蚩尤 ☆5、B3A1Q1かB2A2Q1、いわゆる「雑に強い」の極限みたいな方向性で、状況を選ばず働ける、盛り盛りな性能でお願いします。 スキル、宝具の選定及び効果はすべてお任せします。
材料 ステーキ グレース・バッドのランプ肉 200g (10代前半の処女の女児のランプ肉でも代用可能) 塩、胡椒 適量 油 大さじ1/2
グレイビーソース 有塩バター 20g 薄力粉 大さじ1 赤ワイン 大さじ3 ワインビネガー 大さじ1 蜂蜜 大さじ1/2
1.まずは肉の下処理を行います。
「いやああああ!!!!はなして!!この変態!!ママに言いつけてやる!!」
泣き叫びながら階段を駆け降り逃げ出そうとする少女を鷲掴みにして捕らえる。 当然少女は抵抗し、肉付きの良い可憐な脚で蹴り、白く生え揃った歯で噛みつき、柔らかく小さな爪で食人鬼を攻撃する。
「あぁ...いいですね、いい...腹部を蹴り上げられる衝撃、生えかけの牙が肉に刺さる感覚、子猫の癇癪のような肌を引き裂く引っ掻き...ふぅ...なんとも、気持ちいい...!!」 「ひぃっ!!や、やだ...たすけ──かはっ!?」
少女の儚い抵抗は、異端なる精神構造を有する人型の怪物にとって快楽と身震いにしかならない。 あまりにも異様な反応に怯える少女の細い首を殺人鬼の両手が絞めあげる。
「あがぁ!があぁ!がああああ...!!」
宙に浮き、脚をばたつかせる少女の喉から苦しげな呻き声が溢れる。 目から涙が搾り出され、唾液が撒き散らされる。 その愛らしい今際の足掻きは怪物の嗜虐心に火を付けたのか、興奮のあまり全霊の力を持って少女の首を握り潰した。
「かひゅっ...かはぁ...っ」
最後の息が吐き出され、少女の身体からは力が抜け、手脚はだらんと垂れ下がる。 膀胱は弛緩し、毛も生えていない未成熟な股ぐらから尿が滴り落ちる。
「あぁ勿体ない勿体ない...これはコップに溜めておいて後でいただきましょう」
2.皮を剥ぎ、下処理をしたランプ肉のドリップを丁寧に拭き取り、全体に胡椒を振ってなじませた後130°ほどに熱したオーブンで網に乗せた状態で20〜30分ほど焼く。 裏返してさらに15〜25分焼く。
3.仕上げに肉に塩をよくなじませて、油を引いたフライパンで片面20秒ほど焼き、焼き色を付ける。 美味しそうな焼き色が付いたら肉を休ませて予熱で内部に火を通します。
4.肉を休ませている間にグレイビーソースを作りましょう。 先程肉を焼いたフライパンに有塩バターを溶かして薄力粉をふるい入れ、弱火で炒めます。 粉っぽさがなくなったら残りのソースの材料を全てフライパンに入れて加熱し、程よいとろみが付いたら出来上がりです💛
陽が落ち、夜の帷が下りる。暗き空には煌々と狂おしき満月が浮かび、窓から染み出す月明かりがテーブルに並べられた晩餐を照らし出す。 付け合わせのマッシュポテトと蒸した人蔘と共に乗せられた、グレイビーソースがたっぷりとかけられた分厚いステーキ。 怪物が席に付き、食前の祈りを捧げる。
「...父よ、あなたのいつくしみに感謝して、この食事をいただきます。 ここに用意されたものを祝福し、わたしたちの心と体を支える糧としてください。 わたしたちの主、イエス・キリストによって...アーメン」
研ぎ澄まされたナイフが肉を切り裂き、フォークが突き刺し口に運ぶ。程よく酸味の効いたグレイビーソースにより肉の味が引き立ち、ほのかに癖のある脂の味が口一杯に広がる。 ナイフとフォークがかつておしゃまな少女であった肉塊を引き裂き、怪物の胃袋に収めていく。 美味しい、美味しい、美味しい...💛 夢中になって頬張り、咀嚼し、口内に飛び散る少女の肉汁と血と絶叫を何度も、何度も脳内で反芻する。 皿にこびり付いた肉汁も余す事なく、パンで全て拭い取り最後の一滴まで味わい尽くし、そして。
「...ご馳走様でした💛」
今宵の月下の晩餐は終わりを告げた。
『魔王』サマエル 初音ミク《ピノキオピー》 / 神っぽいな 他薦 神を否定し神に成り代わり、 玉座で天使は魔王と化した。
「私のツレになんか用?」 それは単なる気紛れだった。 大通りでチンピラ数人が亜麻色のティーンエイジャーの少女に因縁を付け、良からぬ事をしようとした場面に出会したのだ。 大阪に原爆なんて落ちていないと主張する噂の歴史家…その家に行く為、タクシーを拾おうとした時、偶々目についた。 放っておけば良いと達観する魔術師の自分を心の中で張り倒して口から飛び出たのが最初の言葉だ。 「あぁ? 姉ちゃんのツレぇ?じゃあ姉ちゃんが相手してくれんのか?」 当然のように此方に注意が向いた。件の少女は此方を見て、困惑している。 …まぁそうよね。誰ですか!?とか言わない分空気読んでくれてるわ。 良く見れば背負った竹刀に手を掛けている。チンピラ相手に一戦交えようとしていたようだ、度胸あるわね。 ふと、彼女の指を見ると中々の竹刀タコが無数にあった。友人であるリアを思い出す、彼女も剣タコが幾つも合ったっけ。 「相手する?冗談、チンピラ相手にする程安くないんだけど」 「このクソアマ!」 私の挑発に先頭の一人が激昂して殴りかかってくる。瞬時に思考と感覚を加速。うん、誉めに誉めて喧嘩慣れした素人ってとこね。
加速魔術を使うまでもない。身体強化のみでチンピラの拳を避け、その腕を掴み、捻り上げて間接を極める。 「ガァッ!」 下がった顎に向けて膝を一撃。白目を向いて倒れる。 「……ちっ!」 二人目はそれなりにやるようだ。ピーカーブースタイルで此方に相対する。相手にするにはちょっと面倒だ。 「…スタートアップ」 だから少しだけ加速する。本来であれば5小節必要な魔術だが、友人であるトゥモーイ・ディットィエルトの協力で一瞬の動きであれば1小節で行使できる。 鳩尾に拳を一発、顎に一発、ついでに額にデコピン一発だ。何があったかも分からずボクサー崩れは吹き飛ぶ。 三人目は……既に亜麻色の少女が竹刀で痛い目に合わせていたようだ。トドメに頬をビンタしておこう。 「クソっ!覚えておきやがれ!」 「うっさいばーか!一昨年来やがれってのよ!」 捨て台詞を吐いて逃げるチンピラに石と罵倒を投げる。良し、命中! 「あの……ありがとうございます!」 満足げに振り向くと亜麻色の髪の少女が深々と頭を下げていた。 「いいのよ、気にしないで。 困った時はなんとやらっていうでしょ。それともお節介だったかしら?」
「いえ!そんな事ありません!」 少女は私の少し意地の悪い言葉を慌ててぶんぶんと手と頭を振り否定する。 その様がとても可愛らしい。 「ふふふ、ごめんなさい、冗談よ」 私の微笑みを見て少女は胸をなでおろした。姪の未来と同じくらいの歳かしら。 「私は黒野逸花、フリージャーナリストよ。貴女は?」 「鴈鉄梓希です!」 元気が良い。そして言葉や仕草の端々から育ちの良さが分かる。決して厳戒体制にある大阪で何事か悪さをしようとしたり、忍び込むタイプでは無さそうだ。 「えっと、鴈鉄さん? 貴女はこの大阪でなにをしているの?」 「はい…実は話すと結構長くなりまして……」 それが私、魔術師黒野逸花と少女鴈鉄梓希のはじめての出会いだった。 この時は私と彼女、そしてクエロんの三人に他の子達も含めてあんな騒動に首を突っ込むことになるとは思いもしていなかったんだけどね
それは思いがけぬ出会いだった。 目の前に立ち塞がっていた複数人の“輩”の事ではなく、それらを掻き分けるように現れた女性のこと。 大きい。ひと目見て感じた印象は、その身長や服装も相まって「大人の女性である」というものだった。
彼女は私を一瞥すると、輩へ向けて「私のツレ」だと言い放つ。 思わず面を喰らってしまった。これが試合だったならキレイに一本を取られていただろう。 それほどまでに堂々と、微塵の“嘘”も感じさせずに言い放つ女性に対し、私は“無言”という態度で話を合わせた。 恐らく女性は輩に絡まれている私を見かね、助けに入ってくれたのだろう。 ともあれ人手が増えるのはありがたい。この状況をどう切り抜けようか、少し迷っていた所だったから。 ……竹刀を握り締める力を僅かに抜いて、標的を最も近くの輩へと絞る。
女性の長髪に一人の輩が食って掛かり、合わせて二人目の輩も飛びかかっていく。 その様子を尻目に私は狙いを定めていた輩に照準を絞る。向けられた視線に気がついたか、輩も少し遅れて構えを取った。 他二人と違い、この男はある程度理性的であるようだ。竹刀を持つ私に対し、間合いに入らぬよう距離を置く。 その上で手にしたナイフを懐に滑り込ませるタイミングを伺っている。成る程、これは“実戦”慣れしている。 関節の軋むような音が響く向こうとは異なり、此方には暫しの沈黙が流れる。 お互いに出方を伺い、様子を探る。恐らくは先んじたほうが負けるだろう……と、輩は感じているだろう。 だからこそ、その虚を突いた。文字通りに意識の合間を縫うような、“刀”という得物からは想定し難い瞬速の攻撃。 即ち…………中学年の剣道では禁じ手とされる「突き」である。
輩は当然「打ち」で来ると思っていたのだろう。竹刀を振るう隙を狙っていたのだろう、とも推測できる。 けれど「突き」に予備動作は無い。加えて間合いすら読みにくく、一歩踏み込むだけでその切っ先は相手の喉元に達する。 短く空気が漏れる音が響き、輩は後ろへと倒れ込む……そんな彼の襟首を掴み、女性はビンタを一つかまして“一本”とした。
────その戦いの中で、私は思いがけないものを見た。 それは一人目を倒し、二人目に相対した際の女性の動きである。 一人目の輩を打ち捌いた彼女の動きは、洗練されていて手慣れてはいたが常識の範囲内に収まる動きだった。 けれど二人目と打ち合った時……女性の動きが「加速」した。僅かな一瞬だが、その動きは人間のそれを凌駕していた。 彼女が名だたる格闘家であったとしても現実的とは思えない筋肉の動き、身体の敏捷性。 加えて「加速」の瞬間に零れた、形容し難い“気”の流れ。つまるところ……“魔術”なのではないか、と。
常人離れした戦いには経験があった。クエロさんのスタイルも“一般的”とは言い難いものだったから。 義肢は兎も角、クエロさんが扱うものは神秘的で穢れのない……“奇蹟”とでも言うべきものだ。 一方で今彼女が発動した魔術は、既知の“奇蹟”とはまた異なる雰囲気を孕んでいた。積み重ねられた理論に基づく“学術”……のような。 その僅かな気配の違いが私の興味を引き立てた。クエロさんとこの女性、同じ“魔術”でありながら何故雰囲気の違いがあるのだろうか。
「……すみません、黒野さん。もう一つだけお伺いしても良いでしょうか?」
彼女に助けられた後、軽く事情を説明して私が置かれている立場を理解してもらった。 大会のため大阪を訪れたが避難し遅れ、戦いに巻き込まれた末に監督役の協力を得て聖杯戦争の元凶を探っている……と。 事情を聞いて女性……黒野さんは納得したような表情を浮かべていた。
その会話の最後に、私は抱いていた疑問を投げ掛けることにする。 気軽に聞いていいものなのかはわからない。私のような「一般人」が知っていい情報なのかもわからない。 黒野さんのような「魔術師」にとっては不都合なものかもしれない……けど、それでも尋ねずにはいられなかった。 もし答えが聞けないならそれはそれでいい。今はとにかく、込み上げてしまった「興味」を解消してしまいたい。
「先程黒野さんが戦っていた時……一瞬だけ、動きが“速くなった”ように見えました。 あれは……伝え聞くところの「魔術」というものなのでしょうか」
……その問い掛けが後に自らの運命を大きく左右する切掛になろうとは、この時の私は知る由もなかった。
クエロさんとはまた異なる世界を生きる“魔術師”と出会った日。その世界の根底たる“魔術”に触れた日。 これは目まぐるしく移り変わる“聖杯大戦”の一端であり……私の人生に於ける大きな転機の一つである。
「あの...お願いします...おうちに帰してください...」 「あなたはもうおうちには帰れませんよ?」
雪を想わせる短髪と大きな赤いリボンのコントラストが可憐な幼い少女が、椅子に座った状態で縛り付けられている。 両腕は背もたれごと縄で巻かれ、両脚は椅子の脚に沿って固定されている。
「お父さんが待っているんです...!心配させたくないから、帰してください...ッ!」 「あなたも、お父さんも、何も心配する必要はないんですよ?」
父を心配させまいとする少女の健気な懇願を受け流し、怪物は今回の凶器を手に取る。
「雪美さぁん、これ、なんだかわかりますか?」 「え...?ガス、バーナーです。お父さんがお肉を焼く時に使ってました」 「正解です。これはお肉を焼く道具、ガスバーナーです。今からこれであなたを焼きます」
そう言うと怪物はバーナーの噴射口を少女の白い太ももに向け、調節ねじをいっぱいに捻り切り、着火ボタンをカチカチと鳴らし始める。
「っ!?な、なんで!?や、やめて!やめてくださいっ!!」 「あれ?おかしいですねぇ...新品の筈ですがなかなか付かない...あっ付いた」 「あああああ!あ゛つ゛い゛!゛あ゛つ゛い゛!゛とめて!!とめでください!!」
勢いよく噴き出る1500℃の青い炎が少女の柔らかな脚をグリルしていく。 少女は必死に身を捩り、肌が焼ける苦痛から逃れようと無駄な抵抗を続ける。 肉が焼ける香ばしい香りが周囲に漂い、白い脚はまず赤く焼け、次に水疱が生じ、最終的に乾き切った黒に変色する。
「あ、あぁ...あしが...あしが...なんで、なんでこんなことするんですか...?わた、しなにもわるいことしてな...」 「何故、ですか...あなたの白い肌と髪が綺麗だなーと思ったので、燃やしたくなりましたね、ははは。そういうわけで...次は髪です」
少女の疑問に人倫からかけ離れた答えで返すと、ガスバーナーの噴射口を少女のさらさらとした白髪へと向ける。
「おっと、これは邪魔ですね。解いておきましょう」 「っ!!そ、それはおとうさんがくれたリボンなんです...かえして...かえしてください...お願い...」 「あー、お父さんからのプレゼントでしたか...それは残念」
真っ赤なシルク製の高級リボンにガスバーナーの火を近づけるとじりじりと燃え、まるで溶ける様に消えていく。
「あ...あぁ...やだ、やめて...うぅ...ぐすっ...えぐっ...」 「あー、これシルク製リボンだったんですねぇ。全部黒い粉になってしまいましたよ」
黒い燃え滓を手から払い落とし、思い出したかの様に泣き噦る少女の髪をバーナーで焼き始める。
「あ゛あ゛あ゛あ゛か゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!゛!゛あ゛つ゛い゛!゛や゛め゛て゛!゛わ゛た゛し゛の゛か゛み゛や゛か゛な゛い゛で゛!゛!゛」
髪と頭皮が焼かれ、チリチリという異音と亜硫酸ガス特有の刺激臭が焼き放たれる。 父親に優しく撫でられ、日頃から丁寧にケアしていた綺麗な髪の毛が瞬く間に焼け焦げて潤いを喪い、灰色の縮れ毛に不可逆変換されていく。
「ぐすん...うぅぅ...おかあさん...おとうさん...」
度重なる肉体的精神的苦痛に耐え切れず、もはや少女は啜り泣き、震える事しかできない。 その弱りきった様子のすべてが、怪物の糧であり、悦びであった。
「ははは、疲れてしまいましたか?大丈夫です。そろそろ終わりますから」
怪物は少女の臍をナイフでこじ開けつつ、ガスバーナーの噴射口を無理矢理押しこむ。
「ぐぎぃ!?」
そして、着火。
「ぎ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!゛!゛!゛!゛あ゛が゛ぅ゛!゛!゛あ゛つ゛い゛!゛!゛お゛な゛か゛あ゛つ゛い゛!゛!゛ぎ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!゛!゛」
体内で噴き上がる灼熱の奔流が生命維持に不可欠な主要臓器群を焼き焦がし破壊していく。 内側から加熱される事により少女の腹部は膨らみ上がり、赤黒く変色していく。 臓物が焼かれる事による筆舌にし難き匂いと煙が、少女の中から立ち昇る。
「が...あが...お、どう、さ...あがぅ!ひゅ...」
椅子が倒れる。少女の最後の言葉は、焼け爛れた内臓を陵辱せんとする怪物に押し潰され、誰にも聴かれる事なく消えて逝った。
4年 2組 21番 白露雪美(ハクロ ユキミ) 大好きなお父さんへ 私が感しゃを伝えたい相手は、私のお父さんです。 お父さんはやさしくて、思いやりのある人で、私ががんばった時はほめてくれて、私がだめなことをした時はやさしくしかってくれます。 私のお母さんが交通事こでなくなってしまって悲しくてどうすればいいかわからなくなっていた時も、お父さんは私をだきしめてせ中をさすりながら泣き止むまで「だいじょうぶ、だいじょうぶだから」と言ってくれました。 私も、お父さんみたいに自分がかなしい時でも、他の人のためにやさしくなれる人になって、お父さんにおん返ししたいです。
「クソ...!解けない...解けない...ッ!!こんな格好で...ふざけやがって..!!」
黒いパーカーを羽織った少女が縄で拘束されている。両手は後ろで縛られ、両脚は大きく開かれた状態で固定され、白い下着が露わになっている。 その表情は攫われた恐怖心ではなく、屈辱的な姿勢で拘束された事に対する怒りと反骨心に満ちており、拘束を解こうと暴れもがくたびに赤く染められたツインテールが靡き揺れる。 手を出せば噛みつかれそうな、まさに不良少女というに相応しい娘であった。
「あぁー、暴れないでくれませんか?そもそもあなたの力では絶対に解けないようにきつく結んであるので、大人しくしていた方が楽ですよ?」 「テメェ...アタシを攫って何が目的だ!!売春か?臓器売買か?ちょっとでも触ったらぶっ殺す!!」
誘拐犯を睨み付け、牙を剥き出しにして威嚇する少女。檻に閉じ込められても獰猛さを失わない凶暴な小動物を彷彿とさせる愛らしさと粗暴さを醸し出す。
「ははは、まぁそんな怖い顔しないでください。私はヤクザではありませんし、売春にも臓器売買にもちっとも関わっていませんから。ほらよく見てください、ただのおじさんでしょう?」 「...確かにさえないオッサンにしか見えねぇが...じゃあなんでアタシを攫ったんだ?」 「可愛いあなたの身体を、滅茶苦茶にするためですよ」
そう言うと間髪入れずに少女の下着を剥ぎ取り、パーカーをナイフで斬り裂いて小さく膨らんだ胸元を露わにさせる。
「な...ッ!!何しやがる!!やめろ!触るな!触るんじゃねぇ!!」
少女が暴れ叫ぶのも気にもせず、怪物の魔手は少女の下腹部へと伸びていき、白く滑らかな肌をぺたぺたと触り始める。愛撫、というよりはまるで何かを探り伺うかのように...
