真昼の迫真ランド

【SS】Requiem:channel

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  • 3年前に書いたSSの焼き直しリメイクSSです。
  • 登場人物は旧ミバちゃんねるで活動していた人達になります。たまに小ネタもアリ
  • ジャンルは能力バトル系SSです。
  • 感想、その他ご意見等あれば遠慮なく書き込んでください。
  • 用語・設定解説トピ

    真昼の迫真ランド
    【新設】『Requiem:channel』用語・設定解説
    「『ミーバネルチャ』それがこの国の名前 ミーバース連邦でも屈指の大都市で、人口はおよそ3876万人。」 「私はそんな場所に生まれ、物心もつかないうちに両親に闇市で売り飛ばされた。
    zawazawa

  • 登場人物(キャラクター)解説トピ

    真昼の迫真ランド
    『Requiem:channel』登場人物(キャラクター)解説トピ
    身内向け能力バトル系SS『Requiem:channel』に登場するキャラクターのプロフィールを解説するトピックです。 ※ご意見・感想等あれば遠慮なく書き込んでください。 用語・
    zawazawa

  • イラスト・挿絵提供:エマ(@Kutabare_)

  • 作中関西弁監修:うめぽん(@a39f7723d5)
  • 主なリスペクト作品:『東京喰種:re』『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』…その他諸々



#Channel chapter
#01「灰とネズミ」>> 1~>> 20
#02「籠の中の鳥」>> 23~>> 44
#03「胎動」>> 46~>> 65
#04「Cheap-Funny-SHOW」>> 71~>> 88
#05「幼猫と誅罰-戯-」>> 89~>> 96
#06「幼猫と誅罰-壊-」>> 97~>> 120
#07「野蛮」>> 121~>> 137
#08「Mayhem of prison blake」>> 138~>> 179

→「FREAK'S(フリークス)






「ミーバネルチャ」それがこの国の名前
ミーバース連邦でも屈指の大都市で、人口はおよそ3876万人
他所からは「活気もあって治安も良い国」「街並みも美しく観光地にもうってつけ」なんて評判らしいが、私はこの国の腐敗し穢れた場所を知っている。
ミーバネルチャ中心街(セントラルシティ)から遠く離れた
ここ、ミーバネルチャ西部街(ウェストシティ)

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商業ビルの廃墟が立ち並び、古びたアパートメント
ごく庶民的な料理を振舞う屋台もあれば非合法な物品を売買する露天商もある玉石混交とした闇市
それはこの国の後ろめたいであろう一面だ。
私はそんな場所に生まれ、物心もつかないうちに両親に闇市で売り飛ばされた。

言い値は817(ユーロ)だったらしい。

相原ガガ美
作成: 2021/06/21 (月) 20:45:45
最終更新: 2023/05/11 (木) 16:58:17
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1
ちゃむがめ 2021/06/21 (月) 21:43:43 修正

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その時私を買ったのは「ミッキー」と名乗るネズミのマスコットキャラクターの仮面を被った奇妙な人物だった。
全身にレザーの黒いコートを纏い、とっくに廃園した遊園地のマスコットキャラクターの仮面を被る人間、如何にもマトモではない。

鉄格子の掛かった部屋の隅に(うずくま)る私に目が止まった彼はまじまじと私を眺めた後、ハッとしたような顔になったのが仮面越しでも分かった。
その後彼は店の奥のソファにふんぞり返っていた主人に声を掛けた。
「としあき、このガキはいくらだ?」

その時初めて聞いた特徴的な甲高い裏声はまるで市場に売り飛ばされる前の記憶の中、モノクロのアニメーションでコミカルに躍動する、まさしく彼の被った仮面のキャラクターその物だった。

2
ちゃむがめ 2021/06/21 (月) 22:03:49 修正

「あぁ…その娘は、817€。銀髪が綺麗でねぇ、生まれつき銀髪っていうのはこの国じゃあ希少だ。その上碧眼と来た、下手なガラス細工なんかよりもよっぽど美し…」

「買う」

「えっ」

饒舌な主人の品評を遮るようにミッキーは言った。

「…いいのかい?ミッキー、それに50€払ってくれれば"品定め"だってさせてやるのに。」

「お前と一緒にするなペド野郎、いいからさっさとこの錠前を開けろ。」

「…はぁ」

ミッキーの苛立ちに気が滅入ったのか主人のとしあきはそそくさとキーハンガーから牢の鍵を取り、格子の中の私の手を取った。

「いいかい?新しい主人にもちゃんと可愛いがってもらうんだよ」

目を細め私の全身を舐めるような視線を向け、たるませた頬を(あか)くし、唇の両端を釣り針で吊り上げたような気味の悪い笑顔は私に過去の陵辱の記憶を思い起こさせ、屈辱を味わわせんとる悪意に満ちた笑顔だ。
私は反射的に顔を逸らした。

