熊本米の卸間価格、急上昇、15年産、地震で稲作被害、新米の収穫減見越す。
2016/06/07 日本経済新聞 地方経済面 九州 13ページ 941文字
熊本県の2015年産米の卸会社間の取引価格が熊本地震発生後に急上昇している。主力の熊本産ヒノヒカリは玄米60キロ1万2500円と、昨秋の出回り当初に比べ、5月から1千円(約1割)上がった。熊本の稲作地帯が地震で被害を受け、今秋の16年産新米の収穫減を予想しているためだ。ただ、店頭価格は横ばいで中間流通価格の上昇分は転嫁されていない。
コメの卸間取引は在庫の過不足を調整するために民間の卸会社や集荷会社が相互に転売するコメの中間流通取引。その価格は秋に収穫する新米(16年産米)の卸値や需給動向の先行指標になる。
11年3月11日に発生した東日本大震災の時も地震発生直後に10年産米の卸間取引価格が上昇し、その後の11年秋に収穫した東北や新潟地方の新米が10年産に比べ大幅に値上がりした。
九州のコメ卸各社によると、ヒノヒカリのほかに熊本産人気銘柄の「森のくまさん」の卸間価格は震災前に比べ5~10%高い60キロ1万3500円程度。九州の卸会社の間では「地震の被害で熊本産主食用米の作付けが減り、今秋出回る新米は現在の卸間価格に比べ60キロ千円以上高い値段で取引される」との見方が広がり始めた。
一方、スーパーやディスカウント店での精米の店頭価格は一連の地震前とほぼ同水準で推移している。定番の熊本産ヒノヒカリ「三度のときめき」は5キロ1600~1800円前後。「森のくまさん」も同1900円前後で地震前と同じ価格での販売が中心だ。逆に熊本県内の一部ディスカウント店では「三度のときめき」などヒノヒカリを5キロ1500円台の安値で特売するケースもある。
卸各社は「被災した消費者の事情も考えれば、15年産米の卸間価格の上昇分を末端(店頭)には転嫁できない」(熊本県の大手米穀卸)と話す。
農林水産省がまとめた5月30日時点の熊本を中心にした九州6県の地震による農地損壊は4265カ所に及び、被害額は123億円に上る。農業用水路やため池などの農業施設の損壊は九州全県で4170カ所で、被害額は458億円。農林水産関係被害の総額は主に熊本中心の九州全県で1348億円に達している。