「どこ触って...あぅ...ッ!!そんなとこ...触るんじゃ...くぅ...!!」
敏感な箇所を弄られ、淫らな吐息が漏れ出す。 顔は怒りと恥辱により赤く染まり、涙を浮かべながらそれでも怪物を睨み付ける。 粗方触り終わった後、怪物は納得した様な表情で 臍の下辺りの腹部に思い切りナイフを突き立てて引き裂いた。
「ぐ、ぎゃああああああ!!」
絶叫、鋭い痛みが走り悶え狂う肢体。 見事な一閃で切り開かれた腹部に、怪物は手を挿し入れ、こじ開け、"目当てのもの"を力任せに摘出する。
「が─── ぎ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!?い゛だ゛い゛!゛い゛だ゛い゛!゛が゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」
ぶちぶちと音を立てながら"楕円形の二つの臓器と袋状の臓器"が引き摺り出される。
「あー、うん。やっぱり医学書に軽く目を通した程度では完摘は難しいですねぇ...すこし破けてしまいました。燐渚さぁん、見えますか?これ、あなたの卵巣と子宮」 「い゛だ゛い゛よ゛、゛い゛た゛...え?」
突然投げ掛けられた意味不明な言葉に、激痛に苦しみつつも一瞬、我に帰る。 卵巣?子宮?あの変な肉の塊が...? アタシの? 少女は自分の性機能が粉砕されたという悍ましき事実に気付き、狂乱する。
「あ、あああああ!!かえ、して...アタシのしきゅう...かえして...っ!!」 「返してあげますよ」
切り取られた卵巣と子宮をまた少女の腹の中に無理矢理捻じ込みつつ、怪物はもう誰も宿さなくなった腹の上にのしかかり、破れて潰れた子宮口に男性器を挿入し、腰を振り始める。
「うぐっ!?あがっ!?ぎぃぃ!!がぁぁ!!」
腰を動かすリズムに合わせて少女の口からくぐもった悲鳴が溢れ零れる。 それが怪物の悦びとなり、何も産み出す事のない不毛に満ちた残虐なまぐわいは加速する。 死んだ子宮に精が注がれる。 当然、孕む余地など無く。
「ぁ...ぁ...がひゅ...」
鮮血と絶望に濡れながら、少女は息絶えた。
他者との繋がりが希薄な現代社会。人間関係に行き詰まり、生きづらさを覚え行き場を喪った若者たちがたむろするこの複合商業ビル周辺は様々な犯罪の温床となっている。 売春、未成年の風俗勧誘、麻薬売買、暴行事件、暴力団の関与... それらに関連する事件に巻き込まれたと思わしき行方不明者も。
201█年 █月██日 普段からビル周辺を徘徊していたという石火矢燐渚(イシビヤ リオ)さん(14歳)は風俗街周辺の路地近くを徘徊しているのを友人に目撃されたのを最後に行方が分かっていません。 警察は暴力団関与の疑いも見て捜査を続けています。
「ところで……このジンベエザメちゃん、名前は何ていうんですか?」
二人でそれぞれ抱えている大きなジンベエザメのぬいぐるみ。 つがいである二匹、愛くるしい瞳のこの子はなんという名前なのだろう。
「名前ですか?……考えてませんでした。付けてあげたほうがいいんでしょうか?」
「えっ。えっと、その方が親しみが湧くというか呼びやすいというか……」
ぬいぐるみって、買った時に名前をつけてあげるものだと思ってた。 思いがけない返答に少し戸惑いながら言葉を返す。だって身近に触れ合うものだし、名前がないと呼んであげられないし。 もしかしてあんまり一般的じゃないのかな。急に込み上げてきた恥ずかしさを隠すように、抱えていたぬいぐるみを強く抱きしめる。
「なるほど、では……教会に着くまでの間に考えておきましょうか」
……クエロさんのネーミングセンス、凄く気になる。 ともあれ名前をつけて貰えるのは良かったねえ。心なしか嬉しそうな表情のジンベエザメを軽く撫でる。 私も何かお土産を買えばよかったかな……いや、帰る時に手荷物が増えてしまうとちょっと大変か。 とりあえず今は海遊館の余韻に浸りながら、ジンベエザメのやわらかさを堪能するとしよう。
私は今、クラゲに囲まれている。 仄暗い水槽の中に浮かび光を受けて漂う透明な命の群れは、静謐な宇宙に輝く星々を彷彿とさせる。 世俗から隔絶されたような静かな空間、足音一つなく、しかし無数の命が拍動する空間に私は紛れ込んでいる。
ここは大阪市港区に存在する日本最大規模の水族館『海遊館』。 大阪遠征が決まった際にどうしても行きたいと考えていた、大阪を代表する観光地の一つだ。 あまり公言したことはないが……私は水族館が好きだ。この薄暗く静かで、穏やかな光に包まれた空間が好きだ。 元々訪れる予定は立てていたがこのような事態となってしまい、諦めざるを得ないものと思っていたが……。 昨日の晩に何気なく「大阪には大きな水族館があるらしい」と話題に出したところ、返ってきたのは「では行ってみましょうか」という即答の言葉であった。
結果、貸し切り同然となった海遊館で私は4時間ほど時間を潰している。 2時間で館内を見て回り、残りの2時間は……このクラゲが揺蕩うエリアで消費した。
「それにしてもクラゲ専用のエリアなんて、不思議な区画ですねぇ」
私と一緒に一通り見て回った後、もう一度見て回りたいと言い探索に出掛けていたクエロさん。 その腕には大きなジンベエザメのぬいぐるみが抱えられていた。しかも二匹。どうやらオスとメスの“つがい”らしい。 水槽を眺めていた私の側に座り、抱えていた一匹のぬいぐるみが自分の膝の上に置かれた。 持っていて欲しい……ということだろうか。受け取ったジンベエザメを抱きしめるように抱え、再びクラゲに視線を戻す。
「日本だと結構一般的なんですよ。 北海道の水族館にも大きなものがありましたけど……ここはまた違った雰囲気で素敵です」
……それは私がまだ小学校に上がりたてだった頃。 両親に連れられて訪れた水族館で、壁一面の水槽に揺蕩うクラゲの虜となり数時間近く眺め続けていたことがあった。 結局その時は呆れたパパに抱えられて名残惜しくもその場を後にしたが、私は何時間でもこの景色を見ていられる。
何故私はこれほどまでにクラゲという生物に惹かれるのだろう。 彼らの在り方が私とは真逆だからだろうか。堅く、燃える火を以て心の平穏を成す私と水に浮かび揺蕩い続ける軟体生物。 絶対に自分が届かないものであるからこそ目を奪われる。己の人生と掛け離れたものであるからこそ興味深い。 この数日間も、これまでの人生から振り返ってみれば十分非日常的なものではあったが……それも言ってみれば日常と地続きのものだ。 非日常からも離れた独自の空間。外の世界とは全く異なる時間を彼らは過ごしている。その時間を、緩やかな流れを共有していたい。 ここで寝泊まりしたいな。なんなら、水槽に入ってずっと暮らしていたい。そんな突拍子もない妄想すら浮かび上がってくる。
そんな私の妄想を断ち切るように流れ出したのは、オルゴール調にアレンジされた「蛍の光」。
『当館は まもなく 閉館のお時間でございます。またのお越しを 心より お待ち申し上げております』
穏やかな女性の声に我に返り、ふと外を見てみると時刻は既に夕刻を過ぎていた。 もしこのまま館内に残り続けていたら……「水族館に泊まる」という、幼い頃から抱いていた夢を達成できるのでは。 そんな考えが脳裏を過ぎるも、今自分が置かれている状況を鑑み込み上げた欲望を振り払う。
「名残惜しいですが、暗くならない内に帰りましょうか」
「そうですねぇ、私も見てみたいものは見て回れたので満足です。 ジンベエザメの餌やりが見られなかったのは残念ですが……」
ジンベエザメ、気に入ったのかな。 上半身を覆い隠してしまえそうなほど大きなぬいぐるみを抱えながら、帰り際に悠々と泳ぐジンベエザメを眺める。
貸切状態の水族館というのも新鮮ではあったが、無人というのも少し寂しい。 クラゲの群れを見て心を癒やすことは出来たものの、この海遊館という水族館の魅力を全て味わえたわけではない。 やはりショーやアクティビティを始めとする賑わいもなくては……。
「……大阪が元通りになったら、また遊びに来ましょう!」
口を衝いて出た言葉は、励ましのようでもあり「もう一度一緒に出掛けたい」という本心から出たものでもあった。 この異変がいつ終わるのかはわからない。それでもこの戦いが終わって、大阪という街に平穏が訪れたなら……その時にはまた、この二人で。
ああ…本当に来て下さったんですね。 まさか二度も、私の嗜好を受け入れてくれる方に出会えるだなんて…💛 …「一度目があったのか」、ですか? 申し訳ありません。私は、初めてでは無いのです。 ですがご安心ください。今は貴方だけの私、この身も心も全て貴方に尽くします。ええ…身も、心も。 それでは、さあ、二人きりの晩餐を始めましょう。 まずは、される側になりたいのですね?では…少し痛みますから、これを噛み締めてください。 私の、手です。 舌を噛み切って終わってしまっては、いけませんからね…💛 では、失礼して……ふぅ💛どうですか、感じますか? ずぶずぶ、と…💛ざくざく、と…💛貴方の傷一つ無いお腹に、ナイフが沈んでいきますよ…💛 そして、この辺りで…くぱぁ…💛ああ…綺麗な腸をしていますね💛とても、いいですね…💛 ぷにぷに…くにゅくにゅ…優しく握られると気持ちいいですよね…💛 あぁ…💛そんなに強く噛むと…💛いけません…💛初めてなのですから、もっと楽しめるように、我慢しないと…💛 ふぅ…💛ふぅ……💛どうでしたか…とても新鮮で、甘美な感覚を味わえましたか…💛 ああ、良かった…💛それでは、今度は…貴方の番、ですね…💛 えぇ…💛どうぞ、遠慮なく…💛鍵を挿すように、突き入れて…💛扉をこじ開ける、割り開いて…💛 貴方の手で…💛私の全てを、暴いてください…💛
晴谷咲 kartrina 130(Toby Fox)/ The Murder 他薦 日常は既に消え去った。 開かれし鏖殺の道(Genocide_Route)を歩め。
201█年 █月█日 警視庁 ███司法警察官 本職は、201█年 █月█日 ██検察庁 ██検察官の指揮により、下記のとおり変死者又は変死の疑いのある死体の検視をした。
・死者の身元情報
氏名:藤乃原流美奈(フジノハラ ルミナ) 年齢:12歳 性別:女性 身長:151cm 体重:22kg
・検視時の死体の状況 全身に化膿した打撲痕と裂傷、重度の臓器損傷及び主要臓器の摘出跡、両眼球の破裂、脊髄・頭蓋・骨盤含む全身の骨折、精液及び膣液等の混合液の付着、重度のストレスによる脳萎縮の兆候
「このヘンタイ!外しなさいよこのベルト!!このバカ!クズ!」 「えぇ...嫌ですよ...外したらあなた逃げちゃうじゃないですか」
金属製の台に大の字で寝かされ、手脚をベルト状の手枷で拘束された幼い少女が、誘拐犯を睨み付けながら甲高い声で喚き、暴れ散らす。当然、そんな事で拘束は弛みはしない。
「くぅぅ...バカにして!アンタみたいな冴えないヘンタイ誘拐犯なんてすぐ警察に見つかって捕まるに決まってるわ!」 「そうですかね?これでも手際の良さと証拠の隠滅には自信があるのですが...さて、と」 「っ!!何する気!?触らないで!触らないでよ!!」
誘拐犯が「何かをしでかす」事を感じ取った少女は柔らかな肢体をくねらせ、儚げな抵抗を行う。 ───それが怪物の糧とは知らず。
「あー、安心してください。"まだ"触りませんから...まずは下拵えをする必要がありますからねぇ。あー、そういえばランドセルにピアノの楽譜がありましたが、あなた...えー...最近の子は珍しい名前してるんですねぇ...るみなさん?弾けるんですか?」 「ちょっと!ルミのランドセル勝手に漁らないでよ!!弾けるからなに!?」 「もう弾けませんよ」
そういうと、拘束されて無防備な白く、繊細な、柔らかな少女の指先に 巨大な肉叩きが振り下ろされた。
「ぎ、ああああああああっ!!い゛だ゛い゛!!指が!!ルミの指が!!」
本来、食肉の繊維を引き裂き柔らかく食べやすくするためのギザギザとした打面は一撃で指の骨を砕き、赤紫色の内出血を引き起こす。
「なんで!?やだっ!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!ゆるしてっ!!やめてっ!!」
突然な激痛に指と共に生意気な心まで打ち砕かれた少女な泣き叫びながら懇願する。
「やめませんが...んー、何故謝るんですか?謝る必要なんてあなたには無いですよ?だって、私は何の罪もない、可愛くて滅茶苦茶にしたいあなたを、殺す為に攫ってきたんですよ?あなたは何も悪くない。だから、どうか謝らないでください」 「は...?なに、言ってるの...?」
怪物に懇願は届かず、少女に怪物の常識は理解できず。 悍ましき行為は続行される。
「じゃあ続けますねー、取り敢えず指全部砕きましょうか」 「待って!!やだやだやだやめてやめ───ぎっ!?」
まるで食肉を調理するかのような手際の良さで少女の指が叩き潰されていく。 親指、人差し指、中指、薬指、小指が順番通りに、リズミカルに、テンポ良く使い物にならなくされていく。 かつて白と黒の鍵盤の上を優雅に踊っていた両手の指は、赤黒く腫れ、肉が裂け、血が滲み、骨が砕かれ、永遠に踊る事をやめた。
「うぅ...ぐすっ...ゆ、ゆび...ゆびが...あぁ...」
激痛、絶望、恐怖に染め上げられ涙を零す。 小生意気で気の強かった少女はもう既に死んだのだ。 だが、まだ殺し足りない。これだけでは、怪物の渇きと飢えは満たされない。
「ふぅ...いたた、これは明日筋肉痛待ったなしですね...さて次は...胸行ってみましょうか」 「ひっ!!う...あ...」
可愛らしいゴシックロリータ風の服を乱暴に剥ぎ取られ、芽生えかけの乳房が露わになる。 乳房に肉叩きが振り下ろされる。
「かひゅっ.....あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!゛!゛」
白く滑らかな乳房が赤色に染め上げられる。 何度も、何度も、何度も、肉叩きは振り下ろされ胸肉をぐしゅぐしゅに叩き潰して行く。
「おっと...胸部は叩きすぎてはいけない。長く楽しめませんから...そろそろ脚に移りましょう。胸と顔は、最期の楽しみですから...」
「あぐっ!ぐふっ!ぎぃ!」 脚が潰れた。
「あ゛ぐ゛!゛ぐ゛ぅ゛!゛ぎ゛ぃ゛!゛や゛め゛!゛い゛だ゛い゛!゛」 性器が潰れた。
「が゛、ぐ゛ひ゛ゅ゛」 顔が潰れた。
「...........」 潰れた。
ヴラド・ツェペシュ 初音ミク《DECO*27》 / ヴァンパイア 他薦 傲岸不遜なる吸血姫。
薄暗い部屋の中で、少女は目を覚ます。もがくが、動けない。両手両脚はロープできつく縛り付けられている。見回すも窓はない。露出した肌にビニールシートが触れる。冷たい。見知らぬ地下室の床に転がされている。
「え...?ここ...どこ...?」
混乱、困惑。激しい頭痛を堪え、何があったのかを思い返す。 放課後、合唱コンクールの練習に夢中になるあまり帰りが遅くなり、陽の落ちた道を一人歩いていると突然横に車が止まって
ドアが開き 引き摺り込まれ 濡れたハンカチで口を塞がれ 一瞬のうちに
「あっ...!」
そこまで思い出してやっと少女は「自分が誘拐された」という事実に辿り着いた。 此処は何処なのか、なぜ犯人は自分を誘拐したのか、分からないことだらけの状況に不安と恐怖だけが降り積もる。
(こわいよ...これからどうなるの...?おとうさん...)
そう思った矢先、ドアが開く音、次いで何者かが階段を降りてくる音が地下に響く。 自分を誘拐した犯人がやって来たのだ。
(やだ...やだっ!こないで...こないでっ!!)
暴れもがいても拘束は弛まない。逃げ出し、叫び出したくも目に涙を浮かべ震える事しかできずに、犯人が姿を現す。
「おや...もう起きていたのですか。あー、落ち着いてください。暴れると縄が肌に食い込みますから」
少女の前に現れたのは黒い眼鏡を掛けた、自分の父親とそう変わらぬ年齢に見える何処にでも居そうな中年男性であった。 残虐で血も涙もない誘拐犯を想像して怯えていた少女は、イメージの違いにぽかんとした表情を浮かべることしか出来ない。
「あ、あの...おじさんがわたしを誘拐した人ですか?」 「誘拐?あぁ、んー..... はい。おじさんがあなたを誘拐した人ですよ。ところで、あなたのお名前は?」 「.....鈴華志保です」 「志保さんですか...いい名前ですね。それに、声がいいですねぇ.....好きですよその声、音楽の授業とかでいつも褒められてるでしょう?きっと」
誘拐犯とその被害者の会話とは思えない、のんびりとした雑談が繰り広げられる中、ややリラックスしてしまった志保は核心に迫る質問を投げかける。
「...あの、おじさんはどうして私を誘拐したんですか?わたしの家はお金持ちじゃないですよ?」 「何故誘拐したか、ですか?あぁ理由は大事ですからねぇ...まず髪がいい。短めでよく纏まった綺麗な茶髪、いいですねぇ好みです。声も良い、鈴を鳴らした様な声というのは志保さんの様な声を言うのでしょうねぇ、実に美しく、可愛らしい」 「えっ...えっ...あ、ありがとうございます...?」
自分を攫った理由を聞いたのに、帰ってきた答えは自分を褒め称える言葉ばかり。危機感の薄い志保はストレートな賞賛に相手が誘拐犯である事も忘れ、照れてしまう。
「実に可愛らしくて...とても、とても...無茶苦茶に引き裂きたくなる」
そう言うや否や、誘拐犯は隠し持っていた研ぎ澄まされたナイフを志保の喉に突き立てた。
「あぐっ!?ぎ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」
喉に走る激痛。絶叫が溢れ出し、響き渡る。身を捩らせ意味不明な叫び声を上げるたびに、振動に併せて突き刺さったナイフがまるで生きているかの様にびくびくと動き震える。 意外にも出血量は少ない。声帯と頸動脈を避けてナイフを刺したからだ。首を壊す時は注意しないと直ぐに死ぬという殺人鬼の経験による、精密な一撃。
「あぁ...ははは、いい声ですよぉ志保さぁん!!」
本性を表した怪物は下腹部を曝け出し、いきり勃った性器を露出させ、それを悶え苦しむ少女の股に...挿入しない。 怪物は少女の儚く小さな胸にのし掛かるとナイフを引き抜き、傷口に指を突っ込むと"丁度いいサイズ"まで無理矢理広げる。 そして
「あが...かひゅ...んぅ!?あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛い゛だ゛い゛い゛だ゛い゛い゛だ゛い゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
志保の喉の傷を性器に見立て、陵辱行為を開始した。友達から羨ましがられ、いつも両親に褒められた美声の源泉に付けられた痛々しい傷口を無遠慮に怪物の怒張がぐちゃぐちゃと蹂躙していく。 声にならない声を捻り出し、目を見開いて涙を流すのもまるで気にせず、寧ろ声帯の震えは更なる快楽を齎し、涙は潤滑液となり、猛り狂う怪物は喉に腰を打ち付けまくり、どくどくと精を零した。
「ぎぃ...がひゅ...ごほっ、げほっ...」
志保の口から泡立った大量のピンク色の液体が吐き出される。血液と唾液と精液の混合物だ。
「ふぅ...いやはや本当に綺麗な声だ...きっと志保さんは将来有名な歌手にでもなれたんでしょうねぇ...」
怪物は、笑う。喜びだけに満ちた顔で、笑う。 悍ましき宴は一晩中続き、後には四肢を引き裂かれ、喉を粉砕された物言わぬ屍体だけが残った。
本件は調査中の事件被害者の身元情報です(画像はご家族の許可を得て添付)。
名前:鈴華志保(スズカ シホ) 性別:女性 不明当時の年齢:11歳 不明当時の学年:小学5年生 身長:142cm
警視庁ホームページ『行方不明者詳細情報』より (該当者発見により、現在は非公開。ご協力ありがとうございました)
**レア度☆4
**基本ステータス |center:|center:|center:|c |~能力値|初期値|最大値| |HP||| |ATK||| |COST|12|12|
**所有カード |center:|center:|center:|c |~Buster|Quick|Arts| |1|2|2|
**使用スキル |center:|center:||c |~スキル名|継続|center:効果| |孵化する悪夢 [A]|3|敵全体に恐怖状態(発動確率:40%)を付与(1回)| |^|3|敵全体に「自身がやられた、または後衛に移動する時、自身を除く味方全体に恐怖状態(発動確率:50%)を付与(1回・3T)する状態」を付与| |^|3|自身に確率(70%)で回避する状態を付与| |対文明 [C]|-|敵全体の必中状態を解除| |^|3|敵全体のスター発生率をダウン(30%)| |^|3|自身に〔機械〕特攻状態(50%)を付与| |因果消失(異) [A+]|3|敵単体にオーダーチェンジ不能状態を付与| |^|3|敵単体の自身を除く味方への強化成功率を大ダウン(100%)| |^|3|敵単体の自身を除く味方からの被強化成功率を大ダウン(100%)|
**パッシブスキル |center:||c |~スキル名|center:効果| |正体不明 [C]|自身のクラス相性の有利不利を打ち消す(解除不能)| |^|自身に宝具封印状態を付与(解除不能)| |未知の怪物 [EX]|自身の弱体耐性をアップ(100%・解除不能)| |単独漂流 [EX]|<宝具使用後に付与される>| |^|自身のクリティカル威力をアップ(12%・解除不能)| |^|自身のクリティカル攻撃耐性をアップ(12%・解除不能)| |^|自身に即死無効状態を付与(解除不能)|
**宝具 |center:|center:|center:|center:|c |~宝具名|ランク|種類|種別| |&sup(){〔行方不明〕}&align(center){消息、異境の暗澹に逝きて}|C++|Quick|対領域宝具| |>|>|>|敵全体の回避状態を解除&やや強力な攻撃+敵単体(ランダム)に確率(60%)で〔神隠し〕状態((パーティから消失する特殊な弱体状態。効果終了後は後衛の最後尾に復活する))を付与(5T)&付与成功時、その敵以外の敵全体に恐怖状態(発動確率:50%)を付与(1回・5T)| 虚空恐怖症提出です 便宜上レアリティやコマンドカード、基本ステータスがありますがエネミー専用なので消したり書き換えて良いと思います ストレンジャーのクラス相性はこちらでは決められませんでした そちらが提示した強化成功率ダウンやオダチェン不能の他、複数の恐怖状態や確率回避などの面倒な効果を使って面倒なバトルを仕掛ける性能にしています スキルのCTはエネミー用なので消しました 1ターンに同じスキルを複数回使うことはないでしょうが毎ターン使うことはあるかもしれないです 特定条件で発動するなどはそちらで設定をお願いします エネミー専用という特殊形式なので分からない点や追加したい点がありましたら相談に乗ります
|(スキル名)|自身の「正体不明 [C]」「未知の怪物 [EX]」を解除| |^|自身に「単独漂流 [EX]」を付与| |^|自身の弱体状態を解除| |^|自身のチャージを最大まで増やす|
ディードのイメージソングをリクエストします
甘い期待感みたいなものは一瞬で吹き飛んでいった。 真ん中高めに浮いた半速球は見事にバックスクリーンまで一直線にかっ飛んでいった。かっきーんと。
「なんですかこれは!」 「なにって、私の部屋ですけれども………?」 「ぐちゃぐちゃだー!」
私の背後にいるクエロさんがさも不思議そうに返事をするのが逆に不思議でならない。 クエロさんの私室は端的に言って無秩序によって支配されていた。 部屋にはこれといって個人を象徴するような装飾はない。 まあ、クエロさんはこの聖杯戦争に合わせてやってきたピンチヒッターという話だからそれはそんなものだろう。 しかしある意味で実にこの部屋に住む個人らしい彩りになっていた。 下着や肌着、箪笥の上に放りっぱなし。洗って干したままなのだろう。畳んですらいない。 修道服も右に同じ。広げられて椅子に引っ掛けられているせいでどうにか皺になっていないのが奇跡だった。 本は床に積まれている。というか、そのうちの数冊は床に散らばってさえいる。 極めつけは、こちらにやってきた時のものであろうトランクケースが開けっ放しで転がっていた。 中にはまだ取り出されていない物や取り出されたのにそのままぽいっとトランクケースに放られた物が山を作っている。 まだ洗濯物やゴミが床に散乱していないのがマシだ。そんなひどい有様だった。
「クエロさん! 片付けようとか思わないんですかこれ!」 「ほわぁ………?」
ほわぁじゃないです。そんなぽかんとした顔をしても駄目です。 どうも彼女に会ってからきちんとしたところしか見てこなかったせいでクエロさんに対して完璧な人という印象が私の中にあった。 そんな像がガラガラと音を立てて崩れていく。こうして思い返してみると確かに予兆はあった。 洗濯物の籠に昨日の洗濯物が入れっぱなしになっていたりとか。干したものが夜になっても仕舞われてなかったりとか。 食事に関してはいつも美味しいものを作るのですっかり騙されていた。
「仮に私がこんなふうにしているところをお母さんに見られたら………見られたら………怖いですよ!」 「怖いんですか」
そうです。怖いのです。 思わず身の毛がよだつ。ここにきて母の顔が鮮明に思い出された。 母は全く怒った顔を浮かべない人だったが、同時に怒りん坊だ。母が怒った時の恐ろしさは父の比ではない。 私が部屋をこんなふうにしているのが見つかった暁には「こちらに来なさい梓希さん」と呼ばれてお説教が始まってしまう。 そうして淡々と諭されることのまぁ怖いことと言ったら。ちなみに父にも似た感じで怒る。あのいかめしい父がそんな母の前では尻尾を丸めている。 それを思い返しているだけで私はいてもたってもいられなくなった。駄目だ。我慢できない。
「クエロさん! 片付けをしますけれどいいですね!?」 「え?はぁ、まぁ、はぁい」
クエロさんがぼんやりと頷くのに合わせて部屋に突入する。ちなみに駄目だと言われても説き伏せて実行していた。 修道服はクローゼットへ。本を本棚の空いたところに詰め込み、下着類を箪笥に収納していく。 下着はどれもレースがあしらわれた大人っぽいデザインだった。先程までの私ならちょっとドキドキしながら手に取っただろうが、今の整理整頓の鬼となった私には通用しない。 箪笥の上で小山になっているそれらを解体した後はトランクケースだ。 ちょこまかと動き回る私を見ているだけだったクエロさんの腕を引っ張ってトランクケースの前に座らせた。
「荷解き! しましょう!」 「えー………でもぉー………別にこのままでも大丈夫じゃないですか~………?」 「よくありません! ちゃんと整理しないといざという時にどこにあったか分からなくなっちゃいますよ!」
そうですかねー、そうかもしれませんけどー、と曖昧なことを言うクエロさん。 分かってしまった。すぐ気付けなかった自分の愚かさに私は歯噛みした。 この人は自分ではちゃんとしているつもりだけれど本当は全然そんなことなくて、周りから見たらお世話が必要な人なんだ………!