「いい買い物ができた、じゃあなペド商人」
私の手を引いて足早に店を出ようとするミッキー、背後に物惜しそうなとしあきの視線を感じた。

入り口を抜けて私は振り返る、そこには赤レンガに覆われた館、いつも格子から除いていた群青の空が広がっている。
入り口の上にはネオンサインで「pousse Jardin(双葉の園)」と綴られている。
私はこの忌まわしき館から解放された、しかしそれは同時に新たな主人の支配に囚われることを意味する。
私は両手の手錠を見つめながら今にも悲壮が(せき)を切って溢れ出そうなのを抑えながら仮面の変人(ミッキー)と館の前で立ち尽くしている。

3
ちゃむがめ 2021/06/21 (月) 22:28:38 修正

「それ、外したいか?」

突然のミッキーの問いに私は戸惑う。彼は私の手錠を指差しながらそう呟いた。

「邪魔、だから…外したい。でも、付けていたい…。」
私が彼に放った第一声は慌てふためいていたせいかチグハグな回答になってしまった、未だ牢屋から解放されたばかりだったせいか感情の整理が追いついていなかった。
恥ずかしさのあまり彼から目線を逸らす。
きっと今頃彼も困惑しているのだろうか、その私の予想を裏切るように彼はすぐさま返答した。

「そうか」

そう言って彼がポケットから取り出したのは生まれて初めて目にする珍妙な鍵だった。
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まるで幼児が遊ぶ玩具の一部のような、童話の世界に出てくるような。
様々に形容したくなる程に珍妙な鍵を掲げて彼は警告するように言った。

「今から両腕を広げて前に差し出せ」

「え?」

当然の如くその鍵でこの手錠を開けるのかと思っていた私は驚きを隠さなかったが、彼の言う通り両腕を手錠を繋ぐ鎖いっぱいに伸ばして前に差し出す、まさか…
そう思っていた直後、彼は鍵を手錠に振り下ろす
料理人が包丁で野菜を切るような手つきで。
驚くことに手錠を繋いでいた鎖は切り離され、手首に手錠が残ったまま私の両手は自由を得た。

4
ちゃむがめ 2021/06/21 (月) 23:29:07 修正 >> 3

「なん……で…?」

「もうすぐ迎えが来る、冬のナマズみたいに大人しくしてろ」

あっけらかんとしていた気持ちの私を突っぱねるように彼は言う。
奇妙なナリで多くの謎を抱えている彼にも親しい仲間がいるんだ、と驚きを通り越して呆れてしまった。

こんな変なヤツとつるむなんて、そいつも絶対同じくらい変なヤツに決まってる。

さて、一体次はどんな変人が来るのだろうと私の募らせていた不安を突き飛ばすように遠くからキキーッという車ののスリップ音が鼓膜を突いた。

5
ちゃむがめ 2021/06/21 (月) 23:33:25 修正

やがてその車は目の前で急ブレーキ気味に停車した、車体は黄色、フロントやボンネットには何度も衝突したと思われる凹凸(おうとつ)がある。
ルーフ(車の屋根)の上には「miivernelture taxi(ミーバネルチャ タクシー)」という表示灯が付いている。

「待たせたな、その子がお前が言ってた女の子か」
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運転手の男は黒無地のスパッツの上に全身に黄金色の服を纏い所々に緑色のハート形の装飾が付いた何とも例え難い奇抜な服装をしていた。

「ハハッ!そうだ!全部予定通りだった!」

先程まで無愛想な印象だったミッキーが一転して嬉し気な様子で返事をした。

「そうか、"予定通り"ならいい、"予定通り"じゃあなかったら俺達は困るところだったんだ、それでいい。さァさァ早く乗ってくれ、俺はこれ以上日光を浴びたくないんだ。」

その運転手は「早く乗れ」と催促する。
ミッキーに手を引き寄せられて半ば強引に私はタクシーに乗せられた。

「ハハッ!安全運転で頼むよ。」
「あぁ、安全運転でハイスコアを叩き出してやる。」

エンジンが掛かるとタクシーは急発進して猛スピードで何処かへと走って行く。
檻を抜けて約30分、止めどなく降り掛かる混沌の雨に打たれ私は未だに感情の整理がつかずにいた。

