知佳
2024/05/04 (土) 09:26:43
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ありさ 土蔵の濡れ人形 (改) 第一話 「女中奉公」 Shyrock作
時は大正八年、まだ春遠い二月中旬のことであった。 瀬戸内海のとある小さな島から大阪の商家へ奉公に出された一人の娘がいた。 名前を『ありさ』といい、歳は十六で目鼻立ちの整ったたいそう器量のよい娘であった。 ありさの家は畑を耕し細々と暮らしていたが、運悪くここニ年、雨がまったく降らず日照りが続き、作物は実りの秋を待たずにほとんど枯れてしまった。 家は両親と子供五人の七人暮らしであったが、たちまち食べる物がなくなり困り果ててしまった。 このままでは一家心中しなければならない。 困り果てた両親は口べらしのため、一人を奉公に出すことにした。 ありさは五人きょうだいの三番目で、上の二人は男で畑を手伝い、下の二人はまだ幼い。 そんな事情もあってありさが奉公に出されることになってしまった。「すまねえな、ありさ、達者でな」
「くれぐれも身体にゃぁきゅぅつけてね」
「うん」
「クスン……おねえちゃん……」
「せぇじゃ、行ってくるね」
村のはずれまで見送ってくれた家族に別れを告げ、ありさは涙を堪えながら去っていった。
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