知佳
2024/03/12 (火) 16:44:08
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四畳半での謝礼 ~闇に光る眼~
哲也の住まいは格安で入れた。 格安にはふたつの理由があった。 ひとつは窓はあるものの、開けたからと言って陽の光は入らない。 窓の外は隣の家の壁だからだ。もうひとつ、それは訳アリ物件だからだ。
だから自然光と言えば玄関の硝子戸を通過し、入って来た光だけが頼みだった。
働きづめに働かされ、寝に帰るだけだから…そう思って借りた。
それが大きな間違いだった。 夏は熱気が、冬は冷気が部屋を支配し、逃げ場がないものだからその分余計に仕事に逃げた。
哲也がやせ細るのも、冬はまだしも、熱帯夜と呼ばれる季節になると暑すぎて、この部屋では熟睡などありえないからだ。 夏はだから、海水に脚を浸しながら海岸で寝た。
いつかここを出てやるという気持ちだけが、彼を揺り動かしていた。
その猛暑日が、もう間もなくやって来ようという日の午後、女は彼の部屋を、さも危ないところを助けた、何か寄越せと言いたげに訪れていた。
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