真昼の迫真ランド

【SS】Requiem:channel / 10

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ちゃむがめ 2021/06/22 (火) 02:01:39 修正

混沌を乗せて依然タクシーは速度を緩めることなく未知なる目的地へと走り続ける。

「ところでその女の子、名前なんて言うんだ?」
運転手が尋ねる。
「ハハッ!元ご主人様(としあき)は"fran doll(フランドール)"なんて呼んでたな」

教えてもいないのに私が元主人(としあき)に呼ばれていた名前を当然のように知っている。

「フランドールか、なら綴りは"Flandre(フランドール)"だ馬鹿」
「…知るか、ハハッ!とりあえずお名前は"フランドール"でいいか」

"フランドールちゃん"、としあき(アイツ)にはそう呼ばれていた。
だからその名前は思い返したくもない記憶を蒸し返してしまう、だから嫌…
…絶対に嫌だ。

「…嫌。」

「「は?」」

「あっ…」

心の中で拒絶する気持ちが思わず声に漏れ出てしまった、不味い…"イかれた男2人"に対して反抗的な態度を取ってしまったら何をされるか、想像に難くない。

「それじゃあお前は"何者"なのか、自分自身で決めろ。」

ミッキーから思っても見なかった答えが返ってきた。

「名前………いいんですか?」

「お前はもう檻の中から抜け出した、その身にはもう縛り付ける錠も枷もない、己に名前を付ける権利くらいあるだろ?」

「……そうかも」

私は己の名前を考えることに無我夢中になった、何か…私に在るモノ…
ふと運転席のバックミラーが目に入った、そこにはまるで燃え尽きた灰のように少し褪せた銀髪、碧眼、キャンバスのような白い肌。
これが私?生まれて初めて目にする己の姿を目にして様々な感情が駆け巡った、しかし最後には「感動」という感情が心を満たした。
己自身を知覚する事が、こんなにも幸せなことなんて、思いもしなかった。

灰菜…」

ふと口走ったその言葉にミッキーが反応する。

「灰色の髪で"灰菜"か、ハハッ!フランドールなんかよりよっぽどピッタリ名前だ。」

「"灰菜"…か、でもまぁまぁいいんじゃあないのか〜?まぁまぁの出来だと思うぜ。」

「この中でネーミングセンス一番ナンセンスなお前が批評するなよ"ホーモォ"、ハハッ!」

「黙れッ!このドブネズミがッ!!」

「…ふふっ……」

「おい灰菜!テメー今"俺の名前"を笑いやがったな?^^;」

「あっ…ごめんなさい…ちょっと、独創的な名前だなって思って……」

「ハハッ!お前新入りにも名前のダサさを馬鹿にされてるぞ。」

「ホーモォさんって、失礼だけど…同性愛者なんですか?」

「俺は異性愛者(ノンケェ)だ、覚えとけカス共」

「「wwwwwwwwwwwwwwwwww」」

その後もたわいの無い会話は続き、気づけば私は変人2人、いやミッキーとホーモォと打ち解け合えていたような気がする。

そうこうしているうちにどうやらタクシーは目的地の近くに到着したらしく静かに停車した。どうやらどこかの立体駐車場の地下のようだった。

タクシーの中の混沌はどこへやら、いつしか私は未知の目的地へ思いを馳せ、どんな楽しい人達がいるのだろうかと、期待を膨らませていた。

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