莆田市は混沌に包まれていた。路を覆い尽くしているのは鉄パイプや雑多な銃を持ち自由と独立を叫び続けている暴徒達であり、その様子を怠惰な警官達が誇らしげに眺めている。その様相はまさに80年代の天安門広場を思い起こさせるような光景だったが、それを気にしている者は誰もいない。それは、この出来事は1ヶ月以上前から続いている事であり、莆田市に住む住民の多くが「暴徒達は自分達を全く気にしてなんかいない」ことを知ってからは住民達もまた彼らを気にすることはなかったからだ。
だがこの日は少し違った。
兵士達は楊煌明の命を受けプラカードを掲げる群衆の前に立ち塞がる。布で顔を覆い今にも飛びかかりそうな暴徒達はひたすらに自分達を解放するように訴えていた。彼らの中には労働組合のメンバーやただ仕事をすることを強要されてきたサラリーマンもいることだろう。そのうちの誰かが兵士達に向けてレンガを投げつけた時その場の空気は一気に怒気に満ちた。暴徒達は一斉に兵士達へ噛み付くように襲いかかり一方その兵士達は正面から彼らを弾き飛ばす。気づいた時には現地警察すら彼らの味方をしていた。このまま放っておけば事態はいずれ取り返しのつかないことになる、兵士の誰もがそれに気づいていた。そんな中無線が司令部からのたった一言の命令を読み上げる。
「行政長官閣下が命令を下された。その場にいる共産主義パルチザンを全て銃弾の餌食にしろ」
1人の兵士が目立たず、だが印象に残るような重低音を鳴らすと彼らのリミッターは簡単に外れてしまった。206名いた兵士のうち、その時撃たなかった兵士のは39名だった。彼らは自身が今後生きる上でこの時のことを思い出し罪悪感を感じない為撃つのを躊躇っていたが、なおも自分達に向けてレンガを投げる群衆と今後部隊内でどのような扱いを受けるかを考えて結局引き金を引く決断を下す。その様子も見てしても最後まで群衆に銃口を向けなかった兵士はたった4名のみだった。
死屍累々とはまさにこの事を指すのだろう。耳を劈くような重低音が数十秒にわたって響き渡り、先程まで威勢よく独立と自由を訴えていた煽動者とそれに従属していた群衆は皆、今では言葉にもならない喘ぎ声をあげ銃弾により引き裂かれた腹から小腸と血が飛び出さないよう必死に押さえつけていた。兵士達はそんなことを気にせず彼らの頭蓋骨からスープのように溢れる脳髄を靴に擦り付けながら逃げ惑う1000人近くの人影を追うべくゆっくりと歩き続ける。群衆達は皆、次のチャンスを求めていた。散り散りとなりただ逃げ続ける。次は南昌だ、次こそは…、次こそは……。
蜘蛛の子を散らすように
(人的資源 -397)
企業国家に共産主義、社会主義、進歩主義などと言う思想は要らないので大規模な粛清を行っている状況です。