「なんですかこの瓶、ケースの隅に入ってましたけど」 「あー、それ応急処置用の薬瓶ですね~。というかそんなところにあったんですね~」 「ほらやっぱり!」
このトランクケースのどこに入っていたんだと思わせる量の物品の仕分けに結局小一時間は費やすことになってしまったのだった。
「っ………!」
手が痺れる。そう思ってすぐに違和感に気づいた。“手が痺れる?” もう私は剣道において初心者ではない。竹刀を受け損ねたとしても手が痺れるようなことはない。そういうのは握り方の甘い間だけのことだ。 それがクエロさんの打ち込みはまるで鉄塊でも受け止めたかのようだった。 単純に力任せに叩き込まれたのではない。まったく正体が判別できないが、このたった一瞬で知らない身体の動かし方をされた。 竹刀を取り落としそうになるが、膝を割って後ろに倒れ込むようにたたらを踏み必死に堪える。 すぐ戻せ、すぐ構えろ。地面に足を縫い付けるようにして留まり、再び竹刀を握り直して構えた。 一瞬の攻防の中でこの人の剣気のようなものが微かに見えた。夜の帳で何もないように隠しているが、一枚捲ればそこには剣呑な凶器がずらりと並んでいる。 今牙を剥いたのはその内のたった一本。そしてすぐにそれは仕舞われ、クエロさんは再び凪いだ湖面のような静かな正眼の構えに戻っていた。
「はッ、はッ、はッ………、はは、は………っ!」
一気に乱れた呼吸を整えようとするのだが、それよりもさきに笑いがこみ上げてしまった。 強い。知ってはいたけれど、分かってはいたけれど、この人は物凄く強い。私が出会ってきた人たちの中で一番強い! どきどきと胸が弾む。初恋のように気分が高揚する。心地よい絶望感に唇が弧を描く。 駄目だ。今の私ではどんな手を打っても勝てる気がしない。一番得意な剣道でさえ歯が立たない。道大会を優勝したくらいで少しは上達した気になっていた自分が馬鹿みたいだ。 道に果てがないことの証左を前にして、私は自分でもびっくりするほど心を踊らせていた。 と、隙なく構えを取っていたクエロさんがふと緩めて剣を降ろした。 ほんのりと首を傾げながら微笑む。水面に張った薄氷を割るような、くっきりとした感触を覚えるあの笑みだった。
「素晴らしいですね。センスだけなら私よりも上です。あなたは剣に愛されている」 「そ、そうですか?でも今だって完全に押し込まれちゃって………」 「ですが剣を落とさなかった。並々ならぬことです。私とは積んだ時間の差があるだけ。あなたは良い剣士になれます」
はっきりとそう言われると面映ゆい。つい頬が紅潮してしまう。 何を褒められるよりも剣の腕を褒められるのが一番嬉しい。どんなことよりも心血を注いでいればこそだ。 クエロさんに稽古をお願いしてみてよかった。たぶん私は今、普通に全国大会に出場していたのとは違う種の濃密な経験値を稼いでいる。 強くなりたい。もっと、もっと。いろいろ理由はあった気がしたが全部忘れた。ただ、強くなりたい。 この人が修練でもって丹念に一本ずつ磨き上げただろう技のひとつひとつを手にとって、見て、自分のものにしたい。 もっと知りたい。もっと触れたい。この人のことを。この人の強さを。この人の心を。もっと。もっと。 クエロさんが構え直す。応じて私も降ろしていた竹刀の切っ先を再び眼前に備えた。 剣の向こうでクエロさんが微笑んでいる。それがどこか楽しげだったのは気のせいだろうか。分からない。
「もう少し続けましょうか。私も少し気が乗ってきました」 「はいっ!」
そして始まる間合いの調節。今度は影がついてくるように気配のない足取りで踏み込んできたクエロさんの袈裟斬りを必死で身を捩りながら回避しなければならなかった。 軽く数手、と言っていた打ち合いは気がつけば1時間以上経っていた。 終わってみれば私は全身汗だくだったのにクエロさんは冷や汗ひとつかいていなかったのが癪ではあったかな。
不思議だ。 クエロさんには好意を持っている。優しいだけの人ではないけれどきちんと温かみを持った人だ。 いや、微妙なぎこちなさを鑑みると『持とうと努力している』というのが適切な感じがする。 ともあれ私へ気遣ってくれているのは確かで、それに対して感謝や憧れといった複雑な感情を持っているのも間違いない。 それでも、こうして竹刀を握って相対すると浮かんでくる気持ちはひとつだ。 ───倒す。目の前の相手を斬る。 たったひとつのことに純化していく感覚が気持ち良い。自分でも目が据わっていくのが分かる。 小さく、長く、深く、息を吐き出す。一緒に余分なものが抜けていく。鋭く研ぎ澄まされていく。 すごくいい感じだ。周囲の音が消えて、代わりに真っ赤な鉄を打つ音を幻に聞く。強い対戦相手を前にした時に自然と高まっていく己の集中を悟った。 教会の裏庭。目の前にはクエロさんがいる。私が貸した竹刀を握っている。 ぴたりと正眼に切っ先を置いたその構えに癖のようなものは感じられない。 無色透明。それは誰にでもできる構えだからこそ、易くは誰にもできない構え。人は構えひとつとっても癖が出る生き物だからだ。
力みもなく、だからリズムも読みにくい。仕掛けるタイミングが掴めない。 そういう時は相手の目を見ろと師範に教えられていた。覗き込む。深い虚のような、どこを見ているのか分からない瞳が出迎える。 竹刀を握っていなかったら、その目を見て怖いと思っていたかもしれない。 でも今は違う。剣の呼吸を聞いている。どうしてか、その目と見つめ合ってとても安心した。理由はすぐに思い当たった。 そうか。わざわざ私と同じところで付き合ってくれるのか。 構えに色はない。この人の剣のこの人らしさを知りたい。小手調べに踏み出した足を僅かに前へにじり寄せた。
「───」
途端、クエロさんの影が微かに淀む。小石のひとつやふたつ分、足の裏を滑らせて後ろに退いた。 ミリ単位の間合い調節。クエロさんは柔らかく膝を矯めてこちらを待ち構えている。 もう少し踏み込めるかと進ませかけた爪先が安全弁に引っかかったように止まった。 直感が走る。もう数ミリも踏み込めばクエロさんは待ちの姿勢から即座に攻めへ切り替えてくる。 間違いない。ここが私から攻め込める距離の分水嶺だ。そうと分かればいつまでも睨み合う必要はない。 相変わらず拍子は読めない。ならこちらから乱す………!
「えぁッッ」
空気を撓ませたのは裂帛の気合。 腹の底から弾けさせた叫び声と共に私は予兆なく肉薄した。 クエロさんの脳天めがけて拝み打ちを放り込む。必要最低限の力感で。 躱されれば更に踏み込む。受けられれば手元が上がって空いた首から下を攻める。 面打ちは剣道を始めれば最初に習う攻めであり、全ての基本となる一手。そして基本とは一番強いから基本なのだ。 対して、クエロさんは僅かに切っ先を揺らめかせた。 降り落ちる私の竹刀の横からまるでそっと指先で払い除けるように竹刀が添えられ、横にそらされる。 手元は上がらなかった。擦りあった竹刀が鍔のあたりでがちりと食い込んだ。踏み込んだ私と退かなかったクエロさんで竹刀を交わしあい、距離が密着した。 さっきまで間合いを挟んで見えていた目が至近距離にあった。その眼差しは先程と変わらずまるで揺らがない。 ぞろりと歯を尖らせた心が獰猛に笑う。その顔色を変えさせてやると。 首元へねじ込むようにして竹刀を斜めに押し込んだ。膂力だけではなく自分の体重全部を使って崩しに行く。 竹刀を絡めていたクエロさんが半歩下がる。リズムを読んでこちらも僅かに下がる。空間が開いた。瞬間、押した竹刀をそのまま降ろして面を取りに行く、と見せかける。 その切っ先を寸前で素早く引いた。すぐに最小限の矯めを作る。身体を開きながら素早く胴を打ちに行った。 崩しからの引き面をフェイントにした引き胴。自信を持って打った技だったが、敵もさるもの。 まるで面打ちの打ち気の無さを分かっていたように私の横薙ぎの一閃が払いのけられる。けれどまだだ。攻めろっ! 宙に浮いたクエロさんの竹刀を振り払うように斬りつけて前に出ようとした、その時だった。 打ち払おうとした竹刀が幻のように私の竹刀をすり抜けた。予想外の出来事に頭の中でアラートが点滅する。 何が起きた?刹那の間に把握した。竹刀の重みに任せて切っ先を沈めたんだ。虚空を打った竹刀が死に体になる。 戻せばまだ間に合う!勘によって動作を途中で止めた分復帰も早かった。 表へ戻した竹刀が迎え撃ったのは、竹刀を肩へ担ぐように振りかぶったクエロさんの激烈な打ち込みだった。
仮称:虚空恐怖症 ☆4、B1A2Q2、クラススキルは『単独漂流:EX』、『正体不明:C』、『未知の怪物:EX』 保有スキルは『孵化する悪夢:A』、『対文明:C』、『因果消失(異):A+』 宝具は全体クイック『消息、異境の暗澹に逝きて』 エネミー専用。宝具はダメージこそ控え目ですが強化成功率ダウンやオーダーチェンジ不能など面倒なデバフを撒いて消耗戦を強制するイメージです。
ドラキュリア喪失帯 暁Records / BloodDark -紅霧異変譚- 他薦です 世界観にかなりベストマッチかな?と思いました
「むっ、焼き鳥ですか。美味しいんですよねえ、私は塩で食べようかな!」
串カツ屋での一幕。 次々と熟れた手付きで串打ちを続けるクエロさんが差し出したのは、豚バラ肉と玉ネギを交互に刺したもの。 “やきとり”だ。揚げ物ばかりでは飽きが来るということで、ここで一本シンプルな焼き串を用意してくれたのだろう。 肉であることに変わりはなく、箸休めと分類するには些か重たいものであれど、今の私は何だって食べる。 それに豚肉は好物だ。特に塩胡椒で焼いたこの“やきとり”は、子供の頃から食べ馴染んだメニューの一つである。
うん、美味しい。この大阪であっても変わらぬ味わいに思わず頬を綻ばせる。 熱い内に食べ進め、最後に残ったブロックを器用に食べ……そこで、クエロさんが驚いたような表情を浮かべていることに気がついた。
「……焼き鳥?」
それは純粋な驚きの表情。 困惑というよりは認識の齟齬、理解のための“間”が生じているような逡巡の思考。 まるでコンピューターがデータ処理に手間取って生まれたシークタイムのような、奇妙な空白が生まれていた。 ……クエロさんのこんな表情、初めて見たかも。
えっ、でも“やきとり”だよね。 私は生まれてこの方、これを“やきとり”だと信じて疑わずに生きてきた。 パパもこれが“やきとり”だと言って食べていた。ママも、そんなパパの言葉を信じて“やきとり”と呼んでいた。 同級生も、先生も、それどころか道すがらの居酒屋に掛けられた看板にだって“やきとり”としてこの串の写真が載せられていた。 だからこれが“やきとり”でしょ?そうだよね。……なんか、クエロさんに驚かれると自分が間違っているのかと疑いたくなる。
後日。改めてその名称の違和感を確かめるため図書館に出向いたところ。 豚串を“やきとり”と呼ぶのは北海道独特の文化で、それも一部地域に限られたものであるらしい。 …………思いがけぬカルチャーショックに気を失いかけた。そうなんだ、“やきとり”って……焼き鳥じゃなかったんだ。
勿論できます。 泥へのリンクと簡単な解説があれば分かりやすいでしょう
機神ガイア 『ENDER_LILIES: Quietus_of_the_Knights』/Mother - Intro 他薦 ラスボスBGM、デザインが花繋がり 何よりも我が子らを愛したが、本人は望んでいなかったにも関わらず我が子らと敵対せざるを得なかった。
スレで出ていましたがこの泥に合うイメージソングを探して欲しいみたいな使い方はできますか?
