おんJ艦これ部Zawazawa支部

おんJ艦これ部町内会 / 150

231 コメント
views
0 フォロー
150
在りし夜の提督 2016/11/07 (月) 20:29:14 修正 5c457@15b02 >> 149

ここらが誤魔化しの限界。伝える覚悟を、固めなきゃ。切り出せ。
「……村雨ちゃんはさ、夢ってある?」
「夢?……そうねぇ、やっぱりみんなで無事に勝って終わりたいわよね」
「うん。そのあと。鳳翔さんはお店を開きたいって言ってる。そういうやつ」
「終わった後……終わった後か」
「そう。後の話」
「うーん、ちょっと考えたことなかったかもしれません。またみんなと話してみるね」
「……そうだね。急にごめんね」
「いえいえ。こちらこそ、張り合いのない答えでごめんなさい」
埠頭の先から、建物側へ向く。すなわち帰投で、会話の終わり。彼女が一歩ずつ、ゆっくり遠ざかる。ポケットの中で手の感覚が失せていく。心拍数が下がっていく。指先に当たる硬い感触で、頭の中で何かが弾けた。
「……あの!」
もう一度心臓を叩き起こす。心を熾す。
「!……はぁい?」
少しだけ驚いて、すぐに笑顔で振り向く彼女。緊張が目がいかれて、逆に彼女が大きく見えてきた。
「昼に来た包み、あれ、僕個人の買い物なんだ」
「はぁ」
喉が渇く。海の匂いが鼻につく。
「もし!……もし、僕が、僕らが一人と欠けず終戦まで勝てたなら」
彼女の瞳に吸い込まれる。困惑もあるが、静かに待ってくれている。波も風も、すべてのノイズが消える。

「これを。受け取ってくれますか」

かじかんだ指で、夜色の箱を開ける。月明りを受けて銀が輝く。
「……指、輪?」
「僕の夢の一部に、なってほしいんだ」
心臓が破裂しそう、という表現は本当に陳腐で、使いまわされている。小説で読んだ、脚本で見た、軍属になってから何度も思った、そのどれとも違う。痛いほどの脈動。心臓から下は存在しない。地につく足がない。腕もかろうじてついているだけ。乾ききった気管を上って、目と頭が熱い。
「ダメ、かな」
「……ねぇ、提督」
そっと香りは暖かく、声はやさしくもはっきり聞こえる。そこで初めて、大きな彼女は目の錯覚ではなく近くにいただけということを知る。目線は、海を見ている。耳が紅潮しているように見えるのは、今度こそ錯覚だろうか。
「貴方は、いつもだらしなくて、気も弱くてさ」
「うぐ」
「センスも微妙にずれてるし、あんまりカッコよくもない」
「……はい」
言葉一つ一つが心に刺さる。指輪の箱を仕舞う指先が冷たいのかすらわからない。熱のすべてが心に集まっていく。いかん。泣くな。
風がひとつ、強く吹き抜けて、獣のように鳴り叫ぶ。再び仕舞い込んだ手まで冷やされて、全身余さず凍りつくようだけれど、些細な事だった。群れの風の唸りが止んで、小さな声がここまで届く。

通報 ...