熊本地震 大豆作「湿田は無理」 水稲並み所得難しく 阿蘇市
日本農業新聞(2016/5/21)
熊本地震の影響で水路を断たれた熊本県阿蘇市の水稲農家が、国が勧める大豆への作付け転換では所得を確保するのは難しいと、不安を抱えている。十分な収量が見込めない湿田地帯で、“大豆不適地”のためだ。国の交付金を含めても主食用米と同等の所得は見込めそうにない。大豆に向かない地域特性を踏まえた支援を求める声も上がっている。
「前を向いてやるしかないが、大豆では食っていけないのが現実だ」。同市で稲作を営む内田智也さん(31)は、荒れた水田を前に腕を組む。今期は45ヘクタールで田植えを予定していたが、水路が壊れるなどして3分の1は断念した。大豆への転換も模索するが、「米ほどの所得は確保できない」と言い切る。
同市は湿田地帯で雨も多く、大豆には不向きとされる。九州農政局によると、10アール当たり収量は100キロに満たず、全国平均、県平均の半分程度だ。近年は乾田化も進むが、地震で排水施設が破損しているとみられ、収量は減る恐れが強い。
阿蘇地域振興局は、管内の大豆の販売代金を60キロ1万円と見込む。10アール収量を100キロとしても、販売代金は1万6000円。畑作物の直接支払交付金(ゲタ対策、10アール2万円)と水田活用の直接支払交付金(同3万5000円)を合わせても収入は10アール当たり7万1000円にとどまる。担い手加算(同2万3000円)などの交付金もあるが、受けられない農家も少なくない。
一方、主食用米の販売代金は60キロ当たり1万3000円で、10アール収量は480キロ。米の直接支払交付金(7500円)を合わせて収入は10アール当たり11万1500円となり、大豆を大きく上回る。
九州農政局は「基本的に大豆でも米と同等の所得が確保できる」としつつも、「阿蘇などの地域では所得が米を下回る可能性もある」と認める。
阿蘇市などによると、市内で田植えができない水田は約300ヘクタール。農家らによる応急復旧が進んでいるため今後、作付けできる水田が増える可能性もあるが、多くの農家が収入減少の影響を受けるとみられる。阿蘇土地改良区は「生活が厳しくなる農家が出る。前例にとらわれず、所得を補償するなどの支援が必要だ」と訴える。
農水省は、地震で営農が困難な農業者の所得確保策として、他の農業法人で働くことも想定する。受け入れ法人に年間最大で120万円を助成する支援策を用意した。
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