異聞新秩序侵襲 初音ミク《ハチ》 / 砂の惑星 他薦 『戸惑い憂い怒り狂い たどり着いた祈り』 『君の心死なずいるなら 応答せよ早急に』 叫んでくれ、我らの新世界を君が否定するなら。 教えてくれ、君達の世界は間違っていないのだと。
日向ココノ PLEASURE/華原朋美 他薦 とにかく明るい曲調、コンセプト元との一致、歌詞も所々合ってると思う
じゃらじゃらとアパートの屋上に鳴り響く、鎖の巻き取られていく音。 終端に至ってばちんと腕と腕が接合した瞬間、「ぐえっ」と苦悶の悲鳴が上がった。 床に投げ出された人影は蹲ってげほげほと咳き込んでいたが、やがて猛然と首をもたげてクエロさんを睨みつけ………。
「い、いきなりなにすっ………ぎゃあ!?代行者!?」
………睨みつけたのだが、じろりと睨み返したクエロさんを見た途端に顔色を変える。 以前クエロさんが魔術師と教会の人間は基本的に反目する仲と言っていたのが伝わってくる反応だった。 四つん這いで地上を見ていた私はそんなふたりの間ににじり寄り割って入った。空気を読んだわけではない。というかとてもそれどころではない。
「黒野さん、怪我はありませんか!?」 「え、アズキちゃ、じゃなかったアズキさんどうしてここに」
へたり込んだままの黒野さんの正面で彼女の身体を急いで確かめる。 ………良かった。スーツ姿のどこにも目立った傷はない。露出している少し浅黒い肌も煤がちょっとこびりついている程度だ。 爆発によってまるでゴム毬みたいに勢いよく吹き飛ばされていたように見えたのだけれどどうやら何らかの防御を行っていたようだった。 目を白黒とさせる黒野さんの手を取って私は語りかけた。
「私がお願いしたんです、黒野さんを助けて欲しいって」
喉まで出かけた言葉を飲み込んだような表情で黒野さんは私を見て、それからクエロさんを見上げる。 私には向けたことのないような冷たい目線でクエロさんは応じながら鼻を鳴らした。
「聖杯戦争の参加者であろうとなかろうと、魔術師などいくらお亡くなりになっても一向に構わないのですが。 ですが、まぁ。彼女はあなたがマスターではないと保証しましたし、ならば監督役として保護の義務が一応無くもない気がしますので」 「………礼は言いませんよ。私は巻き込まれた被害者というわけではありませんし、私ひとりでも逃げ切ることは可能でした」 「あはー。防御用の礼装を贅沢に使っておいて余裕ですねー。このままここから投げ落としてもいいんですよぉ?」
火花が散っていそうな遣り取りに私がおろおろしかけた頃、再び轟音が耳をつんざくように迸る。 足場にしているアパートがずしりと揺れる。5階建ての屋上にいるのに眼前の虚空を火の粉が舐めていった。 サーヴァント同士の激突がかくも恐ろしいものだということは既知であっても身を竦ませる。 冷静な態度でその余波を観察していたクエロさんは目を細めながら呟いた。
「監督役が彼らの戦いに故なく干渉するわけにもいきませんから早急に立ち退いたほうが良いですね。では仕方ありません」
その台詞の気色を耳にした私の頭の中で警告音が鳴る。メーデーメーデー。凄い既視感。今からろくでもないことが起きる。 だがそれに反応するよりも早く、クエロさんは有無を言わせない剛力で座ったままの私と黒野さんを腋に抱え込んだ。 そのまま屋上の縁に足をかける。私のげっそりとした気持ちを人に伝えられないのが残念だ。
「ちょ、やめっ、何しようとして…待って、本気!?」 「ああ、嫌だなぁ………辛いなぁ………寿命が縮むなぁ…」
荷物のように抱えられて顔を青褪めさせる黒野さん、諦念からもう微笑むしかない私。 「黙っててください舌を噛みますよ」と仏頂面であっさり言ったクエロさんは次の瞬間には縁を蹴り、屋上から飛び降りた。
「きゃぁぁぁああああっ!?」 「ひゃぁぁぁああああっ!?」
重力から解放された体内の内臓が浮き上がるこの感じ。みるみるうちに地面が近づく恐怖。 うっかり漏らさなかった私のことを私は心の底から褒めてあげたいと思った。
「ご主人様、アトラス院より催促状が届きました。 『速やかに組織内で匿っている番外七大兵器をアトラス院に引き渡す事を要求する』、とのことです」 『…分かった。ご苦労』 とある都市の高層ビルの最上階、都市全域が見渡せる一室。 窓の傍に立つノイズ塗れの存在…BOSSは、クレピタンから受け取ったなぞのそしき宛の手紙を読み終えると、何時ものようにふっと笑った。 『今は何もしなくていい。いや、手出しは厳禁と皆に伝えておいてくれ』 「…よろしいのですか?ご主人様が望むのであれば、わたくしの力を、」 『いいんだ』 心配そうな眼差しを向けるクレピタンの肩に優しく手を置くBOSS。 『君の力を疑ってはいない。…だが、奴らアトラス院の技術力も決して侮れるものではない。 私は組織の長、君たちの命を預かる者として、君たちの安全をできる限り保証する義務がある。 …何、安心してくれ。こちらには取って置きの切り札がある』 そう言ってBOSSは懐(本当にそこが懐かは分からないが)から取り出したのは、 凛々しく立ちながらも可愛らしい表情をした少尉の写真だった。 「…ご主人様、その…」 『おっと、間違えた。こっちだったか』 写真を仕舞い、改めて懐から出したのは一枚の用紙だった。 「それは、確か…」 『アトラスの契約書だ。私の噂にあるだろう?あれは、真実だったということだ』 割と隠していた方の秘密だったのだがな、と言いながらBOSSはその契約書を懐に仕舞う。 『もしもあちらが実力行使を図るようであれば、これを使えば交渉ぐらいはできるだろう』 「アトラスの契約書は、確か世界に7枚しかない物の筈。それをご主人様は、一員を守るために…」 『当然だ。ニナだけではない。皆、我が組織には決して欠かせぬ人材だからな。 そして当然、君もまたその1人だ』 クレピタンに顔を向けるBOSS。 『何かあれば遠慮せず言うといい。君の働きは、私にそうさせるだけの価値があるのだから』 ノイズ塗れでその表情は見えない。 だがクレピタンの瞳には、BOSSの雄々しき眼差しが視えていた。
胸が迫る。比喩表現でなく、目の前に胸が迫る。 眼鏡のレンズ越しに、視界の全てを覆い尽くすほどの胸が門前に迫る。 これほどの距離となれば大きさなど些細なものだ。いや、それにしても大きい方ではあると思うけど。 不意に現れたそれを見て思わず呼吸が止まり────同時に、突沸を起こしたように心臓が跳ねる。
丘。双丘が唐突に目の前に現れた。 修道服というのは基本的に露出も無く、黒一色ということもあって起伏も目立ちにくい服装である。 クエロさんの……スタイルすらも包み込み抑え込んでしまうほど、修道服というものが秘める「清楚」の力は強い。 だが、今。目の前に迫る双丘は普段意識してこなかった「起伏」を明らかにして、「清楚」の力を刃に変えた。 向かい合い、胸が門前に突き出される。その一瞬だけで私の思考回路は……弾け飛ぶ寸前であった。
辛うじて理性を保っていられたのは、直前まで呼んでいた本のおかげであろう。 司馬遼太郎著「北斗の人」。北辰一刀流の開祖を主役とする作品で、物語中にて説かれた剣理の大宗がこの理性を救ってくれた。
「……どうかしましたか?」
「え、えっと……その、なんでもない……です」
それでも僅かに赤みを帯びる頬を本で隠し、そそくさとその場を立ち去る。 “それ剣は瞬速、心・気・力の一致なり”。一瞬の隙の中であれだけ心を乱されているようでは、私もまだまだだ。 心を鍛えなければ。何事にも平時で臨む鉄の精神を宿さねば。ぱんぱんと邪念を払うように、頬を叩いて自室へと戻る。 ……それにしてもあの起伏。私もいつか、あれくらいのサイズ感を得られるのだろうか。
“私、剣道の大会が終わった後は大阪グルメを食べ尽くそうって話をしていたんです、友達と。………紅生姜の串揚げ、食べてみたかったな”
共に無人の街を歩く最中、出しっぱなしで風に揺れる暖簾を見てふと呟いたのだ。言えばクエロさんがこんなふうにしてくれるかも、なんて欠片も思っていなかった。 現在の選択を後悔しているわけではないけれど、それはそれで本来ならばあり得た未来を空想してつい口にしただけだった。 返しの言葉が『食べればいいじゃないですか』で、こうしてこのようなことになっているわけだけれども。 それでも想像をする。もし聖杯戦争なんて起きず、私は剣道大会を終え、友人と共に束の間の大阪観光をしていたならば。 優勝していたならば祝勝会だったろうし、敗退していたなら残念会。それでもきっと友達たちと一緒にお腹がはち切れそうになるまで大阪名物を詰め込んで、そして帰りの飛行機に乗っていた。 きっと大はしゃぎだったろう。きっと美味しかったろう。きっと楽しかったろう。そうやって日常に戻っていったろう。 私は日常の裏に潜む非日常のことなど露ほども知らず、再び剣道に打ち込む日々を送り、高校生に進学しても相変わらず剣道を修めて、そして………。 当たり前の日常にずっと心地よく微睡んでいたはずだ。そんな感傷をあの暖簾を見た時に覚えた。 ………不意に目の前の皿へ揚げ串が差し出されて我に返った。 串に刺さって揚げられていたものは私がこれまで口にしたものとは違うものだ。纏った黄金色の衣の奥で微かに赤色を帯びていた。 クエロさんを見つめる。彼女はあの特徴的な薄っぺらい微笑みで、どこかはにかむような調子で言った。
「見つけるのが遅れてすみません。紅生姜というのは私には馴染みがなくて。お漬物を揚げるという発想に思い至るまで時間がかかってしまいました」 「───。………いただきます」
串を手にとって口にした。さくりと解ける衣の感触。ぴりりと舌先を刺激する生姜の優しい刺激。梅酢がもたらす日本人が慣れ親しんだ酸っぱさ。 揚げ物なのに油っこさなんてまるで感じない、とても軽やかであっさりとした味。食べるだけで口の中がすっきりとしてくる。 いいや。正直に言おう。名物と聞いて期待したほど美味しくはなかった。決して不味くはなかったけれど、十分美味しかったけれど、なるほどこういうものか。そう納得する程度の味ではあった。 これが年齢を重ねて油がキツくなった頃に食べればまた違う感想があるのかもしれない。プロが揚げればこの程度ではない、更に信じられないくらい美味しいものかもしれない。 だがまだ14歳の私からすればこれでもかというほど脂っこいものでも美味しく感じられる。 だから物足りなさみたいなものを覚えたかといえばそれはそうであり───そして、それらを圧倒的に凌駕する形で満足感が私の心に押し寄せていた。
つい微笑んでしまう───気遣ってくれたんだ。私のことを。クエロさんなりに。 この人は人の気持ちを慮ることについては不得意だ。いや、鈍感と言ってもいい。それはこうして共に同じ時間を過ごすようになってきて分かるようになったことだった。 型にはまった定型的な感情の遣り取りならば無難にこなせるが、より個人的で複雑なものになると判断が及ばない。横にいた私がフォローすることがあったくらいだ。 以前その理由をクエロさんは少しだけ話してくれた。 “───私は感情過多の反対、感情過小なんです。喜、怒、哀、楽。当たり前に人が感じるそれを当たり前に感じることができない───” その時の申し訳無さそうなクエロさんを見た時の感情は、不思議と憤りだった。 どうしてあなたのような凛とした人が、そんなことでさも悪いことでもしたかのようにびくびくと怯えているんです。ちょっとくらい人の気持ちが分からないのが何だっていうんです。 私だって剣道部の後輩と意思疎通が上手く取れず悩むくらいそれは普通のことなのに、そんなことで───そんなことで、そんな辛そうな顔をしないで欲しい。 だから、そんなクエロさんがきっと彼女なりに一生懸命考えて私のことを気遣ってくれたこと自体が、びっくりするほど嬉しかった。 そこには気遣い上手では与えることの出来ない、不器用な人の不器用な気持ちがあったから。 彼女が揚げてくれた紅生姜の串揚げを、最後の一欠片を嚥下するまでじっくりと私は味わった。飲み込んでからクエロさんをカウンター席からじっと見つめて言った。
「美味しかったです。ありがとうございます」 「そうですか。まあ、そういうことでしたら。お粗末様です」
正面から礼を言ってもクエロさんは何も変わらない。次の分の串揚げの用意をし始めるだけだ。 いつもと変わらない、ただ穏やかなようでぎこちなさが薄っすら漂う返事。そこに微かな照れがあったと思ったのは私の気のせいだろうか? 追加の豚串をフライヤーに放り込みながら、ぼそりとクエロさんが呟いた。
「………次はお魚が駄目になる前にお寿司屋さんですかね」 「えっ」
───結局、あの大量のバッター液とパン粉が全部無くなるまで串揚げは揚げられ、私とクエロさんは食べまくった。 店を出る時にレジへ書き置きとともに入れられた数枚のお札は全部経費で落ちるということなので私の罪悪感は軽減されたのだった。
「なぁんだ。そんなの食べればいいじゃないですか~」
………などと、私のぼやきにクエロさんがあっけらかんと答えたのが10時頃のこと。 それから2時間後。唖然とする私の目の前でクエロさんがちょっとした無茶をやらかそうとしていた。
「ちょ………いいんですか!? こんなことして!?」 「いいんじゃないでしょうか~。冷蔵庫こそ稼働しているとはいえ、食品はそう遠くない内に駄目になってしまいますし」
さもまっとうなことを言ったとばかりにあっけらかんとしたクエロさんが冷蔵庫を物色する後ろ、フライヤーがぐつぐつ音を立てている。 小さな串カツ屋のフライヤーである。先程クエロさんが油を注いでガスコンロへ手慣れた様子で火を入れてしまったのである。 言うまでもなく不法侵入である。店に誰もいないのだから仕方ないとばかりに、あまりにも堂々とした我が物顔なのである。 鍵が開いているのをいいことにずかずかと無人の店舗へ乗り込んだクエロさんはやりたい放題し始めちゃったのである。 はわわ、と戸惑う私の前で冷蔵庫に保管されていた食材が次々と取り出されていっていた。 適当に取り出し終わると卵と小麦粉も出してボウルにぶちまけ、バッター液を作り出してしまう。あああ、そんなにたくさん。
「わ、私ん家は前にも言った通り仏教徒なんですけどっ! そちらの神様的にこれはアリなんですかっ!?」 「あはー。対価さえ置いていけば泥棒にはなりませんよ。ほら、主がお恵みくださった糧を無駄にしたらそれこそ罰当たりです。 だから大丈夫だいじょーぶ。はぁい、じゃんじゃん揚げていきましょうね~。あ、キャベツ食べます? 日本のパブではお通しと言うんですよね」 「しょうもない! 気付いてたけど! 薄々気付いてたけどこの人しょうもないっ! 仕事以外のことになるとこの人すっごくしょうもなくなるっ! あーあー、パン粉もそんなにいっぱい出してっ!」
なんて言っている間にクエロさんは豚肉やら海老やら蓮根やらに串を通すとバッター液とパン粉を潜らせ、ひょいひょいとフライヤーに投げ込んでしまった。 途端にぱちぱちと食材が揚がっていく美味しそうな音が店内に響き出す。同時に私の空きっ腹が串カツモードへとフォームチェンジする。 もう駄目だ。串カツを食べなければ心が歪んで人間ではなくなってしまう。揚げ物ビーストになってしまう。 畜生。もう知るか。私はあらゆることを受け入れることにしてザク切りにされたキャベツをお店の秘伝のタレ(2度漬け厳禁!)につけて齧った。 くそう、美味しいなぁ。ただキャベツをタレを塗しただけなのに何でこんな美味しいのかなぁ。 ………しかし、カウンターの奥で修道服姿のお姉さんが串カツを次から次へと揚げている姿は目がちかちかするほど似合わないなぁ。
「うん。ちょうどいい頃合いですね。はい、揚がりましたよ。 えーとぉ、これが豚でこれが椎茸、これが海老で、あとは蓮根に帆立に茄子………それからぁ」 「手当たり次第に揚げたんですね! やったぁ美味しいそうだなぁ! いただきます!」
私の目の前へどんがどんがとお祭りのように盛られていく串カツたち。 最早ヤケクソだ。揚がっちゃったものはどうしようもない。知ったことか、どうとでもなれ。 私は日本人である。日本人は海老が大好きである。なので海老の串を手に取るとこれでもかとタレの入った缶に突っ込み、一口でぱくりと咥えた。 途端、押し寄せる滋味。歯を押し返してくる海老の身のぷりぷりとした弾力。タレの何重もの層となって襲い来る奥深い味わい。 そう。これだ。これが食べたかった。本当は、友人たちと。
「───………美味しい」 「あはー。そうですかぁ? どれ、私も試しに………、うん、ちゃんと揚がってますねぇ。 どんどん食べちゃってください。冷蔵庫の中にあるもの、手当たり次第に揚げてしまうので~」
揚がった茄子をタレにつけて頬張り、満足気に頷くクエロさんを後目に豚串をチョイス。 もう止まらなかった。私は腹が減っていた。うおォン、私はまるで人間火力発電所だ。 たぶん本当の職人が揚げるものからすれば稚拙な出来なんだろう。割と料理上手ではあるが、さすがのクエロさんも揚げ物調理のプロじゃない。 でもそういうことじゃない。その時の私にとってはそれはそういうことではなかった。 クエロさんが揚げていくものを次から次へと口に運ぶ。自慢じゃないが、私は物心ついた頃から激しい剣道の修練に打ち込んできた身だ。 当然物凄い体力を消耗するので常人の摂取カロリーでは到底追いつかない。必然食事で補うことになる。結果胃袋が鍛えられる。 おまけに食べ盛りだ。ご飯が炊けていないのが惜しかった。その分、まるで飲み物のようにするすると串カツは腹の中に収まっていった。 何本目だったろう。ブロッコリーの串揚げ(これがタレをたっぷり吸って馬鹿にできない美味しさ)をばりばり咀嚼しながら思った。
「は~あ、今日もボスを殺せませんでした。残念ですねェ」 『何、この程度で殺されては君のボスを名乗るのには不足だからな』 用意した手の内を出し尽くしてなおBOSSを殺せず、両手を腰に当てて息をつくコロシスキー神父。 一方、ノイズ塗れの姿で彼の前に立つBOSSには(そもそも顔は見えないが)疲労の色が見えず、その両手にはコロシスキーが放った聖書の頁が一つ残らず指で挟み取られていた。 『しかし、今回の聖書投げは見事だった。頁速もそうだが面制圧の綿密さに成長を感じたぞ』 「それを受け止め切ったボスに言われるのも複雑ですねェ~」 落ち込んでいる…ように見えて既に切り替えてBOSSを殺す方法の考案を始めているコロシスキー。 そんな彼の脳裏を読んでなお、BOSSは変わらず不敵に笑う。 『安心しろ。君に殺される気は当然無いが…君以外に殺される気も毛頭ない。 これからも精進するといい。私はいつでも、君の挑戦を受け入れる』 「…んもォ~ッ、殺し文句が上手いですねェボスったらァ~ッ!」 照れ隠しにヘッドショットを仕掛けるコロシスキーと、それを軽く避けるBOSS。 なぞのそしきで日々繰り広げられる、ありふれた何気ない一幕であった。
「きゃーーーー!」 「うぉぉぉっ!?」 いつかのエルメロイ教室で、割とよく見られた光景。 不幸体質の少女が階段から転げ落ち、たまたま下にいた男子生徒にフライアウェイしていた。 「むっぐ…!んーー!」 当たりどころが良かったのか悪かったのか、どしんと音を立てて地面に倒れ伏した頭の直上には、少女の尻がみっちりと乗っていた。 「……あっ、ごっごめんなさいヒューゴくん!すぐ退きますから…!」 少女、ディオナが再び体勢を崩しそうになりながらもヒューゴの顔面を解放すると、赤面しきった顔のヒューゴはすぐに叫んだ。 「お前な…!いつもどうせ脱げるからって最初から履いてないのはどうなんだ!?」 「えっ…ええっ!?な、何の事ですか…?」 「下着の話だ下着の!ぱ・ん・つ!一応スカート越しとはいえなぁ、俺になんつーアダルトな不幸をぶちかましてんだお前は!こう…もっと自分を大事にしろ!」 「え、えぇっ!?そんな…今日は確かちゃんと履いて…あれ?ない…?」 自分のやった事を認識したのか、みるみる内に顔が赤く、そして青くなるディオナ。 「うぅ……こ、こんなことをしてしまうなんて…。……もしかして、私、神様に…」 「おい待て、その考えはまずっうぉぉぉぉぉ!?」 魔術の効果が薄まった瞬間、校舎のありとあらゆる部分から様々な崩壊が始まり、再び絶叫が響いた。 ──なお、結局この件については、ディオナが下着をうっかり忘れたという結論で片付いたのだが、ロードとヒューゴの胃痛は暫く止まなかったということは最後に記しておく。
「……ごちそうさまでした。シスターさん、これ凄く美味しいですよ!」
「あはー。そうですか?そう言っていただけると作った甲斐がありますねぇ」
ふぅ、と一息零し手を合わせる。 カレーに対して名残惜しさを感じたのは久しぶりだ。 手作りでこれほどのクオリティを出せるものなのだろうか?改めてシスターさんに対しての印象が塗り替えられる。
しかし……この辛さを乗り切った代償も大きい。 具体的には汗が凄い。爽やかさこそあれど、肌に張り付く程まで濡れたパジャマは無視できない。 今すぐにでもシャワーを浴びて着替えたいところだが、生憎制服は全て洗濯に出してしまった。 どうしよう……流石に今の状態で街を出歩くのは恥ずかしい。例え街中に人が居ないとしてもだ。
……悩む私の表情に気がついたのだろうか。 シスターさんが少し考えた様子を見せると、頭の上に電球を浮かべたような閃きの表情で
「アズキさんも替えの衣装が足りないんですか?それなら────そうですねぇ。まだメイド服は余ってますし、一緒に着てみません?」
「…………えっ」
数時間後。 昼下がりの大阪にて、某衣装ブランドの袋を両手に持ったメイド服姿の少女二人が目撃された。 二人を撮影した女子大学生(22)曰く「アッシュグレーの子はニコニコしてたけど、金髪の子は燃えそうなくらい顔真っ赤にしてた」……とのこと。
「どうぞ、カレーです」
カレー。 差し出されたお皿には、若干の赤みを帯びたカレーが盛り付けられている。 ……カレー?予想していなかった献立に思わず思考がループする。うん、このスパイシーな香りは間違いなくカレーだ。
