熊本地震 まず水路 総出で補修 「稲穂 復興の象徴に」
日本農業新聞(2016/5/15)
熊本地震で農業用水路に甚大な被害が発生する中、今年産の作付けに間に合わせようと、各地で農業法人や農家が自ら復旧作業に乗り出し、営農再開へ大きな力となっている。水路やため池の損壊を農家総出で応急的に補修し、農業用水を確保して田の耕起を目指す。県は「農家の自助努力で想定以上に農業用水路など復旧が進んでいる」(農産園芸課)とみる。
嘉島町で昨年11月に誕生した農事組合法人「かしま広域農場」。農家数383戸、面積478ヘクタールという九州最大の大型法人だ。
その営農初年度を熊本地震が襲った。同町では農家3人が亡くなり、農業用水路の寸断、ひび割れなど深刻な被害に見舞われた。納屋が倒壊し農機を失った農家も多い。
同法人組合長の工藤健一さん(75)は「水路の被害は何千カ所」とするが、「それでも、必ず田を耕す。水路を補修できる場所は米、無理な所は大豆だ」と力を込める。
現在は各集落で、水路の状況に応じ大豆か米を作るよう調査と補修作業を並行して進める。機械を失った農家も、法人で共同利用が可能だ。米農家の河原泉さん(72)は「今年は法人の初年度、やるぞという年だ。田に何も作らないなんてあり得ない」と汗を流す。
ただ、JAかみましきの大豆共同乾燥調製施設は昨年130%の稼働率で、荷受けの余力が少ないのが実態だ。JAと法人では「現状のままでは大豆面積を大幅に増やすことは不可能」とみるものの、JAは「植え付け時期をずらすなど対応できる方法を模索したい」(農産課)とする。
益城町土地改良区は、管内の水田1214ヘクタール、農業用排水路200キロを役員や行政担当者らと目視調査した結果、全域で米を作る決断をした。6月下旬からの田植えに向けて、4チームに分かれて土木業者と農家が水路の復旧作業に懸命に当たっている。土木業者は夜間も工事を進める。
同町では農業用水路やため池の崩壊だけでなく、断層により隆起、沈下、陥没、ひび割れなど被害がある田も相当数ある。最終的に米を作る判断は農家がするが、同改良区理事長の岩村久雄さん(74)は「水さえ確保できれば米は作れる。湿田なので益城は米しかない。稲穂が実れば復興の象徴になる」と話す。
土木業者、大豊工業の川口宝成社長は「各農地で20トン以上の落石など甚大な被害が数多くある。米作りに向けた作業を急ピッチでやっている」と懸命だ。
上益城地域振興局によると、上益城郡内5町で田植えまでに壊れた水路などを応急措置できれば「8割の田で作付けできる」(農林部)見通しだ。県全域でも「被災地各地でぎりぎりまで作付けを諦めまいと、農家による補修作業が進む。被害報告の一方で、復旧した農業用水路もかなりある」(農産園芸課)と説明する。(尾原浩子)
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