小学校2年生の女の児児童と日本語を学び始めました。
わたくしは、「日本語を教える、支援する」という表現よりも、「共に学ぶ」という表現が好きです。これはまた、現実をよく言い表していると思います。
ところで、最近の日本における言語生活の在り方には大いに問題があると感じています。国会中継の議員や政府の答弁がその最たるものですが、事程左様に日常生活の言語表現や言葉のやり取りでも同じことが言えそうです。加藤周一が「(日本語の)言葉は流行すると定義を失う。」と指摘しています。その最近の事例が、「紐づける」ではないでしょうか。歴史的には、「彼は紐だ」「紐付き融資」「紐がついた金」という用法が主なものです。政治家は政治資金でひも付きが常態化しているので、平気で使うのだろうかと疑いたくなるのはわたくしだけでしょうか。デジタルカードのアプリの追加や連動して動くようにすることは、「組み込む」や「連動させる」「セットする」「パケットで」という意味なのではないでしょうか。それとも「芋ずる式にする」ということなのでしょうか。もっとわかりやすくとは、独自の比喩表現を用いないで、端的に言うことではないかと考えています。
ちょっと横道にそれましたが、使う言葉が予想しなかった意味を持ったり、予想外の場面を想起させたりします。
外国の方との日本語の学びでは、異文化への配慮が欠かせません。今回は悪いしぐさと言葉の事例を考えてみました。
しぐさやサインは文化圏が異なると、全く予想もできない意味の相違があることは最近ではよく知られています。
今回は「中指を立てる」しぐさに関するものです。
Aさん「中指を突き立てるのは、・・・(中略)。もともとの意味は「死ね」ではないのですが・・・私の孫(小2)もやりますので、この年代にとっては、普通になってしまったようで、大変に残念ではありますが・・・彼らにとっては、我々と異なり、大きな意味はないかもしれません。」
考察:文化圏によっては、罵りや罵倒、蔑みを意味することを知っている方ですが、形だけを見様見真似でしている現象と捉えています。「残念だ」という評価をしていますが、現在のように情報があふれているとやむを得ない現象ということでしょか。意味を伴わない形態だけの物まねというとらえ方です。
Bさん「中指の件については、手の甲を相手に向けて中指だけを立てると強い侮辱の意味になる事が欧米含め多いようです。・・・(中略)
日本では差別的な意味はあまり周知されていない・・・。(中略)。しかし、欧米でこのポーズをやった場合、日本語にすると「くたばれ」などという意味になり、殴られたり、最悪の場合殺されるようなポーズになります。」
考察:海外の文化圏における忌避される意味に言及して、たとえ意味をしらないで行っていても重大な過ちであるとの認識の発言です。
海外経験や社会常識のある方々の認識をご紹介しましたが、明らかに相違に気づかれたと思います。A「意味をしらずに行う形だけをまねた行為」とB「意味を知らずに行っているが、重大なタブーを犯す行為」というとらえ方です。
これは、多文化共生の社会を創っていこうとしている、今のわたくしたちのおかれている言語空間における課題ではないでしょうか。「楽しく過ごした」イベントや学習会の隙間に落ちている、見過ごしがちな課題ではないでしょうか。
皆さんはいかがですか。
宮本敏弥(地域日本語教育コーディネーター:文化庁H29研修修了)