02-05 絹枝の事情
絹枝の情事とか勘違いしたあんたは朝起きたときに眼鏡が見つからなければいいのに。
絹枝です。
この世界に来る前は普通の酪農家の一人娘でした。
特別な技能も知識もありません。
ですが、私はこの世界に来る前に説明を受けました。
女の人の声で、ちょこんのおっちゃんのこと、並行世界のこと、魔法のことなど、それまで知らなかったことばかりで、少し混乱しましたがその女の人は私がわかるまでじっくり説明してくれました。
話しの内容は理解できましたが、納得できたかと言うとそれはまた別のお話しです。
だって、酪農家の娘が何の助けもなく、見知らぬおっちゃんを導けと言われても、はいそうですかといって出来るものではありません。
むしろ巻き込まないで欲しくないくらいです。
ただ、その女の人はやりたくないなら断ってもよいと言ってくれました。
悪い人には思えなかったので、しばらく考えた末にやることにしました。
メリットは何もない、むしろ失敗すれば帰ってこれなくなると説明も受けました。
家族に会えなくなるのは寂しいけれど、でも私が手伝うことで誰かが助かるならやってみたいと思いました。
そしてこの世界に連れてこられました。
おっちゃんは見た目はちょっと怖いけど、言葉遣いはかなり悪いけど、態度は横柄だけど、私のことをしっかりと見てくれました。
見ず知らずの私を見て、人間とはちょっと違う私を受け入れてくれました。
会話の流れには出て来ませんでしたけど、ずっと私を気遣ってくれていました。
おっちゃんは私以上にお人好しなんだと思います。
今も少し寝ては起きて私のことを心配しているようです。
そんなおっちゃんを少しだけ可愛いと思ったのは内緒です。
だけど私は目的があります。おっちゃんを助けるだけじゃなく、この世界でやらなきゃいけないことがあります。
お人好しのおっちゃんを騙すことになりますが、これは私に与えられた権利です。
最後にどんな答えが出るかわかりませんが、できればおっちゃんと笑ってお別れできるといいな。