6
Black Nikka Whisky 2021/06/21 (月) 23:40:26

これ前にも読んだことあるけどそれのリメイク版か
陰から応援してます

7
ちゃむがめ 2021/06/21 (月) 23:42:55 修正 >> 6

応援あざす꒡̈⃝、登場直後にご本人に応援されてしまいました

8
いろ 2021/06/21 (月) 23:57:22

結局最後どうなったのか、そもそも終わったのか思い出せなかったかので完成が樂しみです

9
ちゃむがめ 2021/06/22 (火) 00:12:41 >> 8

前のはチャムが失踪して未完で終わったから
今回は最低でもキリがいいところまでは書いて完成させます

10
ちゃむがめ 2021/06/22 (火) 02:01:39 修正

混沌を乗せて依然タクシーは速度を緩めることなく未知なる目的地へと走り続ける。

「ところでその女の子、名前なんて言うんだ?」
運転手が尋ねる。
「ハハッ!元ご主人様(としあき)は"fran doll(フランドール)"なんて呼んでたな」

教えてもいないのに私が元主人(としあき)に呼ばれていた名前を当然のように知っている。

「フランドールか、なら綴りは"Flandre(フランドール)"だ馬鹿」
「…知るか、ハハッ!とりあえずお名前は"フランドール"でいいか」

"フランドールちゃん"、としあき(アイツ)にはそう呼ばれていた。
だからその名前は思い返したくもない記憶を蒸し返してしまう、だから嫌…
…絶対に嫌だ。

「…嫌。」

「「は?」」

「あっ…」

心の中で拒絶する気持ちが思わず声に漏れ出てしまった、不味い…"イかれた男2人"に対して反抗的な態度を取ってしまったら何をされるか、想像に難くない。

「それじゃあお前は"何者"なのか、自分自身で決めろ。」

ミッキーから思っても見なかった答えが返ってきた。

「名前………いいんですか?」

「お前はもう檻の中から抜け出した、その身にはもう縛り付ける錠も枷もない、己に名前を付ける権利くらいあるだろ?」

「……そうかも」

私は己の名前を考えることに無我夢中になった、何か…私に在るモノ…
ふと運転席のバックミラーが目に入った、そこにはまるで燃え尽きた灰のように少し褪せた銀髪、碧眼、キャンバスのような白い肌。
これが私?生まれて初めて目にする己の姿を目にして様々な感情が駆け巡った、しかし最後には「感動」という感情が心を満たした。
己自身を知覚する事が、こんなにも幸せなことなんて、思いもしなかった。

灰菜…」

ふと口走ったその言葉にミッキーが反応する。

「灰色の髪で"灰菜"か、ハハッ!フランドールなんかよりよっぽどピッタリ名前だ。」

「"灰菜"…か、でもまぁまぁいいんじゃあないのか〜?まぁまぁの出来だと思うぜ。」

「この中でネーミングセンス一番ナンセンスなお前が批評するなよ"ホーモォ"、ハハッ!」

「黙れッ!このドブネズミがッ!!」

「…ふふっ……」

「おい灰菜!テメー今"俺の名前"を笑いやがったな?^^;」

「あっ…ごめんなさい…ちょっと、独創的な名前だなって思って……」

「ハハッ!お前新入りにも名前のダサさを馬鹿にされてるぞ。」

「ホーモォさんって、失礼だけど…同性愛者なんですか?」

「俺は異性愛者(ノンケェ)だ、覚えとけカス共」

「「wwwwwwwwwwwwwwwwww」」

その後もたわいの無い会話は続き、気づけば私は変人2人、いやミッキーとホーモォと打ち解け合えていたような気がする。

そうこうしているうちにどうやらタクシーは目的地の近くに到着したらしく静かに停車した。どうやらどこかの立体駐車場の地下のようだった。

タクシーの中の混沌はどこへやら、いつしか私は未知の目的地へ思いを馳せ、どんな楽しい人達がいるのだろうかと、期待を膨らませていた。

12
ちゃむがめ 2021/06/23 (水) 03:10:53 修正

地下駐車場から彼らの言う目的地まで向かうこと約5分、ミッキーとホーモォは一軒の喫茶店の前で足を止めた。
足元に広がる路地裏の常闇を店内のガラス越しに照明が仄かに照らしている、喫茶店の名は星野珈琲

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喫茶店の中へ入るとそこにはごく普通の装いをした店のマスターがカウンターの前に佇んでいた。
カウンターの端には何やら独りぶつくさ呟いてる先客もいる。

「いらっしゃい。」

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店の店主は眼鏡を掛け、シワ一つないTシャツの上から黒いサロペットを着用し、檻の中を出たばかりの私の目には今までに目にしてきた誰よりも"マトモ"そうな第一印象を受けた。

「ご注文は?」

「コーヒーを3つ、ミルクも淹れてくれ。角砂糖は"8つ"」

「かしこまりました。それじゃこちらへ、新入りのお姫様もね。」

そういうと彼は店奥の上り階段へと私達を案内した。

「ところでそのお姫様、お名前はなんて言うんだい?」

「…灰菜です、初めまして…!店長さんは…」

「僕は星野源、星野でいいよ、これからよろしくね。ところでミッキー灰菜ちゃんの部屋のことなんだけど」

「ハハッ!分かってる。"モノクロム"の部屋を使う」

その時ホーモォがこちらに憐みの視線を向けながら呟く。

「よりによってあいつの部屋か、灰菜には不憫だな」

「大丈夫!僕がさっき掃除もしたし、灰菜ちゃんのために彼女が着ていた服も仕立て直しておいたよ、ヤテツくんの服も少々拝借しておいたからね。年頃の女の子なんだからお洒落くらいはさせてあげないとね。」

