熊本地震 用水路の被害深刻 175ヘクタールで田植え断念 御船町 日本農業新聞 5月2日(月)
熊本地震の被災地で、営農の再開・継続に農業用水路の被害が大きな壁として立ちはだかっている。用水路の崩壊や土砂で埋まった地区が複数あり、漏水すれば二次災害の恐れもある。御船町の七滝土地改良区では今期、全175ヘクタールで水稲の作付けを見送る。畜産や施設園芸などでも農業用水の確保に見通しが立たない地区があり、復旧へ支援を求める声が広がっている。
同改良区が水路の状況を確認したところ、土砂崩れで完全にふさがっている場所や、断層で途切れた場所が10カ所以上に上った。用水路の全長は約18キロで、流域の水田は175ヘクタールに及ぶ。地震で地盤が緩み、漏水すれば二次災害が起こる可能性がある。同改良区では、全域で今期の田植えを見送る方針だ。
1ヘクタールで米を作る坂本利治さん(62)は「今年はどぎゃんしようもなか。1年、米は我慢するしかなか」と声を絞り出す。野田貴久理事長は「余震が収まらず、状況は厳しい。水路は雨水が流れこむように設計されているため、通水しなくても新たな被害を生む恐れがある」と嘆き、早急な修理の必要性を強調する。
農業用水路の破損は各地で相次ぐ。西原村で施設園芸を営む60代の農家は「パイプや水道管の破裂は修理ができても、農業用水路の破損は個人ではどうにもできない。水は農業の命だ」と国の支援を切望。益城町で採卵鶏を飼育する興梠恭子さん(78)は水の確保の見通しが立たず、離農を決めた。「高齢で続けることは難しいと思っていた。地震が引き金になった」とうつむいた。
南阿蘇村でも、水源の枯渇や水路の破損が懸念される。イチゴ農家の岩下直さん(61)は自身の被害は少ないものの「南阿蘇は水の生まれる里と言われていた。でも、地下水の流れが変わった、用水路のひび割れなど水問題で営農再開できないという仲間がいる」と心配そうに話す。
県によると、農業用水路の被害状況の把握には時間を要する見通しだ。
用水路の被害を調査する農家。巨大な落石で完全に埋まってしまった(熊本県御船町で)