知佳
2024/05/15 (水) 17:43:00
011ab@909a7
拐かし (かどわかし) 第五話
生活に窮し、右衛門は齢も齢、しかも元は材木問屋の主ということもあり木場には出入りできず、仕方なく寄せ場で畚(もっこ)担ぎをやり、糊口を凌ごうとした。先棒を担ぐとよく言うが、重量物による肩の負担が軽い代わりに目先を利かせねばならず、年老いてしかも座しておれば全てがうまく回っていたような環境に長くいたものだから所詮務まらない。
次第次第に邪魔者扱いされ、行き辛くなって家に籠るようになった。
孫兵衛も十五歳にもなっており、今更商家の丁稚は務まらず、仕方なしに棒手振りの行商をやったが、これとて材木商を営んでいた時のようなお得意様が、元々あったわけではなかったのでただでさえ稼ぎの少ないこの商売、先達者の縄張りに入り込む隙があるわけなく、しばらくやってはみたものの結果に繋がらず、益々資金繰りに行き詰まり止めざるを得なくなった。
些細なことであっても諍いが絶えなくなり、それを悔やんで姉の千世は夜の街に立つようになった。
母の詩織も知ってるはずなのに、ついぞ自分が先に立って夜の街に出かけていくようなことはしなかった。 むしろこうなった原因を作った右衛門をねちねちと責めた。
吞めなかったはずなのに、愚痴を言っては酒で紛らそうとした。 その酒代を稼ぐため、千世はこれまでにも増して夜の街に立った。
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