一般的なカレーと比べて、ルウの粘度が控えめだ。 スープとルウの中間。ライスの間をすり抜けていく程度の水気だが、完全な液体というほどのものでない。 具は大きめにカットされたレンコンやサヤインゲン、そして牛肉。 一見すれば「家庭のカレー」とはかけ離れた、本格的なカレー屋で作られたような見た目である。 そのクオリティもあって二重に驚かされる。これ、いつの間に作ったんですか。
「……い、いただきます」
しかしこの赤色に若干の躊躇いを覚える。 先日、想像を遥かに超えた辛さの麻婆豆腐でノックアウトされたばかりな私にとって……この赤さは、怖い。 口内の傷も癒えていて多少の辛さであれば耐えられるだろうが、最悪傷口が開きかねない。
恐る恐るスプーンを口に運ぶ。 カレー自体は好物の一つだ、よほどの辛さでなければ問題はない─────っ。
「………………こ、これは」
美味しい。とても美味しい。
見た目通りスパイシーな香辛料の風味でありながら、ただ辛さだけがあるのではなく それを包み、刺々しさを緩和させる爽やかな風味……レモングラスの香りが良く活きている。 唐辛子をベースとする辛味と柑橘系の酸味に、もう一つ。このコクは……ココナッツミルク? 辛味と酸味の相乗効果の中に甘みというエッセンスが加わることで、奥深い味わいを強く醸し出している。 遅れて広がるのは牛肉の旨味。想像していたカレーよりもエスニックな風味だが、途轍もなく美味しい。
勿論見た目通りの辛さもある。一通りの味が過ぎた後、一足遅れて辛さが駆け込んでくる。 しかしそれは突き刺すような「痛み」でなく、辛さという確かな「味わい」だ。 辛い、辛いが美味い。口に広がる辛さを打ち消すべく、もう一口が食べたくなる。 初夏の蒸し暑さすらも吹き飛ばしてしまうような爽快な辛さ。 同じ汗には変わりないはずなのに、寝起きの汗とは比べ物にならないほど爽やかな汗が込み上げる。
蚩尤
☆5、B3A1Q1かB2A2Q1、いわゆる「雑に強い」の極限みたいな方向性で、状況を選ばず働ける、盛り盛りな性能でお願いします。
スキル、宝具の選定及び効果はすべてお任せします。
材料
ステーキ
グレース・バッドのランプ肉 200g
(10代前半の処女の女児のランプ肉でも代用可能)
塩、胡椒 適量
油 大さじ1/2
グレイビーソース
有塩バター 20g
薄力粉 大さじ1
赤ワイン 大さじ3
ワインビネガー 大さじ1
蜂蜜 大さじ1/2
1.まずは肉の下処理を行います。
「いやああああ!!!!はなして!!この変態!!ママに言いつけてやる!!」
泣き叫びながら階段を駆け降り逃げ出そうとする少女を鷲掴みにして捕らえる。
当然少女は抵抗し、肉付きの良い可憐な脚で蹴り、白く生え揃った歯で噛みつき、柔らかく小さな爪で食人鬼を攻撃する。
「あぁ...いいですね、いい...腹部を蹴り上げられる衝撃、生えかけの牙が肉に刺さる感覚、子猫の癇癪のような肌を引き裂く引っ掻き...ふぅ...なんとも、気持ちいい...!!」
「ひぃっ!!や、やだ...たすけ──かはっ!?」
少女の儚い抵抗は、異端なる精神構造を有する人型の怪物にとって快楽と身震いにしかならない。
あまりにも異様な反応に怯える少女の細い首を殺人鬼の両手が絞めあげる。
「あがぁ!があぁ!がああああ...!!」
宙に浮き、脚をばたつかせる少女の喉から苦しげな呻き声が溢れる。
目から涙が搾り出され、唾液が撒き散らされる。
その愛らしい今際の足掻きは怪物の嗜虐心に火を付けたのか、興奮のあまり全霊の力を持って少女の首を握り潰した。
「かひゅっ...かはぁ...っ」
最後の息が吐き出され、少女の身体からは力が抜け、手脚はだらんと垂れ下がる。
膀胱は弛緩し、毛も生えていない未成熟な股ぐらから尿が滴り落ちる。
「あぁ勿体ない勿体ない...これはコップに溜めておいて後でいただきましょう」
2.皮を剥ぎ、下処理をしたランプ肉のドリップを丁寧に拭き取り、全体に胡椒を振ってなじませた後130°ほどに熱したオーブンで網に乗せた状態で20〜30分ほど焼く。
裏返してさらに15〜25分焼く。
3.仕上げに肉に塩をよくなじませて、油を引いたフライパンで片面20秒ほど焼き、焼き色を付ける。
美味しそうな焼き色が付いたら肉を休ませて予熱で内部に火を通します。
4.肉を休ませている間にグレイビーソースを作りましょう。
先程肉を焼いたフライパンに有塩バターを溶かして薄力粉をふるい入れ、弱火で炒めます。
粉っぽさがなくなったら残りのソースの材料を全てフライパンに入れて加熱し、程よいとろみが付いたら出来上がりです💛
陽が落ち、夜の帷が下りる。暗き空には煌々と狂おしき満月が浮かび、窓から染み出す月明かりがテーブルに並べられた晩餐を照らし出す。
付け合わせのマッシュポテトと蒸した人蔘と共に乗せられた、グレイビーソースがたっぷりとかけられた分厚いステーキ。
怪物が席に付き、食前の祈りを捧げる。
「...父よ、あなたのいつくしみに感謝して、この食事をいただきます。 ここに用意されたものを祝福し、わたしたちの心と体を支える糧としてください。 わたしたちの主、イエス・キリストによって...アーメン」
研ぎ澄まされたナイフが肉を切り裂き、フォークが突き刺し口に運ぶ。程よく酸味の効いたグレイビーソースにより肉の味が引き立ち、ほのかに癖のある脂の味が口一杯に広がる。
ナイフとフォークがかつておしゃまな少女であった肉塊を引き裂き、怪物の胃袋に収めていく。
美味しい、美味しい、美味しい...💛
夢中になって頬張り、咀嚼し、口内に飛び散る少女の肉汁と血と絶叫を何度も、何度も脳内で反芻する。
皿にこびり付いた肉汁も余す事なく、パンで全て拭い取り最後の一滴まで味わい尽くし、そして。
「...ご馳走様でした💛」
今宵の月下の晩餐は終わりを告げた。
『魔王』サマエル
初音ミク《ピノキオピー》 / 神っぽいな
他薦
神を否定し神に成り代わり、
玉座で天使は魔王と化した。
「私のツレになんか用?」
それは単なる気紛れだった。
大通りでチンピラ数人が亜麻色のティーンエイジャーの少女に因縁を付け、良からぬ事をしようとした場面に出会したのだ。
大阪に原爆なんて落ちていないと主張する噂の歴史家…その家に行く為、タクシーを拾おうとした時、偶々目についた。
放っておけば良いと達観する魔術師の自分を心の中で張り倒して口から飛び出たのが最初の言葉だ。
「あぁ? 姉ちゃんのツレぇ?じゃあ姉ちゃんが相手してくれんのか?」
当然のように此方に注意が向いた。件の少女は此方を見て、困惑している。
…まぁそうよね。誰ですか!?とか言わない分空気読んでくれてるわ。
良く見れば背負った竹刀に手を掛けている。チンピラ相手に一戦交えようとしていたようだ、度胸あるわね。
ふと、彼女の指を見ると中々の竹刀タコが無数にあった。友人であるリアを思い出す、彼女も剣タコが幾つも合ったっけ。
「相手する?冗談、チンピラ相手にする程安くないんだけど」
「このクソアマ!」
私の挑発に先頭の一人が激昂して殴りかかってくる。瞬時に思考と感覚を加速。うん、誉めに誉めて喧嘩慣れした素人ってとこね。
加速魔術を使うまでもない。身体強化のみでチンピラの拳を避け、その腕を掴み、捻り上げて間接を極める。
「ガァッ!」
下がった顎に向けて膝を一撃。白目を向いて倒れる。
「……ちっ!」
二人目はそれなりにやるようだ。ピーカーブースタイルで此方に相対する。相手にするにはちょっと面倒だ。
「…スタートアップ」
だから少しだけ加速する。本来であれば5小節必要な魔術だが、友人であるトゥモーイ・ディットィエルトの協力で一瞬の動きであれば1小節で行使できる。
鳩尾に拳を一発、顎に一発、ついでに額にデコピン一発だ。何があったかも分からずボクサー崩れは吹き飛ぶ。
三人目は……既に亜麻色の少女が竹刀で痛い目に合わせていたようだ。トドメに頬をビンタしておこう。
「クソっ!覚えておきやがれ!」
「うっさいばーか!一昨年来やがれってのよ!」
捨て台詞を吐いて逃げるチンピラに石と罵倒を投げる。良し、命中!
「あの……ありがとうございます!」
満足げに振り向くと亜麻色の髪の少女が深々と頭を下げていた。
「いいのよ、気にしないで。 困った時はなんとやらっていうでしょ。それともお節介だったかしら?」
「いえ!そんな事ありません!」
少女は私の少し意地の悪い言葉を慌ててぶんぶんと手と頭を振り否定する。
その様がとても可愛らしい。
「ふふふ、ごめんなさい、冗談よ」
私の微笑みを見て少女は胸をなでおろした。姪の未来と同じくらいの歳かしら。
「私は黒野逸花、フリージャーナリストよ。貴女は?」
「鴈鉄梓希です!」
元気が良い。そして言葉や仕草の端々から育ちの良さが分かる。決して厳戒体制にある大阪で何事か悪さをしようとしたり、忍び込むタイプでは無さそうだ。
「えっと、鴈鉄さん? 貴女はこの大阪でなにをしているの?」
「はい…実は話すと結構長くなりまして……」
それが私、魔術師黒野逸花と少女鴈鉄梓希のはじめての出会いだった。
この時は私と彼女、そしてクエロんの三人に他の子達も含めてあんな騒動に首を突っ込むことになるとは思いもしていなかったんだけどね
それは思いがけぬ出会いだった。
目の前に立ち塞がっていた複数人の“輩”の事ではなく、それらを掻き分けるように現れた女性のこと。
大きい。ひと目見て感じた印象は、その身長や服装も相まって「大人の女性である」というものだった。
彼女は私を一瞥すると、輩へ向けて「私のツレ」だと言い放つ。
思わず面を喰らってしまった。これが試合だったならキレイに一本を取られていただろう。
それほどまでに堂々と、微塵の“嘘”も感じさせずに言い放つ女性に対し、私は“無言”という態度で話を合わせた。
恐らく女性は輩に絡まれている私を見かね、助けに入ってくれたのだろう。
ともあれ人手が増えるのはありがたい。この状況をどう切り抜けようか、少し迷っていた所だったから。
……竹刀を握り締める力を僅かに抜いて、標的を最も近くの輩へと絞る。
女性の長髪に一人の輩が食って掛かり、合わせて二人目の輩も飛びかかっていく。
その様子を尻目に私は狙いを定めていた輩に照準を絞る。向けられた視線に気がついたか、輩も少し遅れて構えを取った。
他二人と違い、この男はある程度理性的であるようだ。竹刀を持つ私に対し、間合いに入らぬよう距離を置く。
その上で手にしたナイフを懐に滑り込ませるタイミングを伺っている。成る程、これは“実戦”慣れしている。
関節の軋むような音が響く向こうとは異なり、此方には暫しの沈黙が流れる。
お互いに出方を伺い、様子を探る。恐らくは先んじたほうが負けるだろう……と、輩は感じているだろう。
だからこそ、その虚を突いた。文字通りに意識の合間を縫うような、“刀”という得物からは想定し難い瞬速の攻撃。
即ち…………中学年の剣道では禁じ手とされる「突き」である。
輩は当然「打ち」で来ると思っていたのだろう。竹刀を振るう隙を狙っていたのだろう、とも推測できる。
けれど「突き」に予備動作は無い。加えて間合いすら読みにくく、一歩踏み込むだけでその切っ先は相手の喉元に達する。
短く空気が漏れる音が響き、輩は後ろへと倒れ込む……そんな彼の襟首を掴み、女性はビンタを一つかまして“一本”とした。
────その戦いの中で、私は思いがけないものを見た。
それは一人目を倒し、二人目に相対した際の女性の動きである。
一人目の輩を打ち捌いた彼女の動きは、洗練されていて手慣れてはいたが常識の範囲内に収まる動きだった。
けれど二人目と打ち合った時……女性の動きが「加速」した。僅かな一瞬だが、その動きは人間のそれを凌駕していた。
彼女が名だたる格闘家であったとしても現実的とは思えない筋肉の動き、身体の敏捷性。
加えて「加速」の瞬間に零れた、形容し難い“気”の流れ。つまるところ……“魔術”なのではないか、と。
常人離れした戦いには経験があった。クエロさんのスタイルも“一般的”とは言い難いものだったから。
義肢は兎も角、クエロさんが扱うものは神秘的で穢れのない……“奇蹟”とでも言うべきものだ。
一方で今彼女が発動した魔術は、既知の“奇蹟”とはまた異なる雰囲気を孕んでいた。積み重ねられた理論に基づく“学術”……のような。
その僅かな気配の違いが私の興味を引き立てた。クエロさんとこの女性、同じ“魔術”でありながら何故雰囲気の違いがあるのだろうか。
「……すみません、黒野さん。もう一つだけお伺いしても良いでしょうか?」
彼女に助けられた後、軽く事情を説明して私が置かれている立場を理解してもらった。
大会のため大阪を訪れたが避難し遅れ、戦いに巻き込まれた末に監督役の協力を得て聖杯戦争の元凶を探っている……と。
事情を聞いて女性……黒野さんは納得したような表情を浮かべていた。
その会話の最後に、私は抱いていた疑問を投げ掛けることにする。
気軽に聞いていいものなのかはわからない。私のような「一般人」が知っていい情報なのかもわからない。
黒野さんのような「魔術師」にとっては不都合なものかもしれない……けど、それでも尋ねずにはいられなかった。
もし答えが聞けないならそれはそれでいい。今はとにかく、込み上げてしまった「興味」を解消してしまいたい。
「先程黒野さんが戦っていた時……一瞬だけ、動きが“速くなった”ように見えました。
あれは……伝え聞くところの「魔術」というものなのでしょうか」
……その問い掛けが後に自らの運命を大きく左右する切掛になろうとは、この時の私は知る由もなかった。
クエロさんとはまた異なる世界を生きる“魔術師”と出会った日。その世界の根底たる“魔術”に触れた日。
これは目まぐるしく移り変わる“聖杯大戦”の一端であり……私の人生に於ける大きな転機の一つである。
「あの...お願いします...おうちに帰してください...」
「あなたはもうおうちには帰れませんよ?」
雪を想わせる短髪と大きな赤いリボンのコントラストが可憐な幼い少女が、椅子に座った状態で縛り付けられている。
両腕は背もたれごと縄で巻かれ、両脚は椅子の脚に沿って固定されている。
「お父さんが待っているんです...!心配させたくないから、帰してください...ッ!」
「あなたも、お父さんも、何も心配する必要はないんですよ?」
父を心配させまいとする少女の健気な懇願を受け流し、怪物は今回の凶器を手に取る。
「雪美さぁん、これ、なんだかわかりますか?」
「え...?ガス、バーナーです。お父さんがお肉を焼く時に使ってました」
「正解です。これはお肉を焼く道具、ガスバーナーです。今からこれであなたを焼きます」
そう言うと怪物はバーナーの噴射口を少女の白い太ももに向け、調節ねじをいっぱいに捻り切り、着火ボタンをカチカチと鳴らし始める。
「っ!?な、なんで!?や、やめて!やめてくださいっ!!」
「あれ?おかしいですねぇ...新品の筈ですがなかなか付かない...あっ付いた」
「あああああ!あ゛つ゛い゛!゛あ゛つ゛い゛!゛とめて!!とめでください!!」
勢いよく噴き出る1500℃の青い炎が少女の柔らかな脚をグリルしていく。
少女は必死に身を捩り、肌が焼ける苦痛から逃れようと無駄な抵抗を続ける。
肉が焼ける香ばしい香りが周囲に漂い、白い脚はまず赤く焼け、次に水疱が生じ、最終的に乾き切った黒に変色する。
「あ、あぁ...あしが...あしが...なんで、なんでこんなことするんですか...?わた、しなにもわるいことしてな...」
「何故、ですか...あなたの白い肌と髪が綺麗だなーと思ったので、燃やしたくなりましたね、ははは。そういうわけで...次は髪です」
少女の疑問に人倫からかけ離れた答えで返すと、ガスバーナーの噴射口を少女のさらさらとした白髪へと向ける。
「おっと、これは邪魔ですね。解いておきましょう」
「っ!!そ、それはおとうさんがくれたリボンなんです...かえして...かえしてください...お願い...」
「あー、お父さんからのプレゼントでしたか...それは残念」
真っ赤なシルク製の高級リボンにガスバーナーの火を近づけるとじりじりと燃え、まるで溶ける様に消えていく。
「あ...あぁ...やだ、やめて...うぅ...ぐすっ...えぐっ...」
「あー、これシルク製リボンだったんですねぇ。全部黒い粉になってしまいましたよ」
黒い燃え滓を手から払い落とし、思い出したかの様に泣き噦る少女の髪をバーナーで焼き始める。
「あ゛あ゛あ゛あ゛か゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!゛!゛あ゛つ゛い゛!゛や゛め゛て゛!゛わ゛た゛し゛の゛か゛み゛や゛か゛な゛い゛で゛!゛!゛」
髪と頭皮が焼かれ、チリチリという異音と亜硫酸ガス特有の刺激臭が焼き放たれる。
父親に優しく撫でられ、日頃から丁寧にケアしていた綺麗な髪の毛が瞬く間に焼け焦げて潤いを喪い、灰色の縮れ毛に不可逆変換されていく。
「ぐすん...うぅぅ...おかあさん...おとうさん...」
度重なる肉体的精神的苦痛に耐え切れず、もはや少女は啜り泣き、震える事しかできない。
その弱りきった様子のすべてが、怪物の糧であり、悦びであった。
「ははは、疲れてしまいましたか?大丈夫です。そろそろ終わりますから」
怪物は少女の臍をナイフでこじ開けつつ、ガスバーナーの噴射口を無理矢理押しこむ。
「ぐぎぃ!?」
そして、着火。
「ぎ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!゛!゛!゛!゛あ゛が゛ぅ゛!゛!゛あ゛つ゛い゛!゛!゛お゛な゛か゛あ゛つ゛い゛!゛!゛ぎ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!゛!゛」
体内で噴き上がる灼熱の奔流が生命維持に不可欠な主要臓器群を焼き焦がし破壊していく。
内側から加熱される事により少女の腹部は膨らみ上がり、赤黒く変色していく。
臓物が焼かれる事による筆舌にし難き匂いと煙が、少女の中から立ち昇る。
「が...あが...お、どう、さ...あがぅ!ひゅ...」
椅子が倒れる。少女の最後の言葉は、焼け爛れた内臓を陵辱せんとする怪物に押し潰され、誰にも聴かれる事なく消えて逝った。
4年 2組 21番 白露雪美(ハクロ ユキミ)
大好きなお父さんへ
私が感しゃを伝えたい相手は、私のお父さんです。
お父さんはやさしくて、思いやりのある人で、私ががんばった時はほめてくれて、私がだめなことをした時はやさしくしかってくれます。
私のお母さんが交通事こでなくなってしまって悲しくてどうすればいいかわからなくなっていた時も、お父さんは私をだきしめてせ中をさすりながら泣き止むまで「だいじょうぶ、だいじょうぶだから」と言ってくれました。
私も、お父さんみたいに自分がかなしい時でも、他の人のためにやさしくなれる人になって、お父さんにおん返ししたいです。
「クソ...!解けない...解けない...ッ!!こんな格好で...ふざけやがって..!!」
黒いパーカーを羽織った少女が縄で拘束されている。両手は後ろで縛られ、両脚は大きく開かれた状態で固定され、白い下着が露わになっている。
その表情は攫われた恐怖心ではなく、屈辱的な姿勢で拘束された事に対する怒りと反骨心に満ちており、拘束を解こうと暴れもがくたびに赤く染められたツインテールが靡き揺れる。
手を出せば噛みつかれそうな、まさに不良少女というに相応しい娘であった。
「あぁー、暴れないでくれませんか?そもそもあなたの力では絶対に解けないようにきつく結んであるので、大人しくしていた方が楽ですよ?」
「テメェ...アタシを攫って何が目的だ!!売春か?臓器売買か?ちょっとでも触ったらぶっ殺す!!」
誘拐犯を睨み付け、牙を剥き出しにして威嚇する少女。檻に閉じ込められても獰猛さを失わない凶暴な小動物を彷彿とさせる愛らしさと粗暴さを醸し出す。
「ははは、まぁそんな怖い顔しないでください。私はヤクザではありませんし、売春にも臓器売買にもちっとも関わっていませんから。ほらよく見てください、ただのおじさんでしょう?」
「...確かにさえないオッサンにしか見えねぇが...じゃあなんでアタシを攫ったんだ?」
「可愛いあなたの身体を、滅茶苦茶にするためですよ」
そう言うと間髪入れずに少女の下着を剥ぎ取り、パーカーをナイフで斬り裂いて小さく膨らんだ胸元を露わにさせる。
「な...ッ!!何しやがる!!やめろ!触るな!触るんじゃねぇ!!」
少女が暴れ叫ぶのも気にもせず、怪物の魔手は少女の下腹部へと伸びていき、白く滑らかな肌をぺたぺたと触り始める。愛撫、というよりはまるで何かを探り伺うかのように...
「どこ触って...あぅ...ッ!!そんなとこ...触るんじゃ...くぅ...!!」
敏感な箇所を弄られ、淫らな吐息が漏れ出す。
顔は怒りと恥辱により赤く染まり、涙を浮かべながらそれでも怪物を睨み付ける。
粗方触り終わった後、怪物は納得した様な表情で
臍の下辺りの腹部に思い切りナイフを突き立てて引き裂いた。
「ぐ、ぎゃああああああ!!」
絶叫、鋭い痛みが走り悶え狂う肢体。
見事な一閃で切り開かれた腹部に、怪物は手を挿し入れ、こじ開け、"目当てのもの"を力任せに摘出する。
「が─── ぎ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!?い゛だ゛い゛!゛い゛だ゛い゛!゛が゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」
ぶちぶちと音を立てながら"楕円形の二つの臓器と袋状の臓器"が引き摺り出される。
「あー、うん。やっぱり医学書に軽く目を通した程度では完摘は難しいですねぇ...すこし破けてしまいました。燐渚さぁん、見えますか?これ、あなたの卵巣と子宮」
「い゛だ゛い゛よ゛、゛い゛た゛...え?」
突然投げ掛けられた意味不明な言葉に、激痛に苦しみつつも一瞬、我に帰る。
卵巣?子宮?あの変な肉の塊が...?
アタシの?