「なんつーか、悪趣味な服しか残ってなさそうだが、灰菜が今着てるボロキレみたいな布よりかはまぁマシだしな」

「今来たばかりなのに、そんなにしてくれるなんて…星野さん色々ありがとうございます…」

「ハハッ!世話焼きがこいつの趣味なんだ、あまり気負いはするな」

「ははは…まぁそうだね、ひとまず今夜は解放されたばかりだし、イかれ男2人とのドライブで疲れてるだろうしシャワーでも浴びてゆっくり休むといいよ」

「ありがとうございます…!!それじゃあ今夜はおやすみなさい」

「そんじゃ、俺らもぼちぼち寝ますかね。明日もまた忙しくなるんだろ?ミッキー」

「あぁ…そうだな。明日に備えて養生しててくれ、それじゃあ、な。ハハッ!」

各々が割り当てられた部屋へと戻っていく、私もかつて"モノクロム"という住民が生活していたであろう空き部屋へと向かった。

13
ちゃむがめ 2021/06/23 (水) 03:37:54 修正

空き部屋の扉を開けるとそこには長年使われていなかったであろう埃を被った家具の数々が放置されていた。

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星野の掃除が間に合わなかったのだろうか床には所々に紙切れやページの破けた本、空き瓶が落ちている。
私はベッドの上の埃を払い除け、一呼吸置いて腰掛ける。
こんな部屋でもあの悪趣味な変態の牢獄(ドールハウス)に比べれば何倍もマシだ。
何よりもあの牢獄と元主人(としあき)から解放されて得た自由の愉悦の前では差して気にも止めなかった。
私は早々にシャワーを浴びた後、ベッドに飛び込んだ。

今日目にした様々な混沌の体験のせいか意識は直ぐに薄れていき、身体中の力が抜けていく

朦朧とした視界で部屋中を見渡したとき、ふと何か不気味な違和感を感じた、そんな気もしたが
違和感の正体を導く間もなく私の思考は深い夢の中の世界へと沈んでいった。

15
すたあか 2021/06/23 (水) 17:22:06

にしてもボロすぎだろ@イメージ

16
ちゃむがめ 2021/06/23 (水) 17:28:14 >> 15

言われてみるとめちゃくちゃボロすぎる、画像変えよ

17
かぼちゃまん 2021/06/23 (水) 17:37:46

面白そう、わくわくする

18
すたあか 2021/06/23 (水) 17:39:08

こいつずっとROMってたのか!????

20
ちゃむがめ 2021/06/23 (水) 17:46:42 修正

――――――――
―――――
――…

「あの灰菜とかいう女の子、あんな"曰く付き"の部屋で眠れるのか、俺だったらァ寒気がして一睡もできやしないな。」

「心配ないよホーモォ、急拵(きゅうごしら)えだったけど、最低限の整理整頓は済ませたし、ベッドメイキングだってバッチリさ。」

「相変わらずの"自信過剰"な"世話焼き"屋だな、お前ってやつは」

「あのねホーモォ、これは僕の持論なんだけれど、(ゲスト)への施しを自分で謙遜し否定することは、施しを受けた(ゲスト)に対する侮辱になると思うんだ。」

「…あぁもう分かった、お前の素晴らしいご高説を聞いていたら欠伸が出てきた…他の奴らも寝たし俺はもう寝床に着くぞ!」

「ははは…君にはこの紳士の機微が分からないか…おやすみホーモォ、あぁそれと、これは忠告だけど。」

「…何だ?」

「…灰菜ちゃんの部屋には行くなよ、君が彼女とここに来てから(よだれ)を垂らさんと必死に文字通り『固唾を飲む』のを僕は見逃さなかった、君は今晩彼女に"手荒なもてなし"をするつもりだったんだろ?」

「ハハッ、バカなジョークはよせよ。俺はもう若い頃とは違う、腹が空いたからといって共食いを始めるネズミのように扱うなッ!」

「そこら辺にしておけ、他の奴らが目を覚ますぞ」

「「…!?」」

「ミッキー…起こしてしまったかい?」

「ハハッ!いいや、俺もホーモォに用事があったんでな」

「…何だよ、俺に用事…って」ガタン

「お前がもし一時の迷いであの娘に手を出すという事があれば、その時俺達は迷わずにお前を殺すぞ。」

「………クソッ」

「腹は空かずとも必要があれば"ネズミ"は同胞を喰らうということ、よく覚えておけ。」

「…分かった、素直に白状する。俺は今日新入りのあの子を"つまみ食い"しようとしていた。腹を満たすだけならあの子に拘る必要はない、一時の食欲に負けて獣に成り下がるところだったのをお前達が目を覚まさせてくれた、感謝する…。」

