まだ考えない人
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2024/11/26 (火) 21:21:28
月明かりによって薄く照らされている空の下で、
大量の兵士が森の中を息を殺しながらゆっくりと進んでいる。
全員が迷彩服やヘルメットにカモフラージュ用の樹木を付けており、
遠くからでは周りと見分けがつかないほどの偽装がされていた。
前方には、木製の簡易的なトーチカと塹壕で構成された防御陣地があった。
人はほとんどいないように見え、明かりはどこにも点いていない。
中隊長が、ハンドサインで攻撃指令を伝える。
全員が銃を構え、突撃に移ろうとしたその時ー
「来たぞ、撃て!」
その瞬間、空に数発の照明弾が発射される。
あまりの明るさに偽装は効力をなくし、
その場所めがけて大量の銃弾が飛んでいった。
木製の簡易的なトーチカからは断続的に機銃弾が放たれ、
さらに一定の間隔を置いて迫撃砲弾が飛んできている。
「こちら第2中隊より本部!
現在敵兵と交戦中、規模は大隊レベル!
遅滞戦闘を行いながら後退する! オーバー!」
無線を握りしめながら中隊長が叫ぶ中、
森の奥からはひっきりなしに敵兵が突っ込んでくる。
森の中から一発のロケット弾が放たれ、
トーチカを兵員ごと吹き飛ばした。
「もういい、囲まれる前にさっさと後退しろ! 急げ!」
阻止砲火を張りながら、兵員が全速力で後退していく。
通報 ...
「突击!突击!」
銃剣を取り付けた突撃銃を槍のように構えながら、
トラストゲリラたちが一直線に突き進む。
その奥では、先ほどと同じように
木製トーチカや塹壕、鉄条網で構成された
チェコ軍の防衛線が再び広がっていた。
「まだだ! まだ撃つなよ!」
全ての銃口が目の前に向けられ、
指は引き金にかけられている。
それでも、未だ発砲命令は出ない。
「まだ撃つな!」
敵影が段々はっきりとしてくる。
弾薬が欠乏しているのか、あるいは全力疾走しているのか
敵兵にも銃を撃つものは誰もおらず、
戦場には大勢の足音と迫撃砲の着弾音だけが響いていた。
「畜生、正気じゃない! まだ撃てねぇのかよ!?」
敵の先頭グループが鉄条網を飛び越ようとした、その時だった。
「今だ! 撃て、撃て、撃て!」
その瞬間、全ての火器が火を噴いた。
機関銃が敵兵を片っ端からなぎ倒し、
生き残った者も集中射撃を食らって蜂の巣にされる。
「敵が多すぎる!航空支援はいつ来るんだ!?」
そう言いながら、機関銃手は断続的に射撃を行っていた。
山の中に作られた大隊指揮所では、
大隊長とその副官が指揮を執りながら話し合っていた。
「第2中隊は?」
「遅滞戦闘を行いながら撤退中です。
包囲される恐れはないかと」
「そうか…空軍はどうした?」
「COIN機がこっちに向かってます。
あと2分ほどで到着すると思われますが、どうします?」
「空爆と同時に撤退させろ。
そのあと予備兵力で叩く」
「了解です。 前線部隊に伝達します」
チェコ空軍のマークを付けた4機のCOIN機が、
爆弾とロケット弾を抱えて戦場へと突っ込んでいく。
「超低空で行くぞ! 編隊を崩すな!」
搭載している兵装が森の中に向かって無造作に放たれ、
そこにいた敵兵を片っ端から吹き飛ばした。
「総員撤退! 急げ!」
数時間後、空には朝日が昇っていた。
日光が山々に反射し、あちこちで反射して綺麗に光っている。
そんな景色を見ながら、ライラ・ニーニコスキは兵舎に入っていった。
奥では、チェコ軍の砲兵隊が敵兵めがけて盛んに砲撃を行っている。
「撃て!」
その言葉とともに、砲列が一斉に火を噴いている。
8発の152mm榴弾砲が空を駆け抜けていき、遠くにうっすらと見える山中に着弾した。
「あ、おはようございます」
中に入ると、ミレナ・レヴァーが朝食を食べていた。
砲撃の騒音のせいで、テーブルの上に置いてあるスープが小刻みに揺れている。
「おはよ、ミレナちゃん」
「ライラさん、こんなに揺れてるけど本当に大丈夫なんだよね?
今にも崩れるような気がするけど…」
「大丈夫ですよ。これぐらいじゃ崩れません。」
椅子に座りながら、向かい合って彼女はそう言った。
「あ、そうだ。今日の戦況は?
昨日の夜に随分ドンパチやってたみたいだけど…
知ってる?」
「いや、さすがに知らないです」
「ま、そうですよね」
レーションの袋を開けながら、
ライラは窓から再び榴弾砲の射撃を眺めていた。
「こちらブラボー・ノーベンバーより本部。
今の戦況を確認したい、オーバー」
「こちら本部。昨日深夜に敵軍の攻勢があり、
チェコ軍の防衛戦が突破された。
敵軍は包囲から脱出しつつある。
予備兵力と撤退させた兵員で防衛戦を構築中。アウト。」
一方そのころ、テオドル・リネクは無線で現地司令部から戦況を聞き出していた。
状況はこちら側にやや有利と言ったところか。
(…これで、敵が進める進路は一つだけか)
それを聞いた後、彼は無人機オペレーターの所へ向かって歩いていく。
「やあ。 どうだ、敵の動きは?」
「偵察機をひっきりなしに飛ばして探してます。
まあ、すぐに見つかるでしょう」
「そうか。見つかったら教えてくれ」
「はい。 見つかったらすぐにでも… ん?」
「どうした。 何か見つけたのか?」
モニターを見ると、木が茂っている山道の中に
何かがうごめいているのが見える。
「敵か?」
「さあ… もうちょっと近づいてみます」
次の瞬間、カメラのフラッシュにも似た
一つの閃光が映った。続いて映像が急に回転し始める。
「畜生、撃たれた! 墜落するぞ!」
その映像を見て、テオドル・リネクは冷静に返答した。
「そんなに叫ばないでくださいよ、心臓に悪い…
とにかく、これで敵は見つかりましたね…
あとは殺すだけですよ」