おんJ艦これ部Zawazawa支部

おんJ艦これ部町内会 / 190

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村雨の夫 2017/01/25 (水) 01:00:27 61018@fcb0e

「英語を習いたい、ねぇ」
年明けから来るようになったサラトガ先生。聞くところによればアメリカの出身だそうで、ネイティブの英語で勉強できるのは子供たちにとっては素晴らしいことだ。うちの子たちの先生、ウォースパイトの英国英語と違うところがどの程度あるのかはわからない――二人とも日本語ペラペラだから、正直話す英語の差異に気付くタイミングがない――けれど、そこまで支障が出てないなら大丈夫だろうな……と思っていた矢先に、朝霜のお願いである。
「朝雲ちゃん、だったかしら。その子が英語以外もすごくって、対抗心メラメラみたいよ」
「あー……留学してたんだっけ。そりゃ勝てないでしょ」
「あなたに似ないで気が強いものねぇ、朝霜」
「うるしゃい」
辛口の一言を、まろやかなホットミルクで誤魔化す。まぁね、そこばかりは似ないでよかったよ。

「……ただの負けん気ってだけでもないみたい」
「そか。朝霜、この半年で大きくなったもんなぁ」
「劇も、鎮守府訪問も、全部この半年だもの。大きくなるわよ」
「嬉しいような、寂しいような」
「よろこびましょっ」
広い世界で沢山の人と出会うこと。朝霜にも睦月にも、大変な経験だ。
「鎮守府」という場所のこと。軍属時代の僕らのこと、僕ら以外のこと。現役の少女たち。
観客だった劇の世界へ、自分たちが入ること。一つのもののために、色々な人が動くこと。
イギリス、イタリア、アメリカ、ドイツ。海の向こうの国のひとのこと。同じ年ごろでもそこへ行った人のこと。
会う度、話す度、衝撃と感動をもらっているらしい。それは言葉にも、話にも、話さなくても伝わってくる。感受性豊かな年頃に、連れまわした甲斐はあったかな。
「春には6年生……かぁ」
「はやいものねー…」

「それより先に劇だけどね」
「今週末、それこそ『はやいもの』ね。出来は?」
「ばっちり」
「よかった。最近こわかったよ」
「ありゃ、そう?」
「そう。時々急にスイッチ入れるんだもん」
「あちゃー……」
9割完成のところを、最後の研磨としてポイントを伝えただけのつもりだったんだけど、そんなに怖かったか。劇団はともかく、今回初めての皆さんは「通し」での注意点が意外と嵩張ってしまったのは事実である。もっと早くにシーンを繋いだ練習を提案して、各所指摘しなかった僕が悪いといえば悪い。任せていいだろうと思わせる才女たちも悪いのでは?
ともかく、白露家をはじめとした鎮守府の一同、劇に興味ありげの如月ちゃんと運動会で雲龍さんを「借り」てた清霜ちゃん、卒業も近い由良ちゃん鹿島ちゃん。風の鎮守府の面々……声をかけられるところは一通り誘ったけれど、楽しんでいただくのに心配も抜かりもない。みんな同じ公演に来るとは限らないけど。
「ま、今大丈夫だから大丈夫だよ」
「もうあんな顔しないでね」
「しないしないー」

「原稿の締め切りの度にその顔してるってことも、自覚してね」
「……はぁい」
急にトーンと目が変わるのは、お互い様だと思うんだ。額をつついてくる人差し指を、甘んじて受け止めた。

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