「…僕の方こそさっきは感情的になりすぎていた、ゴメンよ。」

「ハハッ!それもそこら辺にしといてくれ、湿っぽいのはウチに似合わないだろ、今夜はさっさと寝てろ。」

「ま、そうだな…本当に欠伸が出てきたぜ…おやすみ…ミッキー、星野」

「お休みなさい、僕も明日の店の仕込みに備えて早く寝るとするよ…じゃあまた明日…」

「あぁ、おやすみ。」

21
いろ 2021/06/23 (水) 23:59:48

あ、ふうせんだ!!

22
いろ 2021/06/24 (木) 00:00:03

治安悪りぃな...てかネズミって共食いするんだね...

23
ちゃむがめ 2021/06/24 (木) 15:10:56 修正

―――
―――――…

「……ん」
目を覚ますと黄ばんで朽ちた天井、気怠げに身体を起こして壁に掛かった時計を見る、秒針は止まっていた。
クローゼットを開けると星野が用意してくれたであろう洋服が何着かあった。
昨日まで悪趣味な主人(としあき)の着せ替え人形だった私はどの服を着ていいか分からずに困り果てた。

「とりあえず…これでいいかな…」

白いレースのワンピースを手に取る、着替えに手間取っている場合じゃない
今日から私の、"灰菜"としての生活が始まるのだから───。

25
ちゃむがめ 2021/06/24 (木) 16:01:41 修正

「みなさん…おはようございます!!」

「おはよう灰菜ちゃん、そのワンピースとっても似合ってるよ」

にこやかな返事と共に私の着こなしを褒めてくれたのはカウンターで店の支度をしていた星野だった。

「…あの…ありがとうございます…」

服の着こなしを褒められたことは生まれて初めてだったから、思わず照れ臭くなってしまった。

「おはよう、灰菜」

階段を降りてきたのは昨日と相変わらずの出立(いでた)ちのミッキーとホーモォだった。

「あっ…おはようございます!」
「おはよう2人とも、もう出発かい?」
「ハハッ!"アザミ教会"の連中に野暮用があってな、灰菜と皆を頼む」
「了解、気をつけてね。」

そう言葉を交わすとミッキーとホーモォは急ぎ足で店を出た。
ホーモォが私とすれ違う一瞬、目が合った。
その瞬間何か言いたげな表情をしていたように見えたのは気の所為だったのか、私を一瞥(いちべつ)して彼はすぐに私の横を通り過ぎた。

「…ちゃん、灰菜ちゃん、聞いてる?」

「あっ、すみません!ちょっとぼーっとしてて…」

「あはは…彼らの存在感には半日くらいじゃ慣れないよね、気持ちはよくわかるよ。それでね、灰菜ちゃん今日のことなんだけど」

「…はいっ、何でしょう…?」

「今日のミッションはお勉強!」

「…え。」

勉強…pousse Jardin(双葉の園)にいた頃から私はどうも勉強は苦手だった。頭の出来が良い子供は高く売れると言うのでとしあきは園の子供達に学問を教えていたが、それを学ぶことの意義は教えてくれず、私はいつも馬耳東風、机に突っ伏して居眠りをしていたときのことを思い出した。

「勉強と言っても灰菜ちゃんが身構えるようなことはしないよ、君がpousse Jardin(双葉の園)にいた頃、外の情報を知る(すべ)は無かったと思うし、今日はこの国と街についての歴史と現状、そして僕らのことを少し教えようかと思うんだ。」

なんだ、良かった。
少しは学ぶ意義のありそうな"勉強"で。

「それなら私も…実は知りたいと思っていたので、嬉しいです!」

「そっか、なら良かった、今ならお客さんもどうせ来ないし早速授業を始めようか。」

「はい!」

私は純真無垢な女生徒のようにカウンター席に腰掛け
星野はまるで教鞭を執る大学教授のような立ち振る舞いでカウンターテーブルの前に立ち、語り始める。

170
にょろりんこ 2022/03/19 (土) 23:18:03 >> 25

画像1

27
ちゃむがめ 2021/06/25 (金) 02:06:46 修正

「双葉の園出身の灰菜ちゃんも知ってるだろうけれど今僕達が住んでるのはここ、西部街(ウェストシティ)。本国に於いて独立戦争で最も被害が出た場所は此処だった、だから辺り一面廃墟だらけ、僕らも含むけど戦後からこの街はギャングチームやマフィアが取り仕切っていて秩序はメチャクチャだ、国の管理人(アドミニストレータ)達もここを管理することは諦めたのか知らないけれど、滅多なことがない限り管理局の連中を寄越さない、まぁその方が僕らにとっても都合が良いんだけどね」

