッと重い足音。
大勢の何かが入ってきているのか?
ブースのドアを開くと、防護服に身を包んだ軍人らしき人間が廊下を埋め尽くしていた。

銃を向けられ、何も言えぬ間に捉えられた俺は、目隠しの長距離移動を経てこの街に放たれた。
人身売買。臓器売買。死。を考えていた俺は、あっけらかんとこの街に立ち尽くしている。
なぜ開放された?
そもそも何故さらわれた?
何もわからぬままだが、安堵なんて出来ない。
何も持たず何も知らない街でどう生きてゆけというのだ?

盗みに手を出すに至るには、そう時間は掛からなかった。
仕方がない。知ったこっちゃない。
外に投げ売りしてある野菜、果物ぐらいなら簡単に盗めた。
洗わずのトマトを齧りながら考える。
英語を話せない俺が、この街で仕事に有りつけるのか?
学習しようにも、スマホはバッテリーが切れている。
「無理だよなぁ…」
そもそも、勉強なんて昔から出来なかった。

服装は遊んだときのままで、ブルーのブルゾンがこの街で目立ちに目立っている。
富裕層にでも見えているのか。
さっきから、乞食っぽい奴らがちょっかいかけてくる。
俺は無一文なんだよ!

俺はまずスマホを充電するために何処かの家に忍び入る事に決めた。
が、何処見渡してもビル。
中が見えないから、人が居れば終わりだ。
何処かちょうどいい物件はないか。

しばらく歩いた。
少しずつ人通りも少なくなって、集合住宅以外の物件もチラホラ視界に入った。
さて、セキュリティの甘い家は何処にある。

木の小屋みたいな、入口にドアがない物件を見つけた。
電気が通っているかは怪しい。
が、中を覗いてみよう。
恐る恐る近付き、入口から中を確認する。
人気はない。
そしてその家内は生活感があった。
俺は周りを見渡し、潜入した。

キッチンらしき場所。
電化製品はない。
嫌な臭いがする空間。
トイレか。
奥に向かい、寝室らしき場所。
何やらコンセントが伸びている。
その先を目で追う。
タイプCの充電器っ!
「やった、あったぞ!うぅ、アンドロイドで良かったぁ」
充電を始め、すぐに電源が付く。
当然だが日本のSIMは反応しない。
「何処かでWi-Fiが使える場所を探さないとな…」
心当たりを探りながら、布団らしき場所に腰を付く。
振り返るとそこに、人が居た。
「うっ…!!?」
上げそうになった悲鳴を抑える。
相手の男も、目を丸くして突っ立っている。
どうする…。戦って勝てるか?
喧嘩なんて、中学生以来だぞ…。
とは思いつつ、手を胸の前に出す。
「アンタ、日本人か!?」
「へっ?」
一瞬わけもわからず、間抜けな声を上げる。
よく見れば、その男は黄色い人種だった。
「今、日本語喋ってたろ…?」
確信に変わった。
この流暢な日本語は、こいつ日本人だ。
「そ、そう!そうだ!俺は日本人だ!」

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作成: 2024/09/04 (水) 01:11:34
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