少女は自分の性機能が粉砕されたという悍ましき事実に気付き、狂乱する。
「あ、あああああ!!かえ、して...アタシのしきゅう...かえして...っ!!」
「返してあげますよ」
切り取られた卵巣と子宮をまた少女の腹の中に無理矢理捻じ込みつつ、怪物はもう誰も宿さなくなった腹の上にのしかかり、破れて潰れた子宮口に男性器を挿入し、腰を振り始める。
「うぐっ!?あがっ!?ぎぃぃ!!がぁぁ!!」
腰を動かすリズムに合わせて少女の口からくぐもった悲鳴が溢れ零れる。
それが怪物の悦びとなり、何も産み出す事のない不毛に満ちた残虐なまぐわいは加速する。
死んだ子宮に精が注がれる。
当然、孕む余地など無く。
「ぁ...ぁ...がひゅ...」
鮮血と絶望に濡れながら、少女は息絶えた。
他者との繋がりが希薄な現代社会。人間関係に行き詰まり、生きづらさを覚え行き場を喪った若者たちがたむろするこの複合商業ビル周辺は様々な犯罪の温床となっている。
売春、未成年の風俗勧誘、麻薬売買、暴行事件、暴力団の関与...
それらに関連する事件に巻き込まれたと思わしき行方不明者も。
201█年 █月██日
普段からビル周辺を徘徊していたという石火矢燐渚(イシビヤ リオ)さん(14歳)は風俗街周辺の路地近くを徘徊しているのを友人に目撃されたのを最後に行方が分かっていません。
警察は暴力団関与の疑いも見て捜査を続けています。
「ところで……このジンベエザメちゃん、名前は何ていうんですか?」
二人でそれぞれ抱えている大きなジンベエザメのぬいぐるみ。
つがいである二匹、愛くるしい瞳のこの子はなんという名前なのだろう。
「名前ですか?……考えてませんでした。付けてあげたほうがいいんでしょうか?」
「えっ。えっと、その方が親しみが湧くというか呼びやすいというか……」
ぬいぐるみって、買った時に名前をつけてあげるものだと思ってた。
思いがけない返答に少し戸惑いながら言葉を返す。だって身近に触れ合うものだし、名前がないと呼んであげられないし。
もしかしてあんまり一般的じゃないのかな。急に込み上げてきた恥ずかしさを隠すように、抱えていたぬいぐるみを強く抱きしめる。
「なるほど、では……教会に着くまでの間に考えておきましょうか」
……クエロさんのネーミングセンス、凄く気になる。
ともあれ名前をつけて貰えるのは良かったねえ。心なしか嬉しそうな表情のジンベエザメを軽く撫でる。
私も何かお土産を買えばよかったかな……いや、帰る時に手荷物が増えてしまうとちょっと大変か。
とりあえず今は海遊館の余韻に浸りながら、ジンベエザメのやわらかさを堪能するとしよう。
私は今、クラゲに囲まれている。
仄暗い水槽の中に浮かび光を受けて漂う透明な命の群れは、静謐な宇宙に輝く星々を彷彿とさせる。
世俗から隔絶されたような静かな空間、足音一つなく、しかし無数の命が拍動する空間に私は紛れ込んでいる。
ここは大阪市港区に存在する日本最大規模の水族館『海遊館』。
大阪遠征が決まった際にどうしても行きたいと考えていた、大阪を代表する観光地の一つだ。
あまり公言したことはないが……私は水族館が好きだ。この薄暗く静かで、穏やかな光に包まれた空間が好きだ。
元々訪れる予定は立てていたがこのような事態となってしまい、諦めざるを得ないものと思っていたが……。
昨日の晩に何気なく「大阪には大きな水族館があるらしい」と話題に出したところ、返ってきたのは「では行ってみましょうか」という即答の言葉であった。
結果、貸し切り同然となった海遊館で私は4時間ほど時間を潰している。
2時間で館内を見て回り、残りの2時間は……このクラゲが揺蕩うエリアで消費した。
「それにしてもクラゲ専用のエリアなんて、不思議な区画ですねぇ」
私と一緒に一通り見て回った後、もう一度見て回りたいと言い探索に出掛けていたクエロさん。
その腕には大きなジンベエザメのぬいぐるみが抱えられていた。しかも二匹。どうやらオスとメスの“つがい”らしい。
水槽を眺めていた私の側に座り、抱えていた一匹のぬいぐるみが自分の膝の上に置かれた。
持っていて欲しい……ということだろうか。受け取ったジンベエザメを抱きしめるように抱え、再びクラゲに視線を戻す。
「日本だと結構一般的なんですよ。
北海道の水族館にも大きなものがありましたけど……ここはまた違った雰囲気で素敵です」
……それは私がまだ小学校に上がりたてだった頃。
両親に連れられて訪れた水族館で、壁一面の水槽に揺蕩うクラゲの虜となり数時間近く眺め続けていたことがあった。
結局その時は呆れたパパに抱えられて名残惜しくもその場を後にしたが、私は何時間でもこの景色を見ていられる。
何故私はこれほどまでにクラゲという生物に惹かれるのだろう。
彼らの在り方が私とは真逆だからだろうか。堅く、燃える火を以て心の平穏を成す私と水に浮かび揺蕩い続ける軟体生物。
絶対に自分が届かないものであるからこそ目を奪われる。己の人生と掛け離れたものであるからこそ興味深い。
この数日間も、これまでの人生から振り返ってみれば十分非日常的なものではあったが……それも言ってみれば日常と地続きのものだ。
非日常からも離れた独自の空間。外の世界とは全く異なる時間を彼らは過ごしている。その時間を、緩やかな流れを共有していたい。
ここで寝泊まりしたいな。なんなら、水槽に入ってずっと暮らしていたい。そんな突拍子もない妄想すら浮かび上がってくる。
そんな私の妄想を断ち切るように流れ出したのは、オルゴール調にアレンジされた「蛍の光」。
『当館は まもなく 閉館のお時間でございます。またのお越しを 心より お待ち申し上げております』
穏やかな女性の声に我に返り、ふと外を見てみると時刻は既に夕刻を過ぎていた。
もしこのまま館内に残り続けていたら……「水族館に泊まる」という、幼い頃から抱いていた夢を達成できるのでは。
そんな考えが脳裏を過ぎるも、今自分が置かれている状況を鑑み込み上げた欲望を振り払う。
「名残惜しいですが、暗くならない内に帰りましょうか」
「そうですねぇ、私も見てみたいものは見て回れたので満足です。
ジンベエザメの餌やりが見られなかったのは残念ですが……」
ジンベエザメ、気に入ったのかな。
上半身を覆い隠してしまえそうなほど大きなぬいぐるみを抱えながら、帰り際に悠々と泳ぐジンベエザメを眺める。
貸切状態の水族館というのも新鮮ではあったが、無人というのも少し寂しい。
クラゲの群れを見て心を癒やすことは出来たものの、この海遊館という水族館の魅力を全て味わえたわけではない。
やはりショーやアクティビティを始めとする賑わいもなくては……。
「……大阪が元通りになったら、また遊びに来ましょう!」
口を衝いて出た言葉は、励ましのようでもあり「もう一度一緒に出掛けたい」という本心から出たものでもあった。
この異変がいつ終わるのかはわからない。それでもこの戦いが終わって、大阪という街に平穏が訪れたなら……その時にはまた、この二人で。
ああ…本当に来て下さったんですね。
まさか二度も、私の嗜好を受け入れてくれる方に出会えるだなんて…💛
…「一度目があったのか」、ですか?
申し訳ありません。私は、初めてでは無いのです。
ですがご安心ください。今は貴方だけの私、この身も心も全て貴方に尽くします。ええ…身も、心も。
それでは、さあ、二人きりの晩餐を始めましょう。
まずは、される側になりたいのですね?では…少し痛みますから、これを噛み締めてください。
私の、手です。
舌を噛み切って終わってしまっては、いけませんからね…💛
では、失礼して……ふぅ💛どうですか、感じますか?
ずぶずぶ、と…💛ざくざく、と…💛貴方の傷一つ無いお腹に、ナイフが沈んでいきますよ…💛
そして、この辺りで…くぱぁ…💛ああ…綺麗な腸をしていますね💛とても、いいですね…💛
ぷにぷに…くにゅくにゅ…優しく握られると気持ちいいですよね…💛
あぁ…💛そんなに強く噛むと…💛いけません…💛初めてなのですから、もっと楽しめるように、我慢しないと…💛
ふぅ…💛ふぅ……💛どうでしたか…とても新鮮で、甘美な感覚を味わえましたか…💛
ああ、良かった…💛それでは、今度は…貴方の番、ですね…💛
えぇ…💛どうぞ、遠慮なく…💛鍵を挿すように、突き入れて…💛扉をこじ開ける、割り開いて…💛
貴方の手で…💛私の全てを、暴いてください…💛
晴谷咲鏖殺の道 を歩め。
kartrina 130(Toby Fox)/ The Murder
他薦
日常は既に消え去った。
開かれし
201█年 █月█日
警視庁
███司法警察官
本職は、201█年 █月█日 ██検察庁 ██検察官の指揮により、下記のとおり変死者又は変死の疑いのある死体の検視をした。
・死者の身元情報
氏名:藤乃原流美奈(フジノハラ ルミナ)
年齢:12歳
性別:女性
身長:151cm
体重:22kg
・検視時の死体の状況
全身に化膿した打撲痕と裂傷、重度の臓器損傷及び主要臓器の摘出跡、両眼球の破裂、脊髄・頭蓋・骨盤含む全身の骨折、精液及び膣液等の混合液の付着、重度のストレスによる脳萎縮の兆候
「このヘンタイ!外しなさいよこのベルト!!このバカ!クズ!」
「えぇ...嫌ですよ...外したらあなた逃げちゃうじゃないですか」
金属製の台に大の字で寝かされ、手脚をベルト状の手枷で拘束された幼い少女が、誘拐犯を睨み付けながら甲高い声で喚き、暴れ散らす。当然、そんな事で拘束は弛みはしない。
「くぅぅ...バカにして!アンタみたいな冴えないヘンタイ誘拐犯なんてすぐ警察に見つかって捕まるに決まってるわ!」
「そうですかね?これでも手際の良さと証拠の隠滅には自信があるのですが...さて、と」
「っ!!何する気!?触らないで!触らないでよ!!」
誘拐犯が「何かをしでかす」事を感じ取った少女は柔らかな肢体をくねらせ、儚げな抵抗を行う。
───それが怪物の糧とは知らず。
「あー、安心してください。"まだ"触りませんから...まずは下拵えをする必要がありますからねぇ。あー、そういえばランドセルにピアノの楽譜がありましたが、あなた...えー...最近の子は珍しい名前してるんですねぇ...るみなさん?弾けるんですか?」
「ちょっと!ルミのランドセル勝手に漁らないでよ!!弾けるからなに!?」
「もう弾けませんよ」
そういうと、拘束されて無防備な白く、繊細な、柔らかな少女の指先に
巨大な肉叩きが振り下ろされた。
「ぎ、ああああああああっ!!い゛だ゛い゛!!指が!!ルミの指が!!」
本来、食肉の繊維を引き裂き柔らかく食べやすくするためのギザギザとした打面は一撃で指の骨を砕き、赤紫色の内出血を引き起こす。
「なんで!?やだっ!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!ゆるしてっ!!やめてっ!!」
突然な激痛に指と共に生意気な心まで打ち砕かれた少女な泣き叫びながら懇願する。
「やめませんが...んー、何故謝るんですか?謝る必要なんてあなたには無いですよ?だって、私は何の罪もない、可愛くて滅茶苦茶にしたいあなたを、殺す為に攫ってきたんですよ?あなたは何も悪くない。だから、どうか謝らないでください」
「は...?なに、言ってるの...?」
怪物に懇願は届かず、少女に怪物の常識は理解できず。
悍ましき行為は続行される。
「じゃあ続けますねー、取り敢えず指全部砕きましょうか」
「待って!!やだやだやだやめてやめ───ぎっ!?」
まるで食肉を調理するかのような手際の良さで少女の指が叩き潰されていく。
親指、人差し指、中指、薬指、小指が順番通りに、リズミカルに、テンポ良く使い物にならなくされていく。
かつて白と黒の鍵盤の上を優雅に踊っていた両手の指は、赤黒く腫れ、肉が裂け、血が滲み、骨が砕かれ、永遠に踊る事をやめた。
「うぅ...ぐすっ...ゆ、ゆび...ゆびが...あぁ...」
激痛、絶望、恐怖に染め上げられ涙を零す。
小生意気で気の強かった少女はもう既に死んだのだ。
だが、まだ殺し足りない。これだけでは、怪物の渇きと飢えは満たされない。
「ふぅ...いたた、これは明日筋肉痛待ったなしですね...さて次は...胸行ってみましょうか」
「ひっ!!う...あ...」
可愛らしいゴシックロリータ風の服を乱暴に剥ぎ取られ、芽生えかけの乳房が露わになる。
乳房に肉叩きが振り下ろされる。
「かひゅっ.....あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!゛!゛」
白く滑らかな乳房が赤色に染め上げられる。
何度も、何度も、何度も、肉叩きは振り下ろされ胸肉をぐしゅぐしゅに叩き潰して行く。
「おっと...胸部は叩きすぎてはいけない。長く楽しめませんから...そろそろ脚に移りましょう。胸と顔は、最期の楽しみですから...」
「あぐっ!ぐふっ!ぎぃ!」
脚が潰れた。
「あ゛ぐ゛!゛ぐ゛ぅ゛!゛ぎ゛ぃ゛!゛や゛め゛!゛い゛だ゛い゛!゛」
性器が潰れた。
「が゛、ぐ゛ひ゛ゅ゛」
顔が潰れた。
「...........」
潰れた。
ヴラド・ツェペシュ
初音ミク《DECO*27》 / ヴァンパイア
他薦
傲岸不遜なる吸血姫。
薄暗い部屋の中で、少女は目を覚ます。もがくが、動けない。両手両脚はロープできつく縛り付けられている。見回すも窓はない。露出した肌にビニールシートが触れる。冷たい。見知らぬ地下室の床に転がされている。
「え...?ここ...どこ...?」
混乱、困惑。激しい頭痛を堪え、何があったのかを思い返す。
放課後、合唱コンクールの練習に夢中になるあまり帰りが遅くなり、陽の落ちた道を一人歩いていると突然横に車が止まって
ドアが開き
引き摺り込まれ
濡れたハンカチで口を塞がれ
一瞬のうちに
「あっ...!」
そこまで思い出してやっと少女は「自分が誘拐された」という事実に辿り着いた。
此処は何処なのか、なぜ犯人は自分を誘拐したのか、分からないことだらけの状況に不安と恐怖だけが降り積もる。
(こわいよ...これからどうなるの...?おとうさん...)
そう思った矢先、ドアが開く音、次いで何者かが階段を降りてくる音が地下に響く。
自分を誘拐した犯人がやって来たのだ。
(やだ...やだっ!こないで...こないでっ!!)
暴れもがいても拘束は弛まない。逃げ出し、叫び出したくも目に涙を浮かべ震える事しかできずに、犯人が姿を現す。
「おや...もう起きていたのですか。あー、落ち着いてください。暴れると縄が肌に食い込みますから」
少女の前に現れたのは黒い眼鏡を掛けた、自分の父親とそう変わらぬ年齢に見える何処にでも居そうな中年男性であった。
残虐で血も涙もない誘拐犯を想像して怯えていた少女は、イメージの違いにぽかんとした表情を浮かべることしか出来ない。
「あ、あの...おじさんがわたしを誘拐した人ですか?」
「誘拐?あぁ、んー..... はい。おじさんがあなたを誘拐した人ですよ。ところで、あなたのお名前は?」
「.....鈴華志保です」
「志保さんですか...いい名前ですね。それに、声がいいですねぇ.....好きですよその声、音楽の授業とかでいつも褒められてるでしょう?きっと」
誘拐犯とその被害者の会話とは思えない、のんびりとした雑談が繰り広げられる中、ややリラックスしてしまった志保は核心に迫る質問を投げかける。
「...あの、おじさんはどうして私を誘拐したんですか?わたしの家はお金持ちじゃないですよ?」
「何故誘拐したか、ですか?あぁ理由は大事ですからねぇ...まず髪がいい。短めでよく纏まった綺麗な茶髪、いいですねぇ好みです。声も良い、鈴を鳴らした様な声というのは志保さんの様な声を言うのでしょうねぇ、実に美しく、可愛らしい」
「えっ...えっ...あ、ありがとうございます...?」
自分を攫った理由を聞いたのに、帰ってきた答えは自分を褒め称える言葉ばかり。危機感の薄い志保はストレートな賞賛に相手が誘拐犯である事も忘れ、照れてしまう。
「実に可愛らしくて...とても、とても...無茶苦茶に引き裂きたくなる」
そう言うや否や、誘拐犯は隠し持っていた研ぎ澄まされたナイフを志保の喉に突き立てた。
「あぐっ!?ぎ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」
喉に走る激痛。絶叫が溢れ出し、響き渡る。身を捩らせ意味不明な叫び声を上げるたびに、振動に併せて突き刺さったナイフがまるで生きているかの様にびくびくと動き震える。
意外にも出血量は少ない。声帯と頸動脈を避けてナイフを刺したからだ。首を壊す時は注意しないと直ぐに死ぬという殺人鬼の経験による、精密な一撃。
「あぁ...ははは、いい声ですよぉ志保さぁん!!」
本性を表した怪物は下腹部を曝け出し、いきり勃った性器を露出させ、それを悶え苦しむ少女の股に...挿入しない。
怪物は少女の儚く小さな胸にのし掛かるとナイフを引き抜き、傷口に指を突っ込むと"丁度いいサイズ"まで無理矢理広げる。
そして
「あが...かひゅ...んぅ!?あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛い゛だ゛い゛い゛だ゛い゛い゛だ゛い゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
志保の喉の傷を性器に見立て、陵辱行為を開始した。友達から羨ましがられ、いつも両親に褒められた美声の源泉に付けられた痛々しい傷口を無遠慮に怪物の怒張がぐちゃぐちゃと蹂躙していく。
声にならない声を捻り出し、目を見開いて涙を流すのもまるで気にせず、寧ろ声帯の震えは更なる快楽を齎し、涙は潤滑液となり、猛り狂う怪物は喉に腰を打ち付けまくり、どくどくと精を零した。
「ぎぃ...がひゅ...ごほっ、げほっ...」
志保の口から泡立った大量のピンク色の液体が吐き出される。血液と唾液と精液の混合物だ。
「ふぅ...いやはや本当に綺麗な声だ...きっと志保さんは将来有名な歌手にでもなれたんでしょうねぇ...」
怪物は、笑う。喜びだけに満ちた顔で、笑う。
悍ましき宴は一晩中続き、後には四肢を引き裂かれ、喉を粉砕された物言わぬ屍体だけが残った。
本件は調査中の事件被害者の身元情報です(画像はご家族の許可を得て添付)。
名前:鈴華志保(スズカ シホ)
性別:女性
不明当時の年齢:11歳
不明当時の学年:小学5年生
身長:142cm
警視庁ホームページ『行方不明者詳細情報』より
(該当者発見により、現在は非公開。ご協力ありがとうございました)
**レア度☆4
**基本ステータス
|center:|center:|center:|c
|~能力値|初期値|最大値|
|HP|||
|ATK|||
|COST|12|12|
**所有カード
|center:|center:|center:|c
|~Buster|Quick|Arts|
|1|2|2|
**使用スキル
|center:|center:||c
|~スキル名|継続|center:効果|
|孵化する悪夢 [A]|3|敵全体に恐怖状態(発動確率:40%)を付与(1回)|
|^|3|敵全体に「自身がやられた、または後衛に移動する時、自身を除く味方全体に恐怖状態(発動確率:50%)を付与(1回・3T)する状態」を付与|
|^|3|自身に確率(70%)で回避する状態を付与|
|対文明 [C]|-|敵全体の必中状態を解除|
|^|3|敵全体のスター発生率をダウン(30%)|
|^|3|自身に〔機械〕特攻状態(50%)を付与|
|因果消失(異) [A+]|3|敵単体にオーダーチェンジ不能状態を付与|
|^|3|敵単体の自身を除く味方への強化成功率を大ダウン(100%)|
|^|3|敵単体の自身を除く味方からの被強化成功率を大ダウン(100%)|
**パッシブスキル
|center:||c
|~スキル名|center:効果|
|正体不明 [C]|自身のクラス相性の有利不利を打ち消す(解除不能)|
|^|自身に宝具封印状態を付与(解除不能)|
|未知の怪物 [EX]|自身の弱体耐性をアップ(100%・解除不能)|
|単独漂流 [EX]|<宝具使用後に付与される>|
|^|自身のクリティカル威力をアップ(12%・解除不能)|
|^|自身のクリティカル攻撃耐性をアップ(12%・解除不能)|
|^|自身に即死無効状態を付与(解除不能)|
**宝具
|center:|center:|center:|center:|c
|~宝具名|ランク|種類|種別|
|&sup(){〔行方不明〕}&align(center){消息、異境の暗澹に逝きて}|C++|Quick|対領域宝具|
|>|>|>|敵全体の回避状態を解除&やや強力な攻撃+敵単体(ランダム)に確率(60%)で〔神隠し〕状態((パーティから消失する特殊な弱体状態。効果終了後は後衛の最後尾に復活する))を付与(5T)&付与成功時、その敵以外の敵全体に恐怖状態(発動確率:50%)を付与(1回・5T)|
虚空恐怖症提出です
便宜上レアリティやコマンドカード、基本ステータスがありますがエネミー専用なので消したり書き換えて良いと思います
ストレンジャーのクラス相性はこちらでは決められませんでした
そちらが提示した強化成功率ダウンやオダチェン不能の他、複数の恐怖状態や確率回避などの面倒な効果を使って面倒なバトルを仕掛ける性能にしています
スキルのCTはエネミー用なので消しました 1ターンに同じスキルを複数回使うことはないでしょうが毎ターン使うことはあるかもしれないです
特定条件で発動するなどはそちらで設定をお願いします
エネミー専用という特殊形式なので分からない点や追加したい点がありましたら相談に乗ります
|(スキル名)|自身の「正体不明 [C]」「未知の怪物 [EX]」を解除|
|^|自身に「単独漂流 [EX]」を付与|
|^|自身の弱体状態を解除|
|^|自身のチャージを最大まで増やす|
ディードのイメージソングをリクエストします
甘い期待感みたいなものは一瞬で吹き飛んでいった。
真ん中高めに浮いた半速球は見事にバックスクリーンまで一直線にかっ飛んでいった。かっきーんと。
「なんですかこれは!」
「なにって、私の部屋ですけれども………?」
「ぐちゃぐちゃだー!」
私の背後にいるクエロさんがさも不思議そうに返事をするのが逆に不思議でならない。
クエロさんの私室は端的に言って無秩序によって支配されていた。
部屋にはこれといって個人を象徴するような装飾はない。
まあ、クエロさんはこの聖杯戦争に合わせてやってきたピンチヒッターという話だからそれはそんなものだろう。
しかしある意味で実にこの部屋に住む個人らしい彩りになっていた。
下着や肌着、箪笥の上に放りっぱなし。洗って干したままなのだろう。畳んですらいない。
修道服も右に同じ。広げられて椅子に引っ掛けられているせいでどうにか皺になっていないのが奇跡だった。
本は床に積まれている。というか、そのうちの数冊は床に散らばってさえいる。
極めつけは、こちらにやってきた時のものであろうトランクケースが開けっ放しで転がっていた。
中にはまだ取り出されていない物や取り出されたのにそのままぽいっとトランクケースに放られた物が山を作っている。
まだ洗濯物やゴミが床に散乱していないのがマシだ。そんなひどい有様だった。
「クエロさん! 片付けようとか思わないんですかこれ!」
「ほわぁ………?」
ほわぁじゃないです。そんなぽかんとした顔をしても駄目です。
どうも彼女に会ってからきちんとしたところしか見てこなかったせいでクエロさんに対して完璧な人という印象が私の中にあった。
そんな像がガラガラと音を立てて崩れていく。こうして思い返してみると確かに予兆はあった。
洗濯物の籠に昨日の洗濯物が入れっぱなしになっていたりとか。干したものが夜になっても仕舞われてなかったりとか。
食事に関してはいつも美味しいものを作るのですっかり騙されていた。
「仮に私がこんなふうにしているところをお母さんに見られたら………見られたら………怖いですよ!」
「怖いんですか」
そうです。怖いのです。
思わず身の毛がよだつ。ここにきて母の顔が鮮明に思い出された。
母は全く怒った顔を浮かべない人だったが、同時に怒りん坊だ。母が怒った時の恐ろしさは父の比ではない。
私が部屋をこんなふうにしているのが見つかった暁には「こちらに来なさい梓希さん」と呼ばれてお説教が始まってしまう。
そうして淡々と諭されることのまぁ怖いことと言ったら。ちなみに父にも似た感じで怒る。あのいかめしい父がそんな母の前では尻尾を丸めている。
それを思い返しているだけで私はいてもたってもいられなくなった。駄目だ。我慢できない。
「クエロさん! 片付けをしますけれどいいですね!?」
「え?はぁ、まぁ、はぁい」
クエロさんがぼんやりと頷くのに合わせて部屋に突入する。ちなみに駄目だと言われても説き伏せて実行していた。
修道服はクローゼットへ。本を本棚の空いたところに詰め込み、下着類を箪笥に収納していく。
下着はどれもレースがあしらわれた大人っぽいデザインだった。先程までの私ならちょっとドキドキしながら手に取っただろうが、今の整理整頓の鬼となった私には通用しない。
箪笥の上で小山になっているそれらを解体した後はトランクケースだ。
ちょこまかと動き回る私を見ているだけだったクエロさんの腕を引っ張ってトランクケースの前に座らせた。
「荷解き! しましょう!」
「えー………でもぉー………別にこのままでも大丈夫じゃないですか~………?」
「よくありません! ちゃんと整理しないといざという時にどこにあったか分からなくなっちゃいますよ!」
そうですかねー、そうかもしれませんけどー、と曖昧なことを言うクエロさん。
分かってしまった。すぐ気付けなかった自分の愚かさに私は歯噛みした。
この人は自分ではちゃんとしているつもりだけれど本当は全然そんなことなくて、周りから見たらお世話が必要な人なんだ………!
