知佳
2024/05/18 (土) 16:39:04
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拐かし (かどわかし) 第八話
「兄ぃじゃねえか。 久しぶりやなぁ」 「おぅ、 てめえか、 元気そうでなによりだ」 「いま、 どうしてるんです」 「俺は丁 (ちょう) の若い者よ。 そういうてめえは、なにやらかしてるんだ」 「兄ぃ、なにやらかしてるはないでしょう。 堀の油問屋 笹屋の手代をやらしてもらってます」丁 (ちょう) とは吉原の俗称で、関係者は気取って「ちょう」「さと」「なか」とも呼んだ。 同じく堀とは山谷堀のことで、大川(隅田川)から西に入る入堀、狭義では今戸橋下から 日本 にほん 堤下までをいう。
「それにしても、コツで遊んでいるようではお互い、たいしたこたぁねぇなぁ」
「八ッ八ッ八ッ、違えねえ」
「堀なら、帰りは日本堤だな。 どうでぇ、いっしょに話しをしながら帰ろうや」
こうして、コツの女郎屋を出たふたりは連れ立って、三ノ輪から日本堤にはいった。
話しの中で、何気なく忠八がいった。
「俺は舟を漕げるから、店ではけっこう重宝がられてるよ。 船頭がいないとき、俺が樽や油を荷舟で運ぶんさね」
「ん!? 忠八、てめえ舟が漕げるんか」
兄貴分と敬う孫兵衛の問いかけに驚きつつも
「俺あ深川の漁師のせがれだからなあ、当たり前と言えば当たり前さね。 幼い頃から櫓を漕がされtらもんだ」
「…そうだったのか…」
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