知佳
2024/05/14 (火) 19:21:30
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拐かし (かどわかし) 第四話
孫兵衛はいま、吉原の海老屋という妓楼で若い者をしていた。元々は本所三笠町の、材木を扱うかなり大店の息子として生まれ、ゆくゆくは店を継ぐはずだった。
妓楼の若い者に身を堕としてしまったのは、父の大黒屋右衛門が商売に失敗し、多額の借金を負い、店を潰してしまったからだ。
そうなるよう仕向け、尚且つ追い込んだのが、ほかならぬ山鹿屋清兵衛だった。
むろん、商売とは競うことで成り立つ。 それらの才覚で敗れたのなら仕方がない。 だが、山鹿屋清兵衛のやり方はあまりにも悪辣だった。
大黒屋は当時、本所一帯の武家屋敷も得意先のひとつであり、町民も含めかなり手広く商売をしていた。 その得意先を、新参の山鹿屋清兵衛が次々に奪っていった。
江戸はたびたび大火に見舞われた。 その焼け出された土地を火除地にすることで延焼を防ごうと幕府は取り決めたがしかし、その一方で焼け出された人々に救の手を差し伸べねばならなかった。
広小路と称された焼け出された人々がもともと住んでいた土地に長屋を建て住まわせる。 これらを取り仕切っていた武家に山鹿屋清兵衛は賂を渡し工事を請け負うと、二束三文の材木 (今でいうところの間伐材や廃材) を、それに当てた。
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