鶏舎崩壊、33万羽処分 「営農再開 支援を」 地震で熊本県内 (2016/4/30)
熊本地震で熊本県の複数の鶏舎が崩壊するなどし、少なくとも採卵鶏計33万羽が処分されたことが分かった。餌や水を与えることができず飼養継続は難しいと、養鶏農家は苦渋の決断を迫られた。県養鶏協会によると被害の全容は把握できていないものの、「未曽有の甚大な被害で支援がなければ立ち直ることができない」と訴える。
1階部分が押しつぶされた鶏舎。もう鶏は、いない。菊池市の村上養鶏場を経営する村上雄一さん(66)は、22万羽中19万羽を処分した。
16日の本震で高床式鶏舎が倒壊した。鶏は生き残ったものの、断水で給餌できず、餓死は免れない状況だった。腐乱臭で地域住民に迷惑を掛けるような事態は避けなければ――。九州中の関連会社に連絡し、1週間で引き取り先を確保した。
村上さんは30人もの従業員を雇用し、初生びなを導入し成鶏になるまで育てて卵を出荷する。こだわりの飼養法には自信があった。
だが、本震の直後に駆けつけた鶏舎の惨状を目の当たりにした時、「もう終わりだ」と離農も考えた。妻の立子さん(63)は「若い鶏は育ったばかり。かわいそうでたまらない」とうつむく。
友人や農家仲間、JA関係者らが声を掛けてくれ、少しずつ前を向けるようになった。「またチャレンジしたい。だって悔しいじゃないか。このまま終われないよ」。再建には億単位の費用を要し、業務再開のめどは現状、立たない。
村上さんは「国には営農の後押しをしてほしい」と涙を拭いながら訴える。
合志市の(株)肥後ポートリー幾久富農場も古い鶏舎4棟の中が倒壊し、7万羽以上を処分せざるを得なかった。農場長の緒方康幸さん(48)は「修復の見通しは全く立てられない」と疲労感をにじませた。この他、宇城市の養鶏場で4万羽、熊本市南区の養鶏場で3万羽が処分を余儀なくされた。
複数の養鶏農家によると、地震による県内の養鶏場の被害は局所的とみられ、同じ地域内でも被害がほとんどなかった鶏舎もある。県によると採卵鶏の飼養羽数は246万羽。地震で1割以上が処分されたことになる。
同協会の草野貴晴事務局長は「処分した採卵鶏は33万羽を優に超す。手やりで水をやっている農家もいるが限界があり、被害の拡大は確実だ」と明かす。
壊れた鶏舎の撤去費用や低利子の融資、営農再開のための施設導入に対する補助などを政府に求めていく考えだ。(尾原浩子)