「あの…"管理人(アドミニストレータ)"と管理局…について教えてください…私世間知らずで…」

「ううん、灰菜ちゃんの境遇なら知らないのも致し方ないよ。」
「いいかい、"管理局"っていうのは"ミーバネルチャ治安管理局"の略なのさ、街に蔓延るワルをとっ捕まえるのが連中の仕事、他の国で言うなら"警察"だね。」

「…それじゃあいい人たちなんですね!」

「いや…実をいうとそういう訳でもないんだ、彼ら管理局の糸を引いているのは"管理人(アドミニストレータ)"、簡単に説明すると全ての判断は管理人(アドミニストレータ)に委ねられていて、管理局は彼らの命令に従う犬なんだ、彼らが黒を"白"と呼ぶならそれに倣って"白"だと言うような連中なんだ。」
「そしてその管理人(アドミニストレータ)達を纏めている更に上の存在がいる、その名も冬将軍、肩書きはowner(オーナー)。彼がこの国の(タクト)を振るう人物さ。」

情報量が多くて頭がパンクしそうだ…、頭痛がしてきた…。

「灰菜ちゃん、『情報量が多くて頭痛がしてきたぞ』って感じの顔だね」

「うぅっ…ごめんなさい……ひさしぶりにお勉強するから…」

「ごめんね灰菜ちゃん、この授業が終わったら気休めに星野ブレンドのハーブティーをご馳走するから、ね。もう少し頑張ってみよう!」

相変わらずこの人は"自信過剰"で"世話焼き"な人だな…。

「じゃあ、がんばってみます…!」

「うんうん!その調子!それで管理局の連中達が日夜問わず探し回っているモノが2つあるんだ、1つは犯罪者の巣穴。さて、もう1つは?」

「えぇ…!?えー…と、えーと…お金?」

「あはは…少しイジワルな質問だったかな…彼らが探し回っているのはそんな陳腐な"モノ"じゃない、正解は"断片(フラグメント)"…!」

「"ふらぐめんと"………?何ですかそれ…………?」

28
ちゃむがめ 2021/06/25 (金) 03:00:53 修正

断片(フラグメント)…聞き慣れない言葉に戸惑いを隠せなかった私に気づいたのか星野は申し訳なさそうにこう続けた。

「君ならもうてっきり知ってるのかと思ってた…もしかすると自分の断片(フラグメント)のこともまだ認知していなかったりするかい…?」

「あのっ…ごめんなさい、私本っ当に色々知らなくて…自分の断片(フラグメント)って言われても何のことなのかさっぱりで…」

「あちゃー…分かった灰菜ちゃん、大丈夫、今から僕が一から簡単に説明する。簡単に言えば極稀に人に備わっている超能力みたいなモノのことをこの国では断片(フラグメント)と呼んで、それを所持する者たちを断片者(フラグメンター)と呼ぶんだ。」

「そんな超能力みたいな力が…私に…?」

「ミッキーが連れてきたってことは恐らくそうなんだと思う、そうして管理局の連中達は断片者(フラグメンター)達の存在をコソコソ嗅ぎ回っている、何故なら公には断片(フラグメント)及び断片者(フラグメンター)の存在は否定されているからなんだ。」

「何故断片(フラグメント)の存在を否定するのでしょう…?」

断片(フラグメント)の力は常識では考えられない超常現象を引き起こす、場合によっては神にでも悪魔にでもなれる。そういう存在がいては管理局の連中が守っている秩序は簡単に崩れる、だから彼らは断片者(フラグメンター)達を秘密裏に拿捕し拉致、幽閉している…大人しく従わなかった断片者(フラグメンター)がその場で殺されたケースも過去にはあった。」

断片(フラグメント)を持って生まれただけで、国の秩序の名の下に自由が奪われる。
きっと彼ら管理局の人間達は私達のことを同じ人間として見ていない、まるで魔女や怪物の様に考えているのだろうと私は酷く失望した。
檻から出てChocola terrier(ショコラテリア)に迎え入れられて、ようやくわたしは自由になれたとばかりに思っていたのに、待っていたのは権力による抑圧だなんて知りたくなかった。表情を曇らせた私に星野の憐れむ視線が突き刺さる。

「…僕は持たざる者で"非断片者"だから…君に上手くかけてやれる言葉が見つからない…情けないよ…」

「星野さんは情けなくなんかありませんよ…」

「…灰菜ちゃん?」

情けないのはこの国の…断片者(わたしたち)の自由を奪ってハリボテの秩序にしがみついている管理人(アドミニストレータ)の奴らよ!

