1960東大理化卒同期生

みそ汁

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 定年退職したころから、妻の家事労働を少しでも分担したいと思った。元来、食べ
ることが好きなので、毎日朝食を作ることにした。すでに10年間以上続いている。
献立は気の向くままに雑多で和洋折衷になることが多い。よく作る組み合わせは、
トースト、みそ汁、ベーコンなどと果物といった具合である。何の変哲もない献立であ
るが、少しこだわりがある。味噌は私の居住地岡崎市の「八丁味噌」を用いる。徳川
家康の生まれた城から八丁の所で作るというのが名前の由来である。

 八丁味噌は大豆、麹と塩のみで作られる。固体のまま巨大な木桶に入れて、石を
100個以上積み上げ、2夏と2冬の間、固体状態でじっくり発酵させる。水を加えて液状
にして発酵させれば早く製造できるだろうが、あくまで固体のまま時間を掛けるのが
江戸以来の伝統である。何年か前に八丁味噌工場に見学に行った。桶は直径約2メ
ートル、高さ約2メートルの大きさで、最も新しい(!)桶が大正年間の製作であると聞
いて驚いた。岡崎に八丁味噌の製造会社は2軒しかないが、写真はその内の一社の
発酵蔵の様子で、桶が200並んでいる。
https://sites.google.com/site/scientia1960/essay/Hatcho Miso Yoshihara.jpg?attredirects=0

 このようにして出来る八丁味噌は少し固い(お湯に少々溶けにくい)が、微妙な渋み
があって独特の風味を持っている。家康の兵士が強かったのは、この味噌だけを携
帯して食べながら、長期間戦うことが出来たからだと当地では信じられている。

 最近八丁味噌に大事件(珍事)が起こった。昨年12月に農水省が産地の風土と結
びついた地理的表示(GI)ブランドと認めた愛知の豆味噌「八丁味噌」をめぐり、岡崎
の上記2社が、登録から外れるということになった。「愛知県産の豆味噌」は製法の如
何にかかわらず、八丁味噌と名乗って良いというのであれば問題である。逆に、この
2社は欧米で「八丁味噌」GIブランドを名乗ることが出来ない。味噌製造会社間の確
執については詳らかにしないが、伝統的「八丁味噌」の愛好家は困惑している。

KYoshihara
作成: 2018/01/22 (月) 14:17:57
最終更新: 2018/10/17 (水) 11:44:59
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Yamagata 2018/01/22 (月) 15:22:48 ab5f4@42c01

楽しいエッセイですね。八丁味噌が脳裏に香ってきました。

むかし十年近く名古屋に暮らした頃、はじめはこの八丁味噌の強い個性に驚いてしまい、しばらくは敬遠していました。でも、そのうちにその味に魅せられて、取り憑かれたことを思い出しました。

味噌汁は、出汁をとらないと美味しくないし、したがって面倒くさいし、その後塩分控えめの味が好きになったこともあって、味噌汁からも遠ざかって、もうすでに何十年です。

それでも、もちろん食事は自分で作っていますよ。

2

半世紀以上前、当時の日本女性としては、あるイギリス人ポストドクの「優秀な化学者は料理が上手なはずだ」という論理を新鮮な思いで聞きました。それから数十年後、この化学科の同級生のK氏が「昔は妻に最後まで面倒を見てもらうのは当たり前だったけれど、今は逃げられるかもしれないし、何が起きるかわからない。だから、男性でもお客様向け料理は別として、普通の料理位はできないとだめだ」、とおっしゃったのをなるほど、と伺いました。数年前、31SII6組のクラスメートのS氏は退職後杉並区の男の料理教室に入ってすっかりのめり込み、今では他のサークルの老人に昼食を供するまでになったそうです。農芸化学専門の彼は奥様が健康を考えて控えらえるバタetc.何でもふんだんに使うから、とてもおいしいお料理ができるのだそうです。昨秋学会でお会いした96才の糖の生化学会の大御所はヘルパーさんに任せておいては自分の好きなものは食べられないから、買い物から自分でするとおっしゃっていらっしゃいました。義務感でする料理からは文化は生まれてきませんよね。食べるだけでなく、調理を楽しむ心のゆとりがあってこその食文化だと思います。吉原様、さすがです!

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Yamagata 2018/02/16 (金) 15:20:52 ab5f4@42c01

Amazonで、吉原さんのエッセイに出てくるカクキューの「八丁味噌 赤だし 金カップ 500g」を買ってしまいました。 今夜は何十年ぶりに赤だしの味噌汁を作ってみますね。

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Yamagata 2018/03/23 (金) 19:13:20 ab5f4@42c01

 長い間、味噌汁を自分で作ることがありませんでしたが、その理由の一つには、作るのが面倒だという他に、余計な塩分を取りたくないというのがありました。若いうちに、いつの間にか塩濃度の低い味が好きになりました。外食があまり好きでないのも、外食だとどうしても塩分が多めなので食べるのが苦痛になるからです。

 カップ麺も、お湯を入れて1分くらいしてから汁を全部捨てて、改めてお湯を足して2分経ってから食べていますし、スーパーで買える生ラーメンも、付いているスープの素は三分の一使えば十分です。

 晩の食事に八丁味噌の味噌汁を作ることになって、おかずの野菜の蒸し煮の味付けは、油少々とミリン少々だけになりました。味噌汁で塩分を摂るなら、野菜の蒸し煮から塩分を減らそうというのです。

 驚いたことには、塩分がなくなって情けない味になるかと思ったら、野菜からにじみ出てきた味が実に味わい深く、今まで味付けをすることで野菜の本来の旨味を殺していたことに気がつきました。

 もとはと言えば、KEYさんのエッセイのお陰で、野菜の持つ本来の旨味に開眼しました。感謝、感謝です。