課題1
2016年法の成立、2019年の可視化条項施行を経、可視化の実施状況は拡大している。検察段階では、対象事件 「全過程」率は100%に限りなく近づいているし、身体拘束下では「全過程」が90%レベルに達している。しかし、検察段階でも在宅事件の被疑者取り調べの可視化は(弁護人が請求しない限り)、まず果たされていないし、参考に取り調べの可視化はおよそ進展していない(むしろ、いわゆる「代表者」調書問題を除けば、縮小しているとさえ言える)。そして、可視化しつつも、慣れの故か、聞くに堪えない取り調べを行う検察官は必ずしも圧倒的な少数などではない。そういう現実がある。それが可視化記録自体において露出している。
さらに警察段階は、対象事件についても3号例外を適用し、全過程率は95%レベルでほぼ打ち止めと言えなくもない。警察は現状以上の可視化には格段に消極的であり、拒絶反応があるといっても間違いではないだろう。対象事件以外の可視化は、ほぼ全くと言ってよいほどされていないのである。
編集代表:小坂井久(2024)『取り調べの可視化 その理論と実践─刑事司法の歴史的転換点を超えて─』より引用
全体的に検察・警察双方で取調べの可視化は進んでいると言える。しかし、身体拘束下での可視化が100%に達していないことからも分かるように、取調べを受ける人々全員に対してそれが適用されているわけではない。取り調べの可視化が広がったきっかけは、氷見事件・志布志の判決を経て、2008年に取り調べ適正化指針が定められたことだろう。そして、それを決定づけたのは一般的に2016年法と呼ばれる、改正刑訴法の成立である。指針を定めたり、法律が改正されたりしてようやく、自白の強要が起こりかねない前時代的な取調べが撲滅される第一歩が踏み出された。相次ぐ冤罪事件によって、市民たちの検察・警察へ向けた信頼が揺らぎ始めたことも、一連の流れの大きな後押しになったと考えられる。
課題2
2018年時点、日本で採用されて取調べ録画動画の提示方法は、被疑者の上半身の動画と取調べ官の後方斜め上から俯瞰的に撮影した動画を、1つの画面に表示するものだった。これはピクチャー・イン・ピクチャー形式と呼ばれる。2022年時点で警察庁刑事局刑事企画課から提供されている資料内では、そのような方法が取られている記載は見当たらない。また、取調べ官と被疑者の両名が1つの画面に収められている写真が記載されていることから、前述したピクチャー・イン・ピクチャー形式は、減少しているのではないかと推測できる。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjlawpsychology/18/0/18_70/_pdf/-char/ja https://www.npa.go.jp/policies/budget/review/r4/R4_rokuonrokuga_sankousiryou.pdf
録画方法に変化が生じた理由はいくつか考えられる。例えば、以前より画面上に2つの動画を同時に表示すると、大きく表示されている動画の方に視線が集中するとの指摘がなされていた。公平性の観点から、そういった注目の偏りが起こることをできるだけ排しようとしたのではないだろうか。また、警察庁刑事局刑事企画課が提供している資料内では、可搬型のカメラの耐用年数は約7年との記載がある。ピクチャー・イン・ピクチャー形式は複数の機材を使用するため、機材の負担を考えるとこの形式は推奨されないのかもしれない。
全体を通しての感想
数字上では取調べの可視化が進んでいる。もちろん、現場で取調べの可視化が意識されるようになってきており、実践されてもいるのだろうと思う。しかし、今回課題に取り組むにあたって取調べの可視化について調べてみたところ、最も目立っていたのは警察でも検察でもなく日本弁護士連合会(以下日弁連)だった。実践の面では可視化が進んでいても、意欲の面では日弁連に大きく劣っていると言わざるを得ないだろう。この消極的な姿勢は、歴史ある取調べの手法を取り上げられたように感じている関係者の存在が関わっているのではないだろうか。彼らのことを無能と罵ることはできない。自分が慣れ親しんだ手段を長きに渡って使おうとすることも、その手段が間違っていたときにそれを中々認めることができないのも、人間の普遍的な反応だからだ。しかし、それは取調べの可視化が改善されない理由にはならない。やる意味のないことは廃止し効果的な方法を取り入れ続けることが、取調べの有効性をあげることに繋がり、延いては取調べを受ける人々を守ることに繋がる。私達は、公平性と有効性の釣り合いが取れる方法を、人権を守りつつ模索し続けなければならないと考えた
[課題1] 文献引用の基本ルールを守ってください。著者、タイトルだけではなく出版社も書きます。これは書籍ですよね? また、原文を直接引用した(書き写した)場合は、掲載ページを明記します。「論述・作文」で習ったと思います。
[課題2] カメラパースペクティブバイアスの話はなかったですか?
10点差し上げます。