「なんですかこの瓶、ケースの隅に入ってましたけど」
「あー、それ応急処置用の薬瓶ですね~。というかそんなところにあったんですね~」
「ほらやっぱり!」
このトランクケースのどこに入っていたんだと思わせる量の物品の仕分けに結局小一時間は費やすことになってしまったのだった。
「っ………!」
手が痺れる。そう思ってすぐに違和感に気づいた。“手が痺れる?”
もう私は剣道において初心者ではない。竹刀を受け損ねたとしても手が痺れるようなことはない。そういうのは握り方の甘い間だけのことだ。
それがクエロさんの打ち込みはまるで鉄塊でも受け止めたかのようだった。
単純に力任せに叩き込まれたのではない。まったく正体が判別できないが、このたった一瞬で知らない身体の動かし方をされた。
竹刀を取り落としそうになるが、膝を割って後ろに倒れ込むようにたたらを踏み必死に堪える。
すぐ戻せ、すぐ構えろ。地面に足を縫い付けるようにして留まり、再び竹刀を握り直して構えた。
一瞬の攻防の中でこの人の剣気のようなものが微かに見えた。夜の帳で何もないように隠しているが、一枚捲ればそこには剣呑な凶器がずらりと並んでいる。
今牙を剥いたのはその内のたった一本。そしてすぐにそれは仕舞われ、クエロさんは再び凪いだ湖面のような静かな正眼の構えに戻っていた。
「はッ、はッ、はッ………、はは、は………っ!」
一気に乱れた呼吸を整えようとするのだが、それよりもさきに笑いがこみ上げてしまった。
強い。知ってはいたけれど、分かってはいたけれど、この人は物凄く強い。私が出会ってきた人たちの中で一番強い!
どきどきと胸が弾む。初恋のように気分が高揚する。心地よい絶望感に唇が弧を描く。
駄目だ。今の私ではどんな手を打っても勝てる気がしない。一番得意な剣道でさえ歯が立たない。道大会を優勝したくらいで少しは上達した気になっていた自分が馬鹿みたいだ。
道に果てがないことの証左を前にして、私は自分でもびっくりするほど心を踊らせていた。
と、隙なく構えを取っていたクエロさんがふと緩めて剣を降ろした。
ほんのりと首を傾げながら微笑む。水面に張った薄氷を割るような、くっきりとした感触を覚えるあの笑みだった。
「素晴らしいですね。センスだけなら私よりも上です。あなたは剣に愛されている」
「そ、そうですか?でも今だって完全に押し込まれちゃって………」
「ですが剣を落とさなかった。並々ならぬことです。私とは積んだ時間の差があるだけ。あなたは良い剣士になれます」
はっきりとそう言われると面映ゆい。つい頬が紅潮してしまう。
何を褒められるよりも剣の腕を褒められるのが一番嬉しい。どんなことよりも心血を注いでいればこそだ。
クエロさんに稽古をお願いしてみてよかった。たぶん私は今、普通に全国大会に出場していたのとは違う種の濃密な経験値を稼いでいる。
強くなりたい。もっと、もっと。いろいろ理由はあった気がしたが全部忘れた。ただ、強くなりたい。
この人が修練でもって丹念に一本ずつ磨き上げただろう技のひとつひとつを手にとって、見て、自分のものにしたい。
もっと知りたい。もっと触れたい。この人のことを。この人の強さを。この人の心を。もっと。もっと。
クエロさんが構え直す。応じて私も降ろしていた竹刀の切っ先を再び眼前に備えた。
剣の向こうでクエロさんが微笑んでいる。それがどこか楽しげだったのは気のせいだろうか。分からない。
「もう少し続けましょうか。私も少し気が乗ってきました」
「はいっ!」
そして始まる間合いの調節。今度は影がついてくるように気配のない足取りで踏み込んできたクエロさんの袈裟斬りを必死で身を捩りながら回避しなければならなかった。
軽く数手、と言っていた打ち合いは気がつけば1時間以上経っていた。
終わってみれば私は全身汗だくだったのにクエロさんは冷や汗ひとつかいていなかったのが癪ではあったかな。
不思議だ。
クエロさんには好意を持っている。優しいだけの人ではないけれどきちんと温かみを持った人だ。
いや、微妙なぎこちなさを鑑みると『持とうと努力している』というのが適切な感じがする。
ともあれ私へ気遣ってくれているのは確かで、それに対して感謝や憧れといった複雑な感情を持っているのも間違いない。
それでも、こうして竹刀を握って相対すると浮かんでくる気持ちはひとつだ。
───倒す。目の前の相手を斬る。
たったひとつのことに純化していく感覚が気持ち良い。自分でも目が据わっていくのが分かる。
小さく、長く、深く、息を吐き出す。一緒に余分なものが抜けていく。鋭く研ぎ澄まされていく。
すごくいい感じだ。周囲の音が消えて、代わりに真っ赤な鉄を打つ音を幻に聞く。強い対戦相手を前にした時に自然と高まっていく己の集中を悟った。
教会の裏庭。目の前にはクエロさんがいる。私が貸した竹刀を握っている。
ぴたりと正眼に切っ先を置いたその構えに癖のようなものは感じられない。
無色透明。それは誰にでもできる構えだからこそ、易くは誰にもできない構え。人は構えひとつとっても癖が出る生き物だからだ。
力みもなく、だからリズムも読みにくい。仕掛けるタイミングが掴めない。
そういう時は相手の目を見ろと師範に教えられていた。覗き込む。深い虚のような、どこを見ているのか分からない瞳が出迎える。
竹刀を握っていなかったら、その目を見て怖いと思っていたかもしれない。
でも今は違う。剣の呼吸を聞いている。どうしてか、その目と見つめ合ってとても安心した。理由はすぐに思い当たった。
そうか。わざわざ私と同じところで付き合ってくれるのか。
構えに色はない。この人の剣のこの人らしさを知りたい。小手調べに踏み出した足を僅かに前へにじり寄せた。
「───」
途端、クエロさんの影が微かに淀む。小石のひとつやふたつ分、足の裏を滑らせて後ろに退いた。
ミリ単位の間合い調節。クエロさんは柔らかく膝を矯めてこちらを待ち構えている。
もう少し踏み込めるかと進ませかけた爪先が安全弁に引っかかったように止まった。
直感が走る。もう数ミリも踏み込めばクエロさんは待ちの姿勢から即座に攻めへ切り替えてくる。
間違いない。ここが私から攻め込める距離の分水嶺だ。そうと分かればいつまでも睨み合う必要はない。
相変わらず拍子は読めない。ならこちらから乱す………!
「えぁッッ」
空気を撓ませたのは裂帛の気合。
腹の底から弾けさせた叫び声と共に私は予兆なく肉薄した。
クエロさんの脳天めがけて拝み打ちを放り込む。必要最低限の力感で。
躱されれば更に踏み込む。受けられれば手元が上がって空いた首から下を攻める。
面打ちは剣道を始めれば最初に習う攻めであり、全ての基本となる一手。そして基本とは一番強いから基本なのだ。
対して、クエロさんは僅かに切っ先を揺らめかせた。
降り落ちる私の竹刀の横からまるでそっと指先で払い除けるように竹刀が添えられ、横にそらされる。
手元は上がらなかった。擦りあった竹刀が鍔のあたりでがちりと食い込んだ。踏み込んだ私と退かなかったクエロさんで竹刀を交わしあい、距離が密着した。
さっきまで間合いを挟んで見えていた目が至近距離にあった。その眼差しは先程と変わらずまるで揺らがない。
ぞろりと歯を尖らせた心が獰猛に笑う。その顔色を変えさせてやると。
首元へねじ込むようにして竹刀を斜めに押し込んだ。膂力だけではなく自分の体重全部を使って崩しに行く。
竹刀を絡めていたクエロさんが半歩下がる。リズムを読んでこちらも僅かに下がる。空間が開いた。瞬間、押した竹刀をそのまま降ろして面を取りに行く、と見せかける。
その切っ先を寸前で素早く引いた。すぐに最小限の矯めを作る。身体を開きながら素早く胴を打ちに行った。
崩しからの引き面をフェイントにした引き胴。自信を持って打った技だったが、敵もさるもの。
まるで面打ちの打ち気の無さを分かっていたように私の横薙ぎの一閃が払いのけられる。けれどまだだ。攻めろっ!
宙に浮いたクエロさんの竹刀を振り払うように斬りつけて前に出ようとした、その時だった。
打ち払おうとした竹刀が幻のように私の竹刀をすり抜けた。予想外の出来事に頭の中でアラートが点滅する。
何が起きた?刹那の間に把握した。竹刀の重みに任せて切っ先を沈めたんだ。虚空を打った竹刀が死に体になる。
戻せばまだ間に合う!勘によって動作を途中で止めた分復帰も早かった。
表へ戻した竹刀が迎え撃ったのは、竹刀を肩へ担ぐように振りかぶったクエロさんの激烈な打ち込みだった。
仮称:虚空恐怖症
☆4、B1A2Q2、クラススキルは『単独漂流:EX』、『正体不明:C』、『未知の怪物:EX』
保有スキルは『孵化する悪夢:A』、『対文明:C』、『因果消失(異):A+』
宝具は全体クイック『消息、異境の暗澹に逝きて』
エネミー専用。宝具はダメージこそ控え目ですが強化成功率ダウンやオーダーチェンジ不能など面倒なデバフを撒いて消耗戦を強制するイメージです。
ドラキュリア喪失帯
暁Records / BloodDark -紅霧異変譚-
他薦です
世界観にかなりベストマッチかな?と思いました
「むっ、焼き鳥ですか。美味しいんですよねえ、私は塩で食べようかな!」
串カツ屋での一幕。
次々と熟れた手付きで串打ちを続けるクエロさんが差し出したのは、豚バラ肉と玉ネギを交互に刺したもの。
“やきとり”だ。揚げ物ばかりでは飽きが来るということで、ここで一本シンプルな焼き串を用意してくれたのだろう。
肉であることに変わりはなく、箸休めと分類するには些か重たいものであれど、今の私は何だって食べる。
それに豚肉は好物だ。特に塩胡椒で焼いたこの“やきとり”は、子供の頃から食べ馴染んだメニューの一つである。
うん、美味しい。この大阪であっても変わらぬ味わいに思わず頬を綻ばせる。
熱い内に食べ進め、最後に残ったブロックを器用に食べ……そこで、クエロさんが驚いたような表情を浮かべていることに気がついた。
「……焼き鳥?」
それは純粋な驚きの表情。
困惑というよりは認識の齟齬、理解のための“間”が生じているような逡巡の思考。
まるでコンピューターがデータ処理に手間取って生まれたシークタイムのような、奇妙な空白が生まれていた。
……クエロさんのこんな表情、初めて見たかも。
えっ、でも“やきとり”だよね。
私は生まれてこの方、これを“やきとり”だと信じて疑わずに生きてきた。
パパもこれが“やきとり”だと言って食べていた。ママも、そんなパパの言葉を信じて“やきとり”と呼んでいた。
同級生も、先生も、それどころか道すがらの居酒屋に掛けられた看板にだって“やきとり”としてこの串の写真が載せられていた。
だからこれが“やきとり”でしょ?そうだよね。……なんか、クエロさんに驚かれると自分が間違っているのかと疑いたくなる。
後日。改めてその名称の違和感を確かめるため図書館に出向いたところ。
豚串を“やきとり”と呼ぶのは北海道独特の文化で、それも一部地域に限られたものであるらしい。
…………思いがけぬカルチャーショックに気を失いかけた。そうなんだ、“やきとり”って……焼き鳥じゃなかったんだ。
勿論できます。
泥へのリンクと簡単な解説があれば分かりやすいでしょう
機神ガイア
『ENDER_LILIES: Quietus_of_the_Knights』/Mother - Intro
他薦
ラスボスBGM、デザインが花繋がり
何よりも我が子らを愛したが、本人は望んでいなかったにも関わらず我が子らと敵対せざるを得なかった。
スレで出ていましたがこの泥に合うイメージソングを探して欲しいみたいな使い方はできますか?
