知佳
2023/11/18 (土) 11:31:14
a25ef@909a7
薄明りの部屋で掛かってこない電話を、ひたすら待つ女
幾世はそれはそれは大切に育てられていた。 義理の姉も大切に育てられてはいたが、それも幾世が生まれるまでのわずかの期間。 幾世が生まれると、遠い親戚筋に当たる鰐浦へ養女に出されてしまった。 したがって義理の姉が嫁ぐきっかけとなったのが、養女に貰われた先でその家の主がまず手を付け、そののち年嵩の順番で手を付け、貧乏くじを引いた現主人が嫁にした。
それと比べ幾世は、例えばこの辺りではまだ貴重だった固定電話を幾世個人の部屋に置いたほどだ。 欲しいものは、どんなに苦労してでも本土に父親が出向き、買って来たほどだ。 幾世だだから、年頃になると男達と連絡を取るのにこれを利用した。
「もしもし、幾世ちゃん? ごめんね、待った?」
「ううん……ちっとも待っとらんとよ……ごめんね、玄関は寒かろうもん……」
浜田も、部隊の玄関に据えてある赤電話が空くのを待って、幾世に連絡を取った。 浜田が当直に聞こえないよう受話器の口を押さえるようにし、床にしゃがみ込んで電話を掛ければ幾世も、部屋の戸を閉め切って小声でこれに応じた。
「平気だよ……外套着込んできたから……」
「本なこと……ウチが温めてあげれば良かとね……」
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