知佳
2024/05/04 (土) 17:31:30
3f748@909a7
四畳半での謝礼 ~疫病神を待つ女~
母 千草がいつも以上に入念に化粧し、血相を変え漢の元に走るのを見ると紫野は、決まって母に見つからないよう恐らく父を真似てだろう、物陰に身を潜めながらそっと跡をつけた。最初は一緒に出掛けたかったがその時の母の形相が恐ろしく、頼めないものだから跡をつけ、途中で振り切られた。
「いい子にしててね、お母さんちょっとそこまで出かけて来るから」
我が子に後を付けられたと知った千草は、紫野にこう言いつけておいて出かけた。
「うん、わかった」
言いつけはどんなことがあっても守る子だったから、安心しきって出かけたのだろう。 紫野は、知恵を絞って見失ったところまで近道し、そこから跡をつけた。
今思えば最初の時とは打って変わって母の脳裏我が子ではなく欣二のこと以外なかったのだろう、脇目を振る余裕すらうかがえないまま、思いつめたような顔をし真っ直ぐ待ち合わせの建物に入ってくれた。
行った先のアパートの一室で漢と母が言い争う声が聞こえ、飛び込んでいってかわいそうな母を助けようと、これも父を真似て物陰に身を潜め幼いながらも身構えたが、段々と声の調子も話す内容も変わっていき、自分の頭では何が何だか分からなくなり、待たされたままとうとうドアも窓も開けてもらえない、母との約束もあり諦めて帰った。
通報 ...