8月5日 例会
『波形の声』長岡弘樹
77点
・殺人事件を取り扱ったものもあるが、全編を通して「日常の謎」の趣が強い。
・各作品に目立った繋がりは無いものの、一貫して「人の心」がトリックの根幹に絡んでいる。
・「ハガニアの霧」は犯人の目星は容易につくが、その動機に対する伏線の張り方に無駄がなく、簡素ながら鮮やかである。
・「準備室」において、一見無毒な娘たちの関係にこそ毒が仕込まれていた、という事実には怖気がした。
・why中心で人の心がどう物語に関わり、進んでいくのかが気になる作品。
・物語それぞれが心情に訴えかけてくる。
・きちんと伏線が張られかつ回収されてゆきミステリとして面白い。
・人間関係の毒が描かれているとともに良い人も多く登場しており、そこが対比になっていて良い。
・最初の短編は主人公の善行が人を助けることになっていてとても良い。
『殺戮にいたる病』我孫子武丸
82点
・出版当時に読んでいたら間違いなく絶賛していたが、核家族の孕む病理とか、猟奇殺人に対する心理学アプローチとかは今では消えかけている気がするので少し古く感じ、時代の変化を感じる。しかしそれ込みでも十二分に面白い。
・解説にあるようにトリックそのものが社会問題に直結しているのも良い。
・「ミステリ」とも「ホラー」とも言えず、「社会派」でもあり「新本格」でもあるぼんやりとした立ち位置の小説でかなり研究しがいがあるような気がする。
・殺人シーンが3回目まで起こるごとにグロかったので、グロ耐性がないと辛い小説。面白かったけど再読は辛いかも。
・イケメンおじさんと若い女性というテンプレながらも良い関係。
・視点が3つあることで違った視点から物語を楽しめるし、殺人鬼の視点で胃もたれせずに済む。さらに視点のズレがトリックの鍵となっているのでギミックとしても重要である。
・最後の種明かしには驚かされる。違和感はあったが十分通じるレベルだったので、最後で欠けたピースがはまるような感覚がとても良い。