自分でも突然別人になったように声を荒げてしまいらしくないことをしてしまった。
星野は私に気押されたのか腰を抜かして尻餅をついていた。

「灰菜ちゃん…今の君を見て…昔のミッキー達を思い出したよ…」

「星野さん、今のこと、ミッキーさん達にはナイショですよっ!」ニコッ

(言われるまでもなくそうするつもりなんだけどな…)

30
ちゃむがめ 2021/06/28 (月) 16:23:45 修正

――――――――
―――――
――…

─────『アザミ教会 東部街(イーストシティ)支部』

画像1

いつ来てもアザミの教会はキナ臭くて敵わない。
中へ入ろうとそのまま門を通ろうとすると巡回していた教会の見張りに止められる。

「おや、鼠仮面のお方に奇抜な格好のお方、変わった客人がお揃いで…何の御用でしょう」

「ハハッ!教祖様とお話がある、どうか謁見させていただけないかな?」

見張りの女へ対してミッキーは白々しく問い掛ける。

「ご生憎ですが、"教祖様"は現在本部に居られます。此処には居ません、また事前連絡のない来客は当教会はお断りしています。」

「あー三文芝居はそこらへんにしておけ、教祖がどういう了見だかは知らないがこの支部に来てるってことを俺達は知っている。」

「そう言われましても、そもそも貴方たちのような不審者を教会の敷地へ通すのは…」

「何だと…?不審者なのはお前達教会関係者も一緒だろうがッ!」

門の前での俺と見張りの問答を見兼ねたから奥から教会の幹部と思わしき女が現れる

「…まぁいいではないですか、お待ちしていました、ミッキーさんにホーモォさん、教祖様がお待ちかねです、どうぞこちらへ」

「フンッ、少しは話の分かるヤツが来て助かったな」

「…申し遅れました私、アザミ教会東部街(イーストシティ)支部長、猫冴彩奈(ねこざえ さな)と申します、以後お見知りおきを」

俺達は猫冴の後に続き、切れかかった電灯の点灯が薄気味悪く照らす仄暗い廊下の奥、更なる深淵の中へ歩みを進める。

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すたあか 2021/06/28 (月) 16:27:58

さなねこも登場するのか・・・

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ちゃむがめ 2021/06/28 (月) 16:51:51 修正

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どれくらい歩いただろうか、ふと顔をあげると奥に碧い煌めきが射すステンドグラスが見えた、俺達は礼拝堂に到着したようだ。

「客人をお連れしました、教祖様」

冴猫が一礼するその先、教祖と思しき人物が罰当たりに教壇の上に腰を下ろしていた。その周りには教祖の護衛と思わしき数人の人影もある。

「やぁ、久しぶり、元気そうで安心したよ。ミッキー、ホーモォ」

「ハハッ!久しいな、茗夢(のりゆめ)、お前のその目障りなツラは相変わらずのようだが。」

「まぁ…不老不死の"断片(フラグメント)"、私が教祖として崇められる大きな理由、嫌でも顔つきは変えられなくてね。」

「それで、君達がわざわざこの私の"謁見"に来るなんてどういう風の吹き回しかな、まさか君達もこの教団に入信しようって?」

「ハハッ!バカ言うな、今日はわざわざ忠告しに来てやった。」

「フーン…忠告って?」

「お前達が目論む、ミーバネルチャの国家転覆、"アザミ革命"について…その中止をだ。」

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ちゃむがめ 2021/06/28 (月) 17:30:19 修正

「…やっぱり勘付いてたか、アザミ革命のことは」

教祖の茗夢は焦りの様子を見せるというよりは面倒なことになったという怪訝な表情を見せそのまま続ける。

「ミッキー、キミが持つ未来視の断片(フラグメント)で嗅ぎつけたんだろうけどご生憎様、水面下で進んでいた革命の準備はもう殆ど終わったよ。今更中止にしろと言われたって私達の革命の歩みを止めるにはもう遅いの。国家へ向けるピストルにもう弾丸(たま)は込められているの、後は引き金を引くだけっつーわけ。
それに…視えているんでしょ?その目に、この革命の結末が」

茗夢は嘲るようにミッキーに視線を向けてそう囁いた。
しばらくの沈黙が続いた後ミッキーは重い口を開いた。

「ハハッ…その結末を話すわけにはいかないな、その結末を今ここで話せば、これを聞いたお前達の行動は変化し、未来がより俺達にとって悪い方向へと分岐する可能性があるからな。」

