知佳
2024/12/25 (水) 12:56:54
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あ・て・つ・け 第2話
徹は物陰に隠れ、しばらくアパートの様子をうかがった。 頃合いを見計らい、階段を上り郵便受けをのぞいた。 空だった。 どうやら梨沙は室内にいるようだ。恐る恐るインターホンを鳴らした。 古いとはいえカメラ付きのようだったので、顔が映らないようインターホンに背を向けて立った。 ややあって応答があった。
「どちら様でしょうか? 訪問販売ならお断りよ」
「ご家族のことで、ちょいとお話しをうかがいたくて……」
徹は小声でつげた。 ドア越しに狼狽の気配が伝わってきた。
「お手間は取らせません。 ご協力をお願いします」
「……わかりました」
インターホンが沈黙し、しばらく待つと玄関ドアが外に向かっておずおずと開いた。 徹はすかさず右足をドアの隙間に差し入れた。
すっぴん。 顔立ちは整ってはいるが、店で見た時と違いどこかしら生活の疲れが滲み出ていた。
「入って! 早く入ってください! アパートの人たちにこんなところを見られたくないの」
「わかりました。 それでは失礼します」
徹は三和土に入り、後ろ手にドアを閉めた。
梨沙が不安そうな表情で玄関マットに正座し、徹のために来客用と思えるスリッパをそろえ差出した。
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