知佳
2024/05/19 (日) 16:15:20
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拐かし (かどわかし) 第九話
衣紋坂 (えもんさか) から大門 (おおもん) は直接望めない。 日本堤の土手道 (通称五十間道 - ごじっけんみち) も、曲がりくねらせてあり大門 (おおもん) は望めない。孫兵衛は吉原妓楼 海老屋の若い者をやっているため、なかなか吉原の外に出る時間はなかった。
そのため忠八が海老屋にやって来たが、妓楼で内密の話しは出来ない。
ふたりは、吉原の西南隅にある九朗助稲荷の境内などで相談を重ねた。
孫兵衛から仕掛けの概要をきかされたときの、忠八の最初の反応は、
「面白いな。 しかしよ、 そんなにうまくいくだろうか」
と、半信半疑だった。
苦笑いさえ浮かべていた。
孫兵衛はふところから四両を取り出した。
「これが俺の有り金全部だ。 客人や花魁から頂いた祝儀を貯め、ようやくこれだけ作った。 今度やる仕掛けの準備に、全て注ぎ込むつもりだ。
それを見てようやく、忠八が真剣な顔つきになった。
「兄ぃ、本気なんだな」
「あたりまえだ。 うまくいくかどうかは、ふたつにかかっている。 ひとつは、昼遊びしかしない新次郎を、どうにかして海老屋に泊まらせること。 こいつは俺の方でなんとかする。 女郎並みに手練手管を尽くすつもりさ。 もうひとつは、速やかに移動すること。 これは、おめえのその手腕にかかっている」
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