異聞新秩序侵襲
初音ミク《ハチ》 / 砂の惑星
他薦
『戸惑い憂い怒り狂い たどり着いた祈り』
『君の心死なずいるなら 応答せよ早急に』
叫んでくれ、我らの新世界を君が否定するなら。
教えてくれ、君達の世界は間違っていないのだと。
日向ココノ
PLEASURE/華原朋美
他薦
とにかく明るい曲調、コンセプト元との一致、歌詞も所々合ってると思う
じゃらじゃらとアパートの屋上に鳴り響く、鎖の巻き取られていく音。
終端に至ってばちんと腕と腕が接合した瞬間、「ぐえっ」と苦悶の悲鳴が上がった。
床に投げ出された人影は蹲ってげほげほと咳き込んでいたが、やがて猛然と首をもたげてクエロさんを睨みつけ………。
「い、いきなりなにすっ………ぎゃあ!?代行者!?」
………睨みつけたのだが、じろりと睨み返したクエロさんを見た途端に顔色を変える。
以前クエロさんが魔術師と教会の人間は基本的に反目する仲と言っていたのが伝わってくる反応だった。
四つん這いで地上を見ていた私はそんなふたりの間ににじり寄り割って入った。空気を読んだわけではない。というかとてもそれどころではない。
「黒野さん、怪我はありませんか!?」
「え、アズキちゃ、じゃなかったアズキさんどうしてここに」
へたり込んだままの黒野さんの正面で彼女の身体を急いで確かめる。
………良かった。スーツ姿のどこにも目立った傷はない。露出している少し浅黒い肌も煤がちょっとこびりついている程度だ。
爆発によってまるでゴム毬みたいに勢いよく吹き飛ばされていたように見えたのだけれどどうやら何らかの防御を行っていたようだった。
目を白黒とさせる黒野さんの手を取って私は語りかけた。
「私がお願いしたんです、黒野さんを助けて欲しいって」
喉まで出かけた言葉を飲み込んだような表情で黒野さんは私を見て、それからクエロさんを見上げる。
私には向けたことのないような冷たい目線でクエロさんは応じながら鼻を鳴らした。
「聖杯戦争の参加者であろうとなかろうと、魔術師などいくらお亡くなりになっても一向に構わないのですが。
ですが、まぁ。彼女はあなたがマスターではないと保証しましたし、ならば監督役として保護の義務が一応無くもない気がしますので」
「………礼は言いませんよ。私は巻き込まれた被害者というわけではありませんし、私ひとりでも逃げ切ることは可能でした」
「あはー。防御用の礼装を贅沢に使っておいて余裕ですねー。このままここから投げ落としてもいいんですよぉ?」
火花が散っていそうな遣り取りに私がおろおろしかけた頃、再び轟音が耳をつんざくように迸る。
足場にしているアパートがずしりと揺れる。5階建ての屋上にいるのに眼前の虚空を火の粉が舐めていった。
サーヴァント同士の激突がかくも恐ろしいものだということは既知であっても身を竦ませる。
冷静な態度でその余波を観察していたクエロさんは目を細めながら呟いた。
「監督役が彼らの戦いに故なく干渉するわけにもいきませんから早急に立ち退いたほうが良いですね。では仕方ありません」
その台詞の気色を耳にした私の頭の中で警告音が鳴る。メーデーメーデー。凄い既視感。今からろくでもないことが起きる。
だがそれに反応するよりも早く、クエロさんは有無を言わせない剛力で座ったままの私と黒野さんを腋に抱え込んだ。
そのまま屋上の縁に足をかける。私のげっそりとした気持ちを人に伝えられないのが残念だ。
「ちょ、やめっ、何しようとして…待って、本気!?」
「ああ、嫌だなぁ………辛いなぁ………寿命が縮むなぁ…」
荷物のように抱えられて顔を青褪めさせる黒野さん、諦念からもう微笑むしかない私。
「黙っててください舌を噛みますよ」と仏頂面であっさり言ったクエロさんは次の瞬間には縁を蹴り、屋上から飛び降りた。
「きゃぁぁぁああああっ!?」
「ひゃぁぁぁああああっ!?」
重力から解放された体内の内臓が浮き上がるこの感じ。みるみるうちに地面が近づく恐怖。
うっかり漏らさなかった私のことを私は心の底から褒めてあげたいと思った。
「ご主人様、アトラス院より催促状が届きました。
『速やかに組織内で匿っている番外七大兵器をアトラス院に引き渡す事を要求する』、とのことです」
『…分かった。ご苦労』
とある都市の高層ビルの最上階、都市全域が見渡せる一室。
窓の傍に立つノイズ塗れの存在…BOSSは、クレピタンから受け取ったなぞのそしき宛の手紙を読み終えると、何時ものようにふっと笑った。
『今は何もしなくていい。いや、手出しは厳禁と皆に伝えておいてくれ』
「…よろしいのですか?ご主人様が望むのであれば、わたくしの力を、」
『いいんだ』
心配そうな眼差しを向けるクレピタンの肩に優しく手を置くBOSS。
『君の力を疑ってはいない。…だが、奴らアトラス院の技術力も決して侮れるものではない。
私は組織の長、君たちの命を預かる者として、君たちの安全をできる限り保証する義務がある。
…何、安心してくれ。こちらには取って置きの切り札がある』
そう言ってBOSSは懐(本当にそこが懐かは分からないが)から取り出したのは、
凛々しく立ちながらも可愛らしい表情をした少尉の写真だった。
「…ご主人様、その…」
『おっと、間違えた。こっちだったか』
写真を仕舞い、改めて懐から出したのは一枚の用紙だった。
「それは、確か…」
『アトラスの契約書だ。私の噂にあるだろう?あれは、真実だったということだ』
割と隠していた方の秘密だったのだがな、と言いながらBOSSはその契約書を懐に仕舞う。
『もしもあちらが実力行使を図るようであれば、これを使えば交渉ぐらいはできるだろう』
「アトラスの契約書は、確か世界に7枚しかない物の筈。それをご主人様は、一員を守るために…」
『当然だ。ニナだけではない。皆、我が組織には決して欠かせぬ人材だからな。
そして当然、君もまたその1人だ』
クレピタンに顔を向けるBOSS。
『何かあれば遠慮せず言うといい。君の働きは、私にそうさせるだけの価値があるのだから』
ノイズ塗れでその表情は見えない。
だがクレピタンの瞳には、BOSSの雄々しき眼差しが視えていた。
胸が迫る。比喩表現でなく、目の前に胸が迫る。
眼鏡のレンズ越しに、視界の全てを覆い尽くすほどの胸が門前に迫る。
これほどの距離となれば大きさなど些細なものだ。いや、それにしても大きい方ではあると思うけど。
不意に現れたそれを見て思わず呼吸が止まり────同時に、突沸を起こしたように心臓が跳ねる。
丘。双丘が唐突に目の前に現れた。
修道服というのは基本的に露出も無く、黒一色ということもあって起伏も目立ちにくい服装である。
クエロさんの……スタイルすらも包み込み抑え込んでしまうほど、修道服というものが秘める「清楚」の力は強い。
だが、今。目の前に迫る双丘は普段意識してこなかった「起伏」を明らかにして、「清楚」の力を刃に変えた。
向かい合い、胸が門前に突き出される。その一瞬だけで私の思考回路は……弾け飛ぶ寸前であった。
辛うじて理性を保っていられたのは、直前まで呼んでいた本のおかげであろう。
司馬遼太郎著「北斗の人」。北辰一刀流の開祖を主役とする作品で、物語中にて説かれた剣理の大宗がこの理性を救ってくれた。
「……どうかしましたか?」
「え、えっと……その、なんでもない……です」
それでも僅かに赤みを帯びる頬を本で隠し、そそくさとその場を立ち去る。
“それ剣は瞬速、心・気・力の一致なり”。一瞬の隙の中であれだけ心を乱されているようでは、私もまだまだだ。
心を鍛えなければ。何事にも平時で臨む鉄の精神を宿さねば。ぱんぱんと邪念を払うように、頬を叩いて自室へと戻る。
……それにしてもあの起伏。私もいつか、あれくらいのサイズ感を得られるのだろうか。
“私、剣道の大会が終わった後は大阪グルメを食べ尽くそうって話をしていたんです、友達と。………紅生姜の串揚げ、食べてみたかったな”
共に無人の街を歩く最中、出しっぱなしで風に揺れる暖簾を見てふと呟いたのだ。言えばクエロさんがこんなふうにしてくれるかも、なんて欠片も思っていなかった。
現在の選択を後悔しているわけではないけれど、それはそれで本来ならばあり得た未来を空想してつい口にしただけだった。
返しの言葉が『食べればいいじゃないですか』で、こうしてこのようなことになっているわけだけれども。
それでも想像をする。もし聖杯戦争なんて起きず、私は剣道大会を終え、友人と共に束の間の大阪観光をしていたならば。
優勝していたならば祝勝会だったろうし、敗退していたなら残念会。それでもきっと友達たちと一緒にお腹がはち切れそうになるまで大阪名物を詰め込んで、そして帰りの飛行機に乗っていた。
きっと大はしゃぎだったろう。きっと美味しかったろう。きっと楽しかったろう。そうやって日常に戻っていったろう。
私は日常の裏に潜む非日常のことなど露ほども知らず、再び剣道に打ち込む日々を送り、高校生に進学しても相変わらず剣道を修めて、そして………。
当たり前の日常にずっと心地よく微睡んでいたはずだ。そんな感傷をあの暖簾を見た時に覚えた。
………不意に目の前の皿へ揚げ串が差し出されて我に返った。
串に刺さって揚げられていたものは私がこれまで口にしたものとは違うものだ。纏った黄金色の衣の奥で微かに赤色を帯びていた。
クエロさんを見つめる。彼女はあの特徴的な薄っぺらい微笑みで、どこかはにかむような調子で言った。
「見つけるのが遅れてすみません。紅生姜というのは私には馴染みがなくて。お漬物を揚げるという発想に思い至るまで時間がかかってしまいました」
「───。………いただきます」
串を手にとって口にした。さくりと解ける衣の感触。ぴりりと舌先を刺激する生姜の優しい刺激。梅酢がもたらす日本人が慣れ親しんだ酸っぱさ。
揚げ物なのに油っこさなんてまるで感じない、とても軽やかであっさりとした味。食べるだけで口の中がすっきりとしてくる。
いいや。正直に言おう。名物と聞いて期待したほど美味しくはなかった。決して不味くはなかったけれど、十分美味しかったけれど、なるほどこういうものか。そう納得する程度の味ではあった。
これが年齢を重ねて油がキツくなった頃に食べればまた違う感想があるのかもしれない。プロが揚げればこの程度ではない、更に信じられないくらい美味しいものかもしれない。
だがまだ14歳の私からすればこれでもかというほど脂っこいものでも美味しく感じられる。
だから物足りなさみたいなものを覚えたかといえばそれはそうであり───そして、それらを圧倒的に凌駕する形で満足感が私の心に押し寄せていた。
つい微笑んでしまう───気遣ってくれたんだ。私のことを。クエロさんなりに。
この人は人の気持ちを慮ることについては不得意だ。いや、鈍感と言ってもいい。それはこうして共に同じ時間を過ごすようになってきて分かるようになったことだった。
型にはまった定型的な感情の遣り取りならば無難にこなせるが、より個人的で複雑なものになると判断が及ばない。横にいた私がフォローすることがあったくらいだ。
以前その理由をクエロさんは少しだけ話してくれた。
“───私は感情過多の反対、感情過小なんです。喜、怒、哀、楽。当たり前に人が感じるそれを当たり前に感じることができない───”
その時の申し訳無さそうなクエロさんを見た時の感情は、不思議と憤りだった。
どうしてあなたのような凛とした人が、そんなことでさも悪いことでもしたかのようにびくびくと怯えているんです。ちょっとくらい人の気持ちが分からないのが何だっていうんです。
私だって剣道部の後輩と意思疎通が上手く取れず悩むくらいそれは普通のことなのに、そんなことで───そんなことで、そんな辛そうな顔をしないで欲しい。
だから、そんなクエロさんがきっと彼女なりに一生懸命考えて私のことを気遣ってくれたこと自体が、びっくりするほど嬉しかった。
そこには気遣い上手では与えることの出来ない、不器用な人の不器用な気持ちがあったから。
彼女が揚げてくれた紅生姜の串揚げを、最後の一欠片を嚥下するまでじっくりと私は味わった。飲み込んでからクエロさんをカウンター席からじっと見つめて言った。
「美味しかったです。ありがとうございます」
「そうですか。まあ、そういうことでしたら。お粗末様です」
正面から礼を言ってもクエロさんは何も変わらない。次の分の串揚げの用意をし始めるだけだ。
いつもと変わらない、ただ穏やかなようでぎこちなさが薄っすら漂う返事。そこに微かな照れがあったと思ったのは私の気のせいだろうか?
追加の豚串をフライヤーに放り込みながら、ぼそりとクエロさんが呟いた。
「………次はお魚が駄目になる前にお寿司屋さんですかね」
「えっ」
───結局、あの大量のバッター液とパン粉が全部無くなるまで串揚げは揚げられ、私とクエロさんは食べまくった。
店を出る時にレジへ書き置きとともに入れられた数枚のお札は全部経費で落ちるということなので私の罪悪感は軽減されたのだった。
「なぁんだ。そんなの食べればいいじゃないですか~」
………などと、私のぼやきにクエロさんがあっけらかんと答えたのが10時頃のこと。
それから2時間後。唖然とする私の目の前でクエロさんがちょっとした無茶をやらかそうとしていた。
「ちょ………いいんですか!? こんなことして!?」
「いいんじゃないでしょうか~。冷蔵庫こそ稼働しているとはいえ、食品はそう遠くない内に駄目になってしまいますし」
さもまっとうなことを言ったとばかりにあっけらかんとしたクエロさんが冷蔵庫を物色する後ろ、フライヤーがぐつぐつ音を立てている。
小さな串カツ屋のフライヤーである。先程クエロさんが油を注いでガスコンロへ手慣れた様子で火を入れてしまったのである。
言うまでもなく不法侵入である。店に誰もいないのだから仕方ないとばかりに、あまりにも堂々とした我が物顔なのである。
鍵が開いているのをいいことにずかずかと無人の店舗へ乗り込んだクエロさんはやりたい放題し始めちゃったのである。
はわわ、と戸惑う私の前で冷蔵庫に保管されていた食材が次々と取り出されていっていた。
適当に取り出し終わると卵と小麦粉も出してボウルにぶちまけ、バッター液を作り出してしまう。あああ、そんなにたくさん。
「わ、私ん家は前にも言った通り仏教徒なんですけどっ! そちらの神様的にこれはアリなんですかっ!?」
「あはー。対価さえ置いていけば泥棒にはなりませんよ。ほら、主がお恵みくださった糧を無駄にしたらそれこそ罰当たりです。
だから大丈夫だいじょーぶ。はぁい、じゃんじゃん揚げていきましょうね~。あ、キャベツ食べます? 日本のパブではお通しと言うんですよね」
「しょうもない! 気付いてたけど! 薄々気付いてたけどこの人しょうもないっ!
仕事以外のことになるとこの人すっごくしょうもなくなるっ! あーあー、パン粉もそんなにいっぱい出してっ!」
なんて言っている間にクエロさんは豚肉やら海老やら蓮根やらに串を通すとバッター液とパン粉を潜らせ、ひょいひょいとフライヤーに投げ込んでしまった。
途端にぱちぱちと食材が揚がっていく美味しそうな音が店内に響き出す。同時に私の空きっ腹が串カツモードへとフォームチェンジする。
もう駄目だ。串カツを食べなければ心が歪んで人間ではなくなってしまう。揚げ物ビーストになってしまう。
畜生。もう知るか。私はあらゆることを受け入れることにしてザク切りにされたキャベツをお店の秘伝のタレ(2度漬け厳禁!)につけて齧った。
くそう、美味しいなぁ。ただキャベツをタレを塗しただけなのに何でこんな美味しいのかなぁ。
………しかし、カウンターの奥で修道服姿のお姉さんが串カツを次から次へと揚げている姿は目がちかちかするほど似合わないなぁ。
「うん。ちょうどいい頃合いですね。はい、揚がりましたよ。
えーとぉ、これが豚でこれが椎茸、これが海老で、あとは蓮根に帆立に茄子………それからぁ」
「手当たり次第に揚げたんですね! やったぁ美味しいそうだなぁ! いただきます!」
私の目の前へどんがどんがとお祭りのように盛られていく串カツたち。
最早ヤケクソだ。揚がっちゃったものはどうしようもない。知ったことか、どうとでもなれ。
私は日本人である。日本人は海老が大好きである。なので海老の串を手に取るとこれでもかとタレの入った缶に突っ込み、一口でぱくりと咥えた。
途端、押し寄せる滋味。歯を押し返してくる海老の身のぷりぷりとした弾力。タレの何重もの層となって襲い来る奥深い味わい。
そう。これだ。これが食べたかった。本当は、友人たちと。
「───………美味しい」
「あはー。そうですかぁ? どれ、私も試しに………、うん、ちゃんと揚がってますねぇ。
どんどん食べちゃってください。冷蔵庫の中にあるもの、手当たり次第に揚げてしまうので~」
揚がった茄子をタレにつけて頬張り、満足気に頷くクエロさんを後目に豚串をチョイス。
もう止まらなかった。私は腹が減っていた。うおォン、私はまるで人間火力発電所だ。
たぶん本当の職人が揚げるものからすれば稚拙な出来なんだろう。割と料理上手ではあるが、さすがのクエロさんも揚げ物調理のプロじゃない。
でもそういうことじゃない。その時の私にとってはそれはそういうことではなかった。
クエロさんが揚げていくものを次から次へと口に運ぶ。自慢じゃないが、私は物心ついた頃から激しい剣道の修練に打ち込んできた身だ。
当然物凄い体力を消耗するので常人の摂取カロリーでは到底追いつかない。必然食事で補うことになる。結果胃袋が鍛えられる。
おまけに食べ盛りだ。ご飯が炊けていないのが惜しかった。その分、まるで飲み物のようにするすると串カツは腹の中に収まっていった。
何本目だったろう。ブロッコリーの串揚げ(これがタレをたっぷり吸って馬鹿にできない美味しさ)をばりばり咀嚼しながら思った。
「は~あ、今日もボスを殺せませんでした。残念ですねェ」
『何、この程度で殺されては君のボスを名乗るのには不足だからな』
用意した手の内を出し尽くしてなおBOSSを殺せず、両手を腰に当てて息をつくコロシスキー神父。
一方、ノイズ塗れの姿で彼の前に立つBOSSには(そもそも顔は見えないが)疲労の色が見えず、その両手にはコロシスキーが放った聖書の頁が一つ残らず指で挟み取られていた。
『しかし、今回の聖書投げは見事だった。頁速もそうだが面制圧の綿密さに成長を感じたぞ』
「それを受け止め切ったボスに言われるのも複雑ですねェ~」
落ち込んでいる…ように見えて既に切り替えてBOSSを殺す方法の考案を始めているコロシスキー。
そんな彼の脳裏を読んでなお、BOSSは変わらず不敵に笑う。
『安心しろ。君に殺される気は当然無いが…君以外に殺される気も毛頭ない。
これからも精進するといい。私はいつでも、君の挑戦を受け入れる』
「…んもォ~ッ、殺し文句が上手いですねェボスったらァ~ッ!」
照れ隠しにヘッドショットを仕掛けるコロシスキーと、それを軽く避けるBOSS。
なぞのそしきで日々繰り広げられる、ありふれた何気ない一幕であった。
「きゃーーーー!」
「うぉぉぉっ!?」
いつかのエルメロイ教室で、割とよく見られた光景。
不幸体質の少女が階段から転げ落ち、たまたま下にいた男子生徒にフライアウェイしていた。
「むっぐ…!んーー!」
当たりどころが良かったのか悪かったのか、どしんと音を立てて地面に倒れ伏した頭の直上には、少女の尻がみっちりと乗っていた。
「……あっ、ごっごめんなさいヒューゴくん!すぐ退きますから…!」
少女、ディオナが再び体勢を崩しそうになりながらもヒューゴの顔面を解放すると、赤面しきった顔のヒューゴはすぐに叫んだ。
「お前な…!いつもどうせ脱げるからって最初から履いてないのはどうなんだ!?」
「えっ…ええっ!?な、何の事ですか…?」
「下着の話だ下着の!ぱ・ん・つ!一応スカート越しとはいえなぁ、俺になんつーアダルトな不幸をぶちかましてんだお前は!こう…もっと自分を大事にしろ!」
「え、えぇっ!?そんな…今日は確かちゃんと履いて…あれ?ない…?」
自分のやった事を認識したのか、みるみる内に顔が赤く、そして青くなるディオナ。
「うぅ……こ、こんなことをしてしまうなんて…。……もしかして、私、神様に…」
「おい待て、その考えはまずっうぉぉぉぉぉ!?」
魔術の効果が薄まった瞬間、校舎のありとあらゆる部分から様々な崩壊が始まり、再び絶叫が響いた。
──なお、結局この件については、ディオナが下着をうっかり忘れたという結論で片付いたのだが、ロードとヒューゴの胃痛は暫く止まなかったということは最後に記しておく。
「……ごちそうさまでした。シスターさん、これ凄く美味しいですよ!」
「あはー。そうですか?そう言っていただけると作った甲斐がありますねぇ」
ふぅ、と一息零し手を合わせる。
カレーに対して名残惜しさを感じたのは久しぶりだ。
手作りでこれほどのクオリティを出せるものなのだろうか?改めてシスターさんに対しての印象が塗り替えられる。
しかし……この辛さを乗り切った代償も大きい。
具体的には汗が凄い。爽やかさこそあれど、肌に張り付く程まで濡れたパジャマは無視できない。
今すぐにでもシャワーを浴びて着替えたいところだが、生憎制服は全て洗濯に出してしまった。
どうしよう……流石に今の状態で街を出歩くのは恥ずかしい。例え街中に人が居ないとしてもだ。
……悩む私の表情に気がついたのだろうか。
シスターさんが少し考えた様子を見せると、頭の上に電球を浮かべたような閃きの表情で
「アズキさんも替えの衣装が足りないんですか?それなら────そうですねぇ。まだメイド服は余ってますし、一緒に着てみません?」
「…………えっ」
数時間後。
昼下がりの大阪にて、某衣装ブランドの袋を両手に持ったメイド服姿の少女二人が目撃された。
二人を撮影した女子大学生(22)曰く「アッシュグレーの子はニコニコしてたけど、金髪の子は燃えそうなくらい顔真っ赤にしてた」……とのこと。
「どうぞ、カレーです」
カレー。
差し出されたお皿には、若干の赤みを帯びたカレーが盛り付けられている。
……カレー?予想していなかった献立に思わず思考がループする。うん、このスパイシーな香りは間違いなくカレーだ。
一般的なカレーと比べて、ルウの粘度が控えめだ。
スープとルウの中間。ライスの間をすり抜けていく程度の水気だが、完全な液体というほどのものでない。
具は大きめにカットされたレンコンやサヤインゲン、そして牛肉。
一見すれば「家庭のカレー」とはかけ離れた、本格的なカレー屋で作られたような見た目である。
そのクオリティもあって二重に驚かされる。これ、いつの間に作ったんですか。
「……い、いただきます」
しかしこの赤色に若干の躊躇いを覚える。
先日、想像を遥かに超えた辛さの麻婆豆腐でノックアウトされたばかりな私にとって……この赤さは、怖い。
口内の傷も癒えていて多少の辛さであれば耐えられるだろうが、最悪傷口が開きかねない。
恐る恐るスプーンを口に運ぶ。
カレー自体は好物の一つだ、よほどの辛さでなければ問題はない─────っ。
「………………こ、これは」
美味しい。とても美味しい。
見た目通りスパイシーな香辛料の風味でありながら、ただ辛さだけがあるのではなく
それを包み、刺々しさを緩和させる爽やかな風味……レモングラスの香りが良く活きている。
唐辛子をベースとする辛味と柑橘系の酸味に、もう一つ。このコクは……ココナッツミルク?
辛味と酸味の相乗効果の中に甘みというエッセンスが加わることで、奥深い味わいを強く醸し出している。
遅れて広がるのは牛肉の旨味。想像していたカレーよりもエスニックな風味だが、途轍もなく美味しい。
勿論見た目通りの辛さもある。一通りの味が過ぎた後、一足遅れて辛さが駆け込んでくる。
しかしそれは突き刺すような「痛み」でなく、辛さという確かな「味わい」だ。
辛い、辛いが美味い。口に広がる辛さを打ち消すべく、もう一口が食べたくなる。
初夏の蒸し暑さすらも吹き飛ばしてしまうような爽快な辛さ。
同じ汗には変わりないはずなのに、寝起きの汗とは比べ物にならないほど爽やかな汗が込み上げる。