地震、インフラ・農業に打撃、熊本・大分損失膨らむ恐れ、被害大きい地域調査途上。
2016/05/14 日本経済新聞 地方経済面 九州 13ページ 1225文字 書誌情報
熊本地震で経済に大きな影響が出ている。熊本・大分両県で農林水産業への被害は1354億円程度で、道路や橋などインフラの被害も深刻だ。発生から14日で1カ月になるが、国や熊本県の被害調査は道半ばで全容は把握できていない。現時点で5000億円規模の経済損失があり、今後はさらに膨らむ可能性がある。
熊本県の農林水産業被害は、農地や用水路など施設の損壊が大半を占める。被害が大きい阿蘇周辺の地域では「いまだ詳細な調査も難しい状況」(JA阿蘇)で、損失額が増えるのは確実だ。
発生から1カ月たつが、「避難生活をしながらの生産者も多く、本腰を入れて復旧に取り組むのも難しい」(JA阿蘇)。畜産などが盛んな阿蘇周辺は畜舎の倒壊や水道の不通が目立ち、「(高齢なうえ)早期の復旧が難しい以上、廃業せざるを得ない」(阿蘇市で子牛を育てる繁殖農家)との声も出始めた。
田植え断念
被害を受けた稲作農家への影響も長引きそうだ。阿蘇市の農家は「用水路の損傷や田んぼの亀裂など個別の農家では対応が難しく、行政の対応を待つしかない」と声を落とす。約9億円の農地被害があった大分県では、由布市で水田の区画が崩れたり、地割れが発生したりで水を張れないため、今年の田植えをあきらめた農家が出ている。
道路や橋などのインフラの被害も大きい。熊本県では、復旧対象として国に申請した県内の土木施設は県と市を合わせて約1710億円規模。道路の損傷が最も多く、2383カ所で約350億円を占める。大分県も約20億円の被害があり、福岡県も落石などで損傷し、道路だけで被害は1億6千万円になる。
観光徐々に再開
観光に関する九州観光推進機構の推計では、地震発生から8日までで70万人のキャンセルがあった。ゴールデンウイーク(GW)があったため影響が大きく、損失は140億円に上る。大分県の広瀬勝貞知事は「(GWは)通常より上乗せされた価格でほぼ満室だっただけに大きな打撃」と語る。
ただ、正常化に向けての動きも表れ始めた。トマトの生産量が全国1位である熊本県で主力産地の玉名市などは地震の被害が比較的小さく、「順調に出荷できている」(玉名市の農家)という。
観光面でも営業再開する施設は徐々に増えてきた。黒川温泉観光旅館協同組合(同県南小国町)では「客室の稼働率は8割程度まで回復している」という。大分県の広瀬知事は「6月補正に何を入れられるか対策を受け付けたい」と語る。どれだけ影響の長期化を抑えられるか。迅速な国や自治体の支援策が焦点となる段階に入る。
【表】熊本・大分両県が明らかにした被害額
道路など土木関連 農林水産業 商工業 教育・福祉
合 計 1739億円 1354億円 2億6000万円 4億円
熊本県 1710億円 1345億円 集計中 集計中
大分県 29億円 9億円 2億6000万円 4億円