「フーン…それじゃあ、大方のシナリオはそのままで良いのにわざわざそんなことを進言しに来たっていうのは何故?」

「ハハッ!革命の全てを"お前ら"の思い描く通りのシナリオにさせない為だよ。」

「あはははっ、なんじゃそりゃ…ははははははっ!」

腹を抱えて噴き出す茗夢、この女の仕草の一つ一つは他人(ヒト)の神経を逆撫でさせる。

「それに…俺の様な未来を見通す断片(フラグメント)を持たずとも、お前にもその革命の結末は視えているはずだろ、茗夢。」

その瞬間不敵に笑っていた茗夢の表情が一瞬、強張りを見せたのが分かった。

「なーに言ってんだか、さっぱり分かんないよ…ドブネズミさん。私には神のお告げを聞くことはできても預言の力は持ち合わせていないんだから。」

「…もう口減らずのお前に話すことはない。そもそも俺が忠告しに来たのはお前じゃない、教祖様の周りにいるお前ら下っ端共だからな」

ミッキーはそう言うと茗夢の周りに物静かに佇んでいた信者達を指差した。神社達はお互いに顔を見合わせており動揺を隠しきれないようだ。

「命が惜しかったら管理局の連中には楯突くな…以上だ、じゃあな、行くぞホーモォ」

「…あぁ」

意味深な忠告を最後にミッキーはステンドグラスから差し込む光を背に来た道へと戻っていく。
俺は数歩遅れてミッキーの後へと続く、ふと後ろを振り返ると茗夢は相変わらず不敵な笑みを浮かべてケタケタと笑っていた。

「どうなっても知らねーぜ…インチキカルト教団の犬共」

俺達はアザミ教会 東部街(イーストシティ)支部を後にした。

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ちゃむがめ 2021/06/28 (月) 17:54:03 修正

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「教祖様……彼らは一体何者なのでしょう?」

「ふふ…あぐかるちゃん、彼らは西部街を根城にするChocola terrier(ショコラ テリア)という享楽主義的組織のメンバー、鼠の男はその首魁だよ。まぁ個人的な昔の知り合いでね。」

「…そうだったんですか」

「教祖様、革命の計画にお変わりは?」

「猫冴、勿論明日午後12:00、手筈通りによろしく頼むね。」

「畏まりました、教祖様。」

「さて、私達も中央街本部へ帰ろうか、お邪魔したね、皆。」

「いえ、滅相もありません、教祖様。」

「あはっ、海斗(カイト)くん、そんなに畏まらないでよ。それじゃあ帰ろっか眼鏡(みかがみ)。」

「はっ、はひっ…!」スタスタ


「"管理局には楯突くな"…か。…余計なお世話だこと…」ニヤァ

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ちゃむがめ 2021/06/29 (火) 23:00:43 修正

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――…

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「…遅くなったな」

「2人ともおかえり。」
「あっ…おかえりなさい!!」

ミッキーとホーモォが用事を終えて帰ってきた頃、外はすっかり日が落ち、辺りには夜の(とぼり)が降りていた。

「勉強は順調か?灰菜」

「…もうクタクタです……」

「あはは…今日は一日中、色々なことをみっちり教えたからね…頭もパンク寸前じゃないかな…」

私は今日一日中、喫茶店に客が来る合間を縫って星野からこの国を取り巻く勢力、断片(フラグメント)と呼ばれる異能力、ミーバネルチャ建国の歴史etc…色んなことについて教わった。
自分から進んで教わったものの、予想だにしなかった情報量に私の頭は星野の言う通りパンク寸前だった。

「ハハッ!そうか、順調そうで何よりだ。」

「それよりアザミ教会の連中の様子はどうだった?」

「アイツらのことならミッキーの予知通り、『俺達は"革命"がしたくて堪らないッ!』というツラだった、だから一応忠告はしてやったぞ、教祖様が駐在していた東部街(イーストシティ)支部からはるばる他主要都市の支部まで回ってな。」

「それは遠路遥々のご足労だったね、すぐに休めるようにシャワーの用意とベッドメイキングもしておいたよ。」

「ハハッ!助かるよ星野、その前に一杯飲ませてくれ。」

ミッキーとホーモォは珍しく憔悴しきっていたようで奥のテーブル席に倒れるように座り込んだ。

「任せてよ、ご注文は?」

「マティーニを1つ、頂こうか。」

「じゃあ俺は一昨日採った"ロマネ・コンティ"を。それとマスター」

「…なんだい?」

「あそこの席の"レディ"にオレンジジュースを一杯差し入れてくれ、"昨日のお詫び"だと伝えてな…」

そう言ったホーモォの視線の先にいるのはカウンターの端で疲れ果て突っ伏していた私

「えっ…!?」ガコン

「かしこまりました…それでは暫しお待ち下さいませ。」

私は思わず驚いて席を立ってしまう、"昨日の詫び"に心当たりがなかったからだ。
ホーモォは私と目が合うと照れ臭そうに俯く。
気の所為かミッキーが仮面の奥でクスクスと嗤っているような気がした。