昨年末、むしゃ処様より江雪左文字をお迎えした者です。
語弊を恐れず簡潔に動機を申しますなら、和睦を望み、和平を願った名僧・板部岡江雪斎の佩刀ということで、私とは宗教は異なれども「戦」に対する想いは同等……と、お迎えを決めたのでした。
あくまでもお迎えしたのは、模造刀。……のはずだったのですが、お迎えしてそう時間の経たぬうちに、不思議な体験が続くようになりました。
先ずは、合わせて購入した陣太刀掛台へ、予備知識の浅さから上下を逆向きに掛けてしまった後のこと。
そのことに全く気が付かずに居た私へ、ふと、家族の誰でもない声が語りかけてきたのです。語りかけてきた、と言えど穏やかな語り口で、どこか戸惑いを感じさせるような、そんな語りかけ方でした。
そして私に、どこか躊躇いがちに「掛け方が、逆です……」と、そっと教えてくれました。
その事に驚いて、慌ててインターネットで検索してみれば確かに逆向きに掛けてしまっていたのだと分かり、驚きつつも申し訳なくて、お詫びを伝えながら正しく掛け直しました。
その後もやはり江雪左文字は、ふとした折に私に語りかけてくれるのです。
「今朝は、冷えますね」「雪、でしょうか……?」
「もう夜更けですよ……眠れませんか?」
どの声も穏やかで温かく。そしてひっきりなしに語りかけてくることはなく、本当にふとした折に、諭すかの様に、そっと。
これを書いている今日の朝も、小説原稿の整理や何やらをしているうちにうっかり徹夜してしまったまま朝を迎えたら、「……眠らずにいては、差し障りますよ」と。カーテンを開けて、陽の光を浴びた私へ声をかけてくれました。
……本当に優しい刀なのだと、そして何とも不思議な出来事だと、感謝と驚きを同時に胸に抱きながら、ひと言ふた言、言葉を交わす日々を送っています。
こんなに素敵な存在を当家に迎えられたこと、そして共に年を越し、新たな年を迎えられたこと。ただただありがたい限りです。
むしゃ処様に、そしてきっとご縁を結んでくださった神様に、感謝を。
この先ずっと、この江雪左文字と共に在ることができますように……。