おんJ艦これ部Zawazawa支部

おんJ艦これ部町内会 / 121

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村雨の夫 2016/10/27 (木) 00:32:22 修正 5c457@a5cb1

子供達には大きすぎる二段ベッド。上で姉が、下で妹が規則的な寝息を立てている。のびのびと伸ばした足のさらに先には、ちょっとした物置スペースが設けられている。
思い思いにシールや絵で飾り立てた元段ボール箱は、外装以上の夢を内側に湛えている。絵本や、おもちゃや、ぬいぐるみ。正義の碇に、魔法のステッキ。ごちゃごちゃと詰め込まれたそれらは、夜も輝きを失わない。

寝息に紛れて、くぐもった声が漏れる。朝霜が寝返りを打ったらしい。すこし首を伸ばして見れば、可愛らしさの残る手に小さな傷がついている。綺麗な肌に不釣り合いな擦り傷。それを隠すように、はじかれた布団を肩までかけなおす。一度の寝返りで出来る乱れじゃないし、どうせいつも通り軽く胸あたりまで潜っただけで寝たんだろう。まだ冬布団は暑く感じてしまうのも、仕方がないところはあるか。

誇らしい練習中の傷。努力の証。一生残る痕じゃあるまいし。いくら語られても、頭で納得したつもりになっても、笑顔の娘たちに笑顔で返してみても、父としていい気分にはなれない。―――提督としても、終ぞ、傷を肯定することはできなかった。

過保護気味の教育も、過剰に慎重な采配も、絶対的な正義ではない。わかっているけれど、それでも、できるならひと時すら苦しむことなく育ってほしいと思っているし、一度の戦闘なく終戦になればと思っていた。
安全主義の看板のもと出撃も訓練も兵装拡張も小規模で、最前線は余所任せの戦時だった。大戦世代のひとりだなんて、全く名前負けも甚だしい。あの頼りない提督は、彼女たちにどう見えていたのだろう。艦娘としての爪牙を振るう機会を、未熟と臆病で失わせた僕をどう思っているのだろう。気にならないと言えば嘘になるが、とはいえもう過去の話。今さら問いただす機会も、理由もないから、ただ胸に秘めるだけ。
二人はどう思っているんだろう。妻にべったりで、娘たちも甘やかし気味で、だけど時々妙に口うるさい。今は良くても、早ければ数年後にも疎まれるかもしれない。考えたくもないが、反抗期って来るものだからなぁ。非行に走らなければいい…くらいで構えておくべきなんだろうか。僕の書いた「父親」たちは、どんな風にしていたっけ。

……あまり思い詰めても仕方ないかな。僕と彼女の子なんだから、まぁ、悪いようにはならないだろう。
幸い、元艦娘たちもいれば親友達も少しはいる。特に山雲ちゃんのお父さんは、貴重な男親仲間だ。穏やかながら芯の強そうな雰囲気は、同年代ながらなかなかに頼りがいを感じさせて、一応は僕の方が父として先輩(らしい)ということを忘れそうになる。奥様を見たことないけれど、どんな人なんだろう。編集チームみたいなキャリアウーマンとか?どんな人でも、幸せな家庭なんだろうな。
僕らも、今以上に幸せな家庭を築いていこう。

起こさないようにそっと撫でる。朝霜も睦月も、いい寝顔だ。常夜灯程度の明るさでも、見紛うことのない愛おしさ。
今は幸せな夢を見て、おやすみ、おやすみ。

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