知佳
2023/11/08 (水) 18:13:03
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深夜、どこからともなく聞こえる嬌声
その夜、大浦で供された料理は高浜が言ったように、ごく普通の家庭料理だった。 魚介類が豊富な島と聞いて期待してきた加奈子にとって落胆そのものだった。
魚介類ではなく、蒲鉾やハムなど都会の、それも大食漢が好んで食べる安くて量勝負のそれがインスタントの吸い物とともに供されたのだ。 こんなものを対価を払ってわざわざ遠方まで食べに来なくても、東京ならもっとましな総菜がいくらでもそこいらで売られている。
(かなわないわね……こんなものがごちそうって考えること自体、どうかしてるわ……)
原料が気になって食べる気がしない。 が、もしこの他のどこか他の宿に泊まったとしてもどこも同じなら、しかもそれを毛嫌いするなら、すきっ腹を抱えあの船にまた乗って引き返さなければならない。
(みんな中身はともあれ、楽しかったようなふりして帰っていくんだろうな)
こう考えた加奈子は仕方なくそれに倣った。
(それにしても凄い場所ね)
そう言いたくなるのも無理はない。 部屋中隙間だらけ、おまけに新建材の壁。 まるで廃材を寄せ集めて作りましたと自慢されてるような建物なのだ。
民宿と名乗るには立地条件もそれなりに良いところがあるはずだが、ここに来るまでの間幾度となくきれいな海岸線を眺めながら来たものだから、家の前も後ろも山が覆いかぶさったような、すり鉢の底のような佇まいに、なんでこんなところを選んだんだろうと、気分まで滅入り始めていた。 マンションの高層階に住めると喜んで部屋の窓を開けたら、目の前は隣のビルの壁だった……・というのがあるが、この民宿はまさにそれなのだ。
https://letsgochika.jp/